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第42話 三人の国王と王妃と王子

 ランナの両親であるガイスとエリーナは今、ジョルノ国の辺境の街・モーメントで二人で暮らしている。

 元々はランナとポーラを含む一家4人で住んでいた家であり診療所だが、両親の失踪後はランナとポーラが薬師となり引き継いでいた。

 ランナとポーラが嫁いだ今は、また両親が戻ってきて薬師となり診療所を引き継いでいる。


 今日も家には多くの患者が訪れている。初老の男性は久しぶりに見る夫婦の姿に涙を浮かべている。


「ガイス先生、エリーナ様、お久しぶりです。戻って来てくださって嬉しいです。やっぱり私にはお二人の薬が一番効きます」


 16年以上前に二人が王城に連行された時の事を知る住民は多いが、詳しい事情は知らされていない。

 ただ、国からは二人を『処刑した』との通達があったので、街の人たちはランナとポーラに『両親は死んだ』と伝えていた。

 今でも二人を慕う住民は多く、神格の聖者である夫婦の魔法薬を求めて来る患者は尽きない。

 しかし、訪れる患者の誰もが新たな疑問を口にする。それは当然の内容だった。


「今度はランナちゃんとポーラちゃんが王城に連行されたと聞きましたが、何があったのですか?」


 まるで両親と入れ違いのようにランナとポーラがいなくなったので心配の声が多い。

 しかしガイスは、この質問の返答には慣れてきた。その答えを堂々と誇りを持って返せるのが嬉しい。


「連行ではありませんよ。ランナとポーラは国王に嫁いだのです」


 多くの人はそれを冗談と捉えて笑うが、真実を知って街中が大騒ぎになるのは、まだ少し先の話。

 今日の診療は午前中のみで終了して、ガイスはリビングの椅子に座って休憩している。

 キッチンで料理をしていたエリーナが白いエプロン姿でリビングに入ってきた。ガイスは壁掛け時計を見て時間を確認する。


「もうすぐ来る頃かな」

「昼食にはハンバーグを作ったわ。ランナとポーラの好物だから」

「お、いいね。僕も好きだよ、エリーナのハンバーグ」


 昔と変わらない会話をしていると、玄関のドアの呼び鈴が鳴る。エリーナが駆け足で玄関まで行くとドアの鍵を開ける。

 ドアを開けると、ランナが飛び込むようにして家の中に入ってきた。


「母さん、ただいまっ!!」

「ランナ、お帰りなさい」


 ランナの後ろにはヒルもいて、国王にしては控えめな装いと態度で頭を下げる。

 エリーナの後ろからガイスもやってきて、玄関先のランナを見ると優しく微笑む。


「お帰りランナ。そして小さな王子様は初めまして、だね」


 ランナの腕の中には生後一ヶ月ほどの赤子が抱かれている。金髪金眼の小さな向日葵のような子で無邪気に笑っている。ヒルにそっくりだ。


「父さん、ただいま! ふふ、可愛いでしょ? 名前はヒルマ。よろしくね!」

「ヒル様によく似ているね。すでに王の貫禄があるよ」

「ランナにも似てるわよ。笑った顔がそっくり」


 ランナとヒルの息子の名前はヒルマ。ヒルの前世である悪魔の名前をそのまま受け継いだ。そして未来の第三国王である。

 盛り上がる親子三人を尻目に、ヒルは玄関を上がってリビングへと進む。診察室でもあるこの部屋を見ていると幼い頃の懐かしい記憶が蘇ってくる。


(やっぱり、この家はいいなぁ。オレとランナの初恋の場所だしな)


 そうしていると、玄関の呼び鈴が再び鳴らされる。ランナとヒルの夫婦に続いて訪れたのは、黒髪の夫婦。ポーラとヨルだった。


「父さん、母さん、ただいま。あら、ランナはもう来てたのね」

「……お邪魔する」


 ヨルはポーラの後ろで小声で挨拶をする。バツが悪そうな顔をしているのは、ガイスとエリーナを地下牢に16年間も幽閉したのだから当然だ。

 その件に関してはヨルも謝罪して和解したし、ヨルを憎む者は誰もいない。

 その事よりも、ガイスとエリーナはポーラの抱いている赤子に注目して目を輝かせている。黒髪金眼の男の子でヨルにそっくりだ。


「名前はヨルデオよ。ヨル様に似て無愛想だけど可愛いでしょう?」

「おぉ、この子も貫禄があるなぁ」

「落ち着いてる感じがポーラにそっくりね」


 ポーラとヨルの息子の名前はヨルデオ。ヨルの前世である悪魔の名前をそのまま受け継いだ、未来の第二国王である。

 広くはないリビングに大人6人と赤子2人が揃って賑やかになると、さらに玄関の呼び鈴が鳴らされる。

 王城から馬車に乗って遅れて到着したのは銀髪の夫婦、アサとモニカだった。


「こんにちは、お邪魔いたします。ここに来るのは久しぶりですね」

「お邪魔いたしますわ。すみません、アサルトが泣き止まなくて」


 アサは爽やかに挨拶をするが、モニカは少し慌てている。腕の中に抱いている赤子、アサルトが大声で泣き声を上げているのだ。

 モニカに続いて、さらに外から二人の軍人が室内に入ってきた。黒い軍服姿の軍隊長・デイズと、副隊長・カレンの親子である。

 なんと二人は簡易式のベビーベッドを手に持っていて、手際良くリビングの壁際に3台設置した。

 そして二人は皆の方を向くと軍人らしい敬礼すをる。


「ジョルノ国軍、軍隊長・デイズでございます。王子様たちのお世話はお任せください」

「同じくジョルノ国軍、副隊長・カレンでございます。ミルクもおむつ替えもお任せください」


 さすがは執事長とメイド。カレンはガラスの哺乳瓶と布おむつまで持参してきている。

 二人は国王と王妃たちの遠出の護衛として同行しているが、赤子の王子たちのお世話も兼任している。

 モニカは、泣き止まないアサルトをカレンの腕の中に預ける。


「カレンさん、アサルトをよろしくお願いしますわ」

「承知いたしました」


 そうして三人の王子たちをベビーベッドに寝かせると、カレンはアサルトのおむつ替えを始める。

 その様子を隣で見ているデイズは、なぜか感慨深そうにして黒い瞳を潤ませている。


「……? 父上、どうしたのですか」

「カレンの赤子の頃を思い出して……私もよく、おむつ替えをしたものだよ。可愛かったな」

「……任務中です。私語は謹んでください」


 カレンは赤くなった頬を見られないように前だけを向いている。

 初めてデイズとカレンが親子らしい会話をしているところを見たランナは思わず微笑んでしまう。


「さぁ、みんなで母さんのハンバーグ食べよう! すっごく美味しいんだから!」





 ジョルノ国には、三人の国王と三人の王妃と三人の王子がいる。

 朝昼夜の三重人格だった陛下は、アサ・ヒル・ヨルの三人の陛下となり、それぞれが王妃と結ばれた。

 そして息子の王子たち、アサルト・ヒルマ・ヨルデオの三人は未来の国王となる。


 ジョルノ国の『国王は三人』という独自の伝統は、愛がある限り血筋として繋がり永遠に続いていく。

 それは遠い昔の悪魔と聖女から始まった、終わりのない愛と運命の物語である。


―完―

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