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VERTEX  作者: 銀乃矢
第3章 ル・マン編
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第9話「出番」

大竹の渾身の追い上げにより気づけばクラス9位まで順位を上げていた。


雨も上がり、路面も乾き始める。

溝付きのレインタイヤは適さないコンディションになってきた。


交換のために大竹に無線で指示が飛ぶ。


ついに自分に出番が回ってくる。

憧れのル・マンを走る時が刻一刻と近づいている。


ヘルメットを被り、レーシンググローブをはめ、準備を整える。


気持ちを落ち着ける。


ピットレーンの方に向かう。

メカニックたちは乾いた路面に適したスリックタイヤを用意している。


メカニックたちとグータッチをし、一体感を高める。


目の前には見たことのないほどの人数の観客がグランドスタンドからレースを見届けている様子が広がっていた。


こんな世界規模の大会に出させてもらえたんだ。しっかり結果を残すぞ。決心すると同時に98号車が戻ってくる。


マシンの左側に回り、大竹が降りてくるのを待つ。

大竹がマシンから降りる。

そのスペースに滑り込むように乗り込む。

ドアが大竹に閉められ、周りの世界と遮断される。


さぁ、行くぞ。というところでトラブル発生。

左リアタイヤがはまらないのだ。ミラーを確認するとメカニックたちが苦戦している様子が確認できた。

 

なんとか駆けつけた他のメカニックが力ずくでタイヤを押し込む形ではまる。

インパクトレンチでナットを締める。


大輝(ひろき)、すまない、タイヤの交換に時間がかかった。』


すぐにマシンはジャッキダウン。

地面を蹴り出す。



いざ、聖地のコースへ。


ボボボ、と自分の後ろに搭載されているV8エンジンが低く唸る。ピットから出るのを今か今かと待っている獣のようだ。


ピット出口に来る。

ピットリミッターをオフ。

マシン本来の性能が戻って来る。


アクセルを踏み込み、加速する。


ゲームでしか走ってこなかった憧れのサーキットについに自分の運転で走り出した。夢みたいだ。本当に。


目の前に下位クラスのマシンが現れる。

動画で見た通りの追い抜きをする。

ぶつけないように、慎重に。


耐久レースだからこそ、クラッシュしようものならみんなが積み上げてきたすべてを棒に振ることになる。



走り続けていると、コース上の注意を知らせる黄旗が振られているのが見えた。

何かあったようだ。


そのエリアに差し掛かる。


コーナーのイン側を見ると、他チームのLMP2車両が炎上しながらゆっくりと走行していた。


「監督!1台燃えてる!多分セーフティーカー入るかも!」必死に伝える。

『OK、こちらでも確認できた。大輝はそのままステイアウト。燃費を抑える方向でお願いします。』

「OKです。」


ステイアウトとはピットに関する用語で、ピットに入らずに周回を続けることを意味する。



結果、ステイアウトの判断は功を奏した。

他チームはセーフティーカーが入ると思い、続々とピットへと向かっていったが、実際はFCY、フルコースイエローが導入され、全車80km/h規制がかかっただけだった。


このタイミングで一気に自分は4つ順位を上げた。


「あと何周でピットインですか?」

『燃料的にあと4周頼む。』

「了解。」


日も傾き始め、西日が眩しい。



順調に周回を重ねピットイン。


堀本にバトンタッチ。


ピットのメンバーたちは夕食の時間のようだ。

カレーのいい匂いがガレージ内に充満している。


「あ、松下くん、お疲れ様。ヘルメットとか置いてきてこれ食べな。」

「あ、あざっす。いただきます。」


パドックのテントに向かうと先に夕食を食べ終えた大塚と大竹がいた。

「お、松下くんお疲れさま。どう?初ル・マンは。」

「なんか、不思議な感じだね。いっつもゲームでしか走ってこなかったから。」

「あーね。まぁ、とりあえずゆっくり休んで。これからまだ何が起こるか分からないからね。」


大塚の言う通りだ。


ル・マン24時間耐久レースはここから本格的なナイトセッションへと突入していく。

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