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第41話 ヒルとランナの初恋

 三重人格だったヴァクト陛下が別々の三人の人間になった事実は、城の者たちに大きな衝撃を与えた。

 しかしながら、今まで世間的には三つ子の三兄弟としていたので、国民には衝撃を与えずに済んだ。


 16年前に病死とされていた先代の王・クロノスと、王妃・エリスが生きていたという事実に関しては国民にも衝撃を与えた。

 クロノスとエリスは三人の息子に対して、正式に王位を継承させた上で王城に隠居という形で落ち着いた。


 今まで同一人物だったアサ、ヒル、ヨルが揃って会話をしている姿は新鮮で、三人を見かけた城の者たちは思わず二度見してしまう。


「せっかく国王が三人いる訳ですから、仕事は分担しましょう。僕は午前中を担当します」

「オレは夜だけ働く。昼間はヒルが働け」

「なんでだよ! 夜に仕事なんてないだろ、ヨルは遊びたいだけだろ! 理不尽だぁ!!」

「今まで通りって事ですよ」


 アサ、ヒル、ヨルは今まで通りに三兄弟、三人の国王として生きていく。

 長男のアサ、次男のヨル、三男のヒル。形式上ではあるが、なぜかヒルがいつも三番目。末っ子にされたヒルは理不尽だと言うが、誰もが妙に納得してしまう。




 諸々の調整が全て終わって生活が落ち着き始めた頃、ランナはようやくヒルとの時間を噛みしめる余裕ができた。


「ふふ。ヒルくんと夜に一緒に寝られるって、当然の事なのに嬉しいなぁ」


 夜の就寝前の時間、ランナはベッドの上に座って枕を抱きしめている。

 今まで昼の時間しか一緒に過ごせなかった二人だが、今は朝も夜も一緒にいられるだけで嬉しい。

 白い寝間着を着たヒルはベッドの上に座ると、ランナの顔ではなく服装を見て微笑んでいる。


「今日のランナのネグリジェ、すっげぇ可愛いな。くぅ、脱がすのが、もったいねぇ!」

「……ムード台無しよ、バカ」


 ランナは抱いていた枕でヒルの頭を叩く。怒って拗ねたふりをしてベッドに倒れると、すぐにヒルも体を倒してランナを両腕で包む。

 仰向けになると見えるのは、空でも天井でもなくヒルの黄金の瞳。まるで太陽のように眩しくて目を細めてしまう。


「なぁ、ランナ。オレさぁ、昔……初恋の女の子がいたんだ」

「……は?」


 閉じかけたランナの瞳が一気に見開かれる。なぜ、このタイミングで初恋の話なんてするのか。当然、ランナは聞きたくない。

 それでもヒルの瞳は真っ直ぐランナの同色の瞳を捉えていて身動きが取れない。物理的ではない拘束力、これがヒルの本当の魔力かもしれない。


「オレって幼い頃は病弱だったのか、よく親父に病院に連れて行かれたんだ」


 いや、どう見ても病弱ではないだろうとランナは脳内でツッコミを入れる。それはヒルの生気を見ているから分かるし、バカなヒルは風邪も引かない。

 当時のクロノスは息子の三重人格を治す方法を模索していた。そして二人の人格を殺して一人を残すという考えに至ってしまった。


「それでさ、どこか田舎の病院に行った時、そこの先生の娘がすごく可愛い子でさ」

「ちょっと待って、それっていつの話?」

「オレが6歳だったかな? その子は3つくらい年下だったな」


 意外とヒルの初恋は早い。最近の恋の話をされたら嫉妬するところだが、幼少期なら許せてしまう。

 思い返してみれば、ランナの初恋と言えば3歳くらいの頃。患者として家に来た年上の男の子を思い浮かべる。


「ヒルくんの初恋の相手って、幼女なの?」

「なんだよ、その目は! 引くなよ! 一度しか会ってないし名前も覚えてないけど!」


 ランナは、ようやく分かってきた。あの頃にヒルと出会ったのも、何もかもが運命であった事に。

 出会いも結婚も結婚式も何もかもが突然だと思っていたけれど、ヒルはちゃんと自分で自分の初恋を叶えていた。

 そしてランナの初恋も叶えてくれていた。それがヒルにとっては全て無自覚だったとしても。


「一度だけなのに顔は覚えてる。可愛かったんだよ。オレと同じ金髪で……」


 しかしランナには記憶違いがあった。ヒルは昔、ランナの家である診療所に何度も来ていたと思っていたが、一度だけだった。

 何度も会っていたかのように記憶してしまうほどに印象深かった男の子。それは紛れもなくランナの初恋の相手だった。


「それ、私よ」

「そう、ランナみたいな金髪……で……」


 二人の金色の瞳の焦点が合うと同時に見開かれる。ヒルはやっと、遠い昔の初恋の相手がランナだという事に気付いた。

 このタイミングでヒルが初恋を思い出したのも、いつも無意識にランナと初恋の幼女を重ねて見ていたからだった。


「ランナ……だったのか?」

「うん。私の初恋の相手もヒルくんだよ」


 悪魔でも人間でもヒルはバカで純情で不器用。だけど、いつもランナの心を照らす陽気な太陽。

 先の見えなかった暗闇の中で、ヒルという光が導いてくれた場所。それは呪いなんかより、ずっと素敵な魔力だと思える。


「はは……最高だ、ランナ。ありがとう、愛してる」

「ヒルくん、ありがとう……愛してるよ」


 もう時間制限はない。時計に気を取られたりもしない。長い夜の時間、二人は全てを脱ぎ捨てて唇も身体も重ね合う。




 それから少しの年月が経った頃。

 ジョルノ国の白薔薇の庭園には、朝の散歩をする第一国王・アサと、第一王妃・モニカの姿があった。

 朝の日課でこの庭園を散歩する市民も多く、アサとは顔馴染みで気軽に声をかけ合っている。

 庭園を歩いていた男性が、アサとモニカの姿に気付くと明るく声をかけてくる。


「アサ様、モニカ様、おはようございます! 今日は良い天気ですね!」

「おはようございます。はい、良い天気でしたので、今日は三人で散歩に来ました」


 アサの隣を歩くモニカは四輪の白いベビーカーを引いている。そこにはアサにそっくりな銀髪碧眼の赤子が乗っている。


「おはようございます。ふふ、この子を連れてくるのは初めてですわ」


 モニカが爽やかな笑顔で返すと、それに気付いた市民が一斉にベビーカーの周りに集まってくる。


「おぉ、なんと可愛らしい!」

「王子様ですか、お姫様ですか? お名前は何と仰るのですか?」


 アサとモニカに子供が生まれてからまだ一ヶ月ほどで、その詳細は国民に浸透していない。

 だからこそアサは、散歩の途中でも堂々と子供の名前を伝えて歩く。


「男の子です。名前はアサルトです」


 王子の名前はアサルト。アサの前世である悪魔の名前をそのまま受け継いだ。

 悪魔ではなく人間として生まれたアサルト王子は、未来の第一国王としてジョルノ国を背負う存在となる。

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