信念
剣聖が敵である。
この事実は変えられない。
子供を殺している現場を見てしまった以上、勘違いだとは言えない。
「避雷神……。お前はサンクリッド大陸に向かったのではなかったのか?」
「魔者がいたら船には乗れないって言われたからこの国で許可証を貰いに来たんだよ……。そんなことよりだ! 何でアンタは子供を殺した!」
「見ていたのか……。理由は単純、この国に住んでいたからだ」
悪びれる様子が全くない。
まるで、何か悪いことでもしたのか? とでも言いたげな表情だ。
あの時、俺と話していた剣聖はこんな奴だったか……?
「何でそんな理由で人を簡単に殺せるんだ……!」
「私がガルムに協力しているのは、この国に復讐するためだからだ。そのためならば、鬼にも悪魔にも魔王にも魂を売ろう」
「一体この国に……どれほどの怨みがあるっていうんだ……」
「知りたいか? お前もこの国にいたのなら、少しでもこの国の闇を感じとれたとは思うがな」
この国の闇…………。
俺が触れたのは個人に対する闇だけだ。
国に対してまでは……。
「ハボックという男がいるのは知っているか?」
「……! よく知ってるさ」
「ならば奴がどういう男かも分かっているな?」
「アンタの怨みは奴に関係しているってことか……?」
「その通りだ」
会話を続けながらも剣聖とは距離を保ち、『雷鳥』に手を掛け、避雷神を纏う備えはしている。
「私はあの男に故郷を滅ぼされた」
「故郷を……!?」
「いわゆる人体実験という奴だ。親友は冤罪をかけられ処刑。誰も国家絡みの陰謀だとは気付いてはおるまい。上層部の一部を除いてはな」
「それにハボックが関与していると……?」
「関与ではない。主犯だ」
あの野郎…………。
シーラだけじゃなくて昔から……!
「奴が隠してきている罪はそれだけではない。少なくともこの国の根幹に関わる多くの事件には奴が関与している」
「…………ハボックが悪人だという話は理解できた。でも俺は解せないよ。それなら国に住む人達は関係ないじゃないか」
「多くの犠牲によって成り立っているこの国に住む者たちが関係ないと? 若いな避雷神。話は既に個人を処理すれば済む話ではなくなっている。この国の存在、そのものが既に罪なのだ」
ダメだ。
何を言っても俺の声は剣聖には響かない。
剣聖が見てきた世界は、俺がこの世界で過ごして見てきた世界よりもよっぽど残酷で、度し難いのだろう。
だけど俺は。
それでも俺は、剣聖が子供を殺すような真似をするのを黙って見過ごすわけにはいかない。
短い期間とはいえ、剣を教えてくれた師匠に人としての道を外れるような事はして欲しくない。
「あんたの考えることに異議を唱えるつもりはない! だが、やり方が間違っている! こんなやり方じゃ誰も救われない! 正も負も想いは蓄積されるんだ! この国を滅ぼして何になる!?」
「ならば私に復讐をやめろというのか!? 何も知らない小僧が! お前も身内を殺されなければ私の気持ちは分からないだろう!」
「復讐をするなとは言ってない! やり方を考えろと言ってるんだ! それにな、俺だって仲間がこの国のクソ野郎に洗脳されてるんだよ! 別の仲間が殺されるのも目の前で見た! 何も知らずに生きてきたわけじゃねぇよ!」
「ならばなぜお前も私と同じ目的を持とうとはしない!? 同志だと言えるのではないか!?」
「それが全てじゃないからだ! 全ての人が皆腐っているわけじゃない! あんたもそれは知っているだろう!? 思い直せ!」
「やり方は変えん! この国は消す! この意思が無くなることはないと知れ! 」
俺の言葉も彼には届かない。
俺にはあの人を止められない。
あの人は止まらない。
なら答えは一つしかないだろう。
上層部の奴らがどうなろうが知ったことじゃないが、良くしてくれた人達を見殺しには出来ない。
俺だって知り合いを殺された時の怒りは知っている。
『ベルの音色』のベイルを殺された時、必ず仇を討つと思ったからだ。
それが身内であるならなおさら、俺には剣聖を止めることはできない。
だけど、無関係の人達を殺すのはお門違いだ。
戦う意思の無い人達を、何も知らない人達を殺すのはただの殺人鬼に他ならない。
俺達に良くしてくれた人達を死なせるわけにはいかない。
「…………斬るのは上層部の人間だけにしろと言ってもダメか?」
「……くどい。今さらやり方を変えるつもりはない。この国は滅ぼす。奴らのやり方は姑息で性根が腐っている。人を人とも思わず、自らの国益を求めるばかりで他のものをないがしろにしている。そうして私の村は滅んだ…………滅ぼされた。裏切られ、傷つけられ、全てを失った。だから一度灰にする。全てを灰にし、皆の仇を取る…………私の生きがいはそれだけだ! 邪魔をするならば避雷神…………貴様も殺す」
剣聖が剣を構えた。
刀身が薄く、長い。
それと同時に剣聖の前に流星が落ちてきた。
ドンッドドン! と音を立て、現れたのは魔人達。
下級魔人が5体、中級魔人が1体、そして上級魔人が1体。
さらに赤い鎧をきた魔者が物陰に二人いるのを見つけた。
「良いタイミングだフォルゲート……」
まるで剣聖が魔人を従えているような構図。
「完全に人類の敵となったな剣聖……」
「退け、避雷神。私とて、最後の弟子を斬るのに乗り気ではない」
「退けねぇよ……」
俺はポーチの中から赤色のビー球を一つ掴んで粉々に砕いた。
光が塊となって、上級魔人が俺の隣に召喚された。
剣聖が驚いたように目を見開いた。
「俺はアンタらの敵になる。例え一緒に魔王を討伐した仲でも、間違っていることに馴れ合うつもりはない。俺は俺の信念に従う」
この際ハッキリさせておこう。
俺はNOと言える日本人だってことをな。




