ホストとしての練習をする
ちょうどオープンが遅くなったことで、僕は綾乃さんからホストとしての仕草や受け答えなどを教えてもらうことができた。
ホストとして勤務した経験が皆無の僕としてはやっぱり適度に教えてもらわないと、不安で仕方ない。
でも、綾乃さんが言うには「礼儀は気にしなくて大丈夫よ。場所によっては全然女のことを見下しながらやっているホストもいるし。ホストはそんな感じだから」。
一応、金銭が発生するからもっとうるさいのかと個人的に思っていた。だけど、考えればこの世界で前世みたいにしっかりと接待をしているとは思えない。それぐらい、この世界の価値観は前世と違う。
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そして今日は綾乃さんの姪っ子さんが練習相手として来てくれるらしい。綾乃さんは「ぶっつけ本番で大丈夫だよ」とか言ってたけど、さすがに僕の不安が伝わったのか、練習する場を設けてくれた。
姪っ子さんには申し訳ない気持ちがあるものの、しっかりと本番前に練習できるのはありがたい。綾乃さんの話では、姪っ子さんはとても人見知りな性格らしく、同性でも友人があんまりできないらしい。なので、今回の練習も綾乃さんがごり押しする形で取り付けたと。
姪っ子さんの気持ちを少しはくんであげて欲しいと伝えたけど、綾乃さんは「これも経験だよ。姪っ子はもちろん男性と話したことは一度もない。だからこそ、義幸くんに話して欲しいのよ。少しでも姪っ子が人付き合いに前向きになってくれれば、私としても嬉しいから」と言っていた。
そんな風に言われると責任重大だ。もしかしたら、僕と会ったことでこれから先の人付き合いに悪影響が出てしまう可能性だってある。
姪っ子さんは綾乃さんに少し似ていているものの、髪色が茶髪でボブで顔立ちは整っている。もし、高校にいれば学年1の美少女と呼ばれてもおかしくないような容姿。
「今日は練習にお付き合いいただき、ありがとうございます」
「い、いえ、お力になれるか分かりませんが、精一杯頑張ります!!」
どうやら僕よりも姪っ子さんの方がすごく緊張しているみたいだ。これからのためにもこういう緊張しているお客さんを上手く、ほぐしてあげないと。
「まずはお名前をお聞きしても良いですか?」
「沙紀さきです」
「沙紀さんですね。僕のことはテツと呼んでください」
「テツさん」
綾乃さんからも源氏名のようなものを考えてきてくれとは言われていた。さすがに本名を名乗るわけにはいかない。その所為で何かしらトラブルに発展するケースもあったらしい。
そして考えた結果として『テツ』と名乗ると決めた。理由はなくて、なんか直感でテツがいいかなぁと思っただけ。
「沙紀さんはとっても可愛いですね」
「か、かわいい…!」
「はい、可愛いですよ。沙紀さんみたいな可愛い人と話すのはとても緊張しますね」
これはマジで可愛い。というか、この世界の女性の顔面偏差値は尋常じゃないくらいに高い。なんでこんな可愛い子が普通にいるんだよと思っちゃうぐらいに。
「こんなに可愛い子と一緒にいられるなんて、僕は幸せ者です」
本当はこういう時に手を握ったりするのがホストらしいのかもしれないけど、さすがにお客さん役の姪っ子さんにはできない。それにお客さんに対しても、手を握ったり、密着したりするのもどの程度がいいのかはまだ分からない。
「沙紀さんのことを知りたいので、僕に教えてくれませんか?」
「…は、はい……」
「ありがとうございます」
それからは沙紀さんの学校での話や趣味などを聞いて、上手いぐらいに同調する形にした。沙紀さんは楽しそうに話してくれてはいたので、気分は害していないと思う。
「今日は沙紀さんとお話できてよかったです。というより僕の練習にお付き合いさせてしまって本当に申し訳ない気持ちです」
「全然構いません!私なんかでテツさんの力になれるようであれば、頼ってください!!」
「そ、そうですか…そう言ってくださるととても心強いです」
「最後に沙紀さんが僕にして欲しいことがあれば、言ってください。僕に出来る範囲のことであればプレゼントしますので」
高校生の貴重な時間を使ってもらった。そしてホストの練習としても、良い相手だったのでちゃんとお礼をしたい。
沙紀さんは僕のことをちらちらと見たりしている。
その間もずっと無言だけど、別に僕はすぐに欲しいものをいえると思っていないので、沙紀さんが口を開くまで静かに待つことにした。
体感では5分ぐらいして、沙紀さんはお願いを話し出した。
「あ、あの…テツさんがよければなんですけど…」
「僕はどんなことでも大丈夫です。すごい高価なものとかでもなければ」
沙紀さんは深呼吸をして言葉を紡ぎ出した。
「…テツさんの手で私の頭を撫でてくれませんか?」
「頭を撫でる?」
「だ、だめでしょうか?」
「いいえ、沙紀さんがそれを望むのであれば全然構いませんよ」
僕は沙紀さんの頭に手を伸ばして、髪型が崩れないように優しく撫でた。
あんまり人を撫でた経験がないので、上手く撫でられているのか分かったけど、沙紀さんの表情を見る感じだと嫌がっていないのでこれでいいのかもしれない。
2分ぐらい撫でたところで僕は沙紀さんの頭を撫でるのを止めた。
「これでよかったですか?」
「は、はい。幸せな時間でした!!」
「それはよかったです」
僕は頭を撫でられたいと思ったことがないけど、沙紀さんが満足しているのであればそれでいい。
そして僕のホスト練習は終わり、あとは店内の準備が終われば、開店だ。




