天雷
「魔王を討ち取ってやるなんて意気込みで来たけど…………とんでもないね! 僕らの実力じゃ逃げるのが精一杯だ」
『ベルの音色』のリーダー、ベイルは建物に隠れながらクロスボウや魔法を駆使して魔王グロスクロウに攻撃を繰り出していた。
しかしながら、予想通りに全ての攻撃は効いていない。
八代湊率いる『紅影』の戦い方を見ていたおかげで対策は取れていた。
攻撃が弾かれるからといって深追いはしない。
魔王に一撃を加えようと考えること自体がおこがましいのだ。
「何とか時間を稼ぎたいところだけど……僕とミリだけじゃ到底無理だし……」
「待たせたなベイル!」
突然物陰から飛び出した八代が銃で魔王を攻撃した。
八代が出てきたことにより、彼らの態勢が一度整ったのだと把握したベイルは、一気に攻勢に転じる。
「ミリ! ボルザノク! 僕らも総攻撃!」
「盛れ、熱せよ! その業火を持って焦がし給え! 円神の炎草原」!
グロスグロスの足元に魔法陣が浮かび上がり、ミリの放った上級炎魔法によって火柱が立ち昇る。
グロスクロウはそれを弾くことなくかわす。
「やっぱり下からの攻撃には弱いみたいだ……! ゼロ!」
「ああ! さっきの借りは返してやるよ……!」
グロスクロウを中心とした一帯に、無数の魔法陣が浮かび上がる。
いくつもの魔法を無詠唱により同時に発動することができる、魔者のゼロならではの攻撃だ。
グロスクロウが空中に跳んだ。
「逃げ場はねーぞ!」
全ての魔法陣から火柱が上がる。
それは空中に跳んだグロスクロウにも届く勢いだ。
「ふむ……」
グロスクロウは自分の下に向かって無詠唱の水魔法を放ち、ゼロの魔法を抹消した。
そこへシーラの炎魔法、八代の狙撃、ベイルのクロスボウが狙う。
が、全てスキルにより弾かれてしまった。
「やっぱり魔法とスキルは同時に発動できるのか……!!」
「一手ずつ俺を追い詰めるコンビネーションは流石だが…………圧倒的な個の前では無意味だ。貴様ら人間世界でいう魔導級の魔法を見せてやろう」
屋根に着地したグロスクロウが魔力を両手に集中する。
だがそこに八代が剣を構え詰めていた。
「させねぇ!」
「『近付き難し王』」
ドンッ! と八代は吹き飛ばされていった。
「うぐっ…………ゴー!!」
八代の呼びかけと同時にグロスクロウの足元の屋根を突き破り、炎が立ち昇った。
シーラが既に下に待機していたのだ。
「ぐっ! 何度も懲りずに下から狙うとは……!」
「喰らえ!」
離れた家の屋根から、グロスクロウの背後をベイルがクロスボウで狙った。
炎に包まれながらもクロスボウをかわす。
いや、クロスボウが自分から避けていったように見えた。
炎も直接的にはダメージがない。
グロスクロウは風魔法を自分の周りに発動させ、炎とクロウボウの軌道を逸らしたのだ。
「うわっヤバっ!」
「逃さんぞ人間……『離れられざる民』!!」
左手に黒い渦が現れ、ベイルの身体を引き寄せる。
「紡ぎ、発光せよ! 神の雷を持って細胞を死滅させ、強制的に震え上がらせるその豪雷は狂神の怒りと知れ! 閃光の地雷矢!」
八代の本日二度目の魔術級魔法。
魔術級を二発撃てる人間もそうはいない。
何百という雷の矢が、スキルを発動させているグロスクロウへと向かっていく。
「小癪な……!」
グロスクロウはスキルを切り替え、雷の矢を防ぐためにベイルを引き寄せるのをやめた。
「だがこの俺が守ってばかりだと思うなよ……」
既に両手には強力な魔法が放たれるだけの魔力が込められていた。
それは人間で言う魔術級よりも上の魔導級と同等のレベル。
「全員隠れろおおおおお!!!」
「隠れるところなど……存在しない。〝天雷〟」
暗いはずの夜空が昼間のように明るくなり、光が夜を食らっている。
音が遅れてやってきた。
八代達が戦っていた一帯が粉々に吹き飛んだ後に、巨大な太鼓を叩いたかのような轟音が鳴り響いた。
事象は雷だが、起きた後の惨状は雷とは思えない。
まるで爆弾であった。
ミステリーサークルのように、カンバツ王国の一部が真っ平らとなってしまった。




