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英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜  作者: もぐのすけ
アクエリア大陸 ミラージュ王国編

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ハボック

「ここは入ったばかりの兵士が訓練する場所になっている」


 最初に案内された場所は、建物に囲まれた広場だった。

 そこには兵士が綺麗に四列に並び、微動だにせず立っている。


「これは行動規範矯正訓練というものでな、通称〝動規練どうきれん〟と呼ばれるものになる。兵士としての自覚を持ってもらうためのメンタル訓練だな」


 立ち並んでる兵士の前を、教官のような人が歩いていた。


 突然、その教官が1人の兵士の前で立ち止まると、胸ぐらを掴んで怒声をあげた。


「てめぇ!! 目をキョロキョロさせてんじゃねぇよ!!」

「はい!」

「前だけ見てろっつっただろうがぁ!!」

「はい!」

「次勝手なことしやがったら追い出すからなぁ!! 返事!!」

「はいっ!!」


 ……ぎゃーす。

 もの凄い体育会系なんですけど……。

 目すら動かしちゃいけないってまじ?

 軍に入ったらこんなことやらされんの?


「おい!! てめぇ今指動かしただろ!」

「いえ!」

「人の言ったことが分かんねぇのか!! ああ!?」

「いえ!!」

「はい以外の返事してんじゃねぇよ!!」

「……! はいっ!!」


 こんな職場嫌なんですけど……。

 いやまぁ訓練だから厳しくやってるんだろうけど……。


「軍に入るとしたら……俺達もこれやらされるんですか?」

「まさか。新世大隊は正規な国軍ではないからな、これといって訓練などはしないから安心するといい」


 そういってドットは笑った。


 別に入るつもりはないけど、なんかホッとした。


「ちなみにこの訓練、どれくらいやるんですか?」

「2時間は立ちっぱなしだな」

「……俺には無理ですね」



 その後、訓練施設内を一通り案内してもらった。

 その道中に会う人会う人、みんな綺麗な敬礼でドットとフェリスに挨拶をしていた。

 やっぱり、この人達はとんでもなく偉いのだろう。


「なんだか私的には落ち着かないかな……」

「まぁ帽子で隠してるとはいえ、やっぱり青髪ってのは珍しいしな。中には魔族だって気付いてる奴もいたりして」

「や、やめてよ」


 実際、挨拶をしてくる奴の中にはジロジロとアイラのことを見る奴もいた。

 だけど、星宝三龍将であるドットがいる手前、何かを言うわけでもなくそのまま立ち去っていった。

 権力バリアだ。


 そのまま軍の訓練施設を抜け、今度は新世大隊の待機所へと向かう途中のことだった。

 黒色のローブに身を包んだ男が反対側から歩いてきた。


「これはこれは、ドット龍将にフェリス勇隣右将軍ゆうりんうしょうぐんではないですか。このような所でどうされましたかな?」

「ハボック龍将。いやなに、大した用ではない。兵にスカウトした彼らを施設見学させているだけだ」


 ハボックと呼ばれた男は、こちらをじっとりといぶかしげるように見てきた。

 歳はかなりいっているように見える。

 60か70あたりか?


 ドットと同じように龍将と呼ばれているということは、恐らく星宝三龍将の1人なのかもしれない。

 見るとフェリスが不快そうな顔をしていた。

 嫌いなのかな?


「なるほど……。ドット龍将が直接連れてくるとは珍しいですなぁ。その実力、思わず期待してしまう……」


 ニヤリと歪んだ笑顔に、俺は思わず目を背けたくなってしまった。

 そしてその顔はそのままフェリスへと向いた。


「しかしてフェリス勇隣右将軍は、何用でこの場所へ?」

「父と同じです」

「はて……? 勇者様はサンクリッド大陸にて魔王を討伐したとお聞き致しておりますが…………勇隣右将軍としてのあなたは、このような所で寄り道をしていてもよろしいのですかな?」


 勇隣右将軍……。

 名前から察するに、三代目勇者と旅をするための正式な役職みたいなものだろう。

 王宮護衛隊御三家みたいなね。


「勇者様を守るのが貴方の役目……。こちらへ飛ばされてきた事情は分かりますが、それならば早急に身支度をし、勇者様の元へ向かうのが普通なのではないでしょうか?」


 フェリスが苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 このネチネチしたような言い方、こいつはきっと性格が悪い。


「そう言わないでもらえないか。フェリスも疲れが溜まっているのだ。少しぐらい休んでいても……」

「自分の娘だからと甘やかしていては、他の兵に示しがつかないのですよドット殿。今がどんな時期か、貴方も分かっているでしょう?」

「むぅ……」


 ドットも押し黙らせられてしまった。


「…………ここからサンクリッド大陸へはかなりの距離があります。それなりの支度をしなければ……」

「だからこそ、ここで道草を食っている場合ではないのでは?」

「…………」


 なんか良くない空気だな。

 正論を言っているのは間違いないんだろうけど、人の感情を無視したような、そんな物言いだ。

 これで良く人の上に立てるな。

 これが実力主義社会の弊害か?


「勇者の警護という立場にあるのなら、少しは自覚を持った行動を……」

「すいません。フェリスさんがここに来たのは自分のせいなんですよ」


 ハボックの目がこちらに移った。


 あまり部外者が口を出すのは良くないのかもしれないけど、フェリスが言い詰められているのを見ているのは心苦しい。

 俺だって大したことは言えないけど、矛先を変えることぐらいはできる。


「自分達はこの国に来て右も左も分からなかったのですが、以前フェリスさんと一度お知り合いになったことがありまして、たまたま見かけた彼女にこの国の案内を、無理を承知でお願いしたんです」


 たまたま知り合って俺がお願いした。

 そういう形にしてしまえばいい。

 そうすれば、忙しい身のフェリスを俺が捕まえ、優しいフェリスが仕方なく俺に付き合ってくれているという構図が出来上がる。


「しかし、ドット殿がいれば彼女がここにいる必要はないのでは?」

「アイラが…………ああ、この子なんですけどね。極度の男性恐怖症で、女性の方がいないと萎縮してしまうんですよ。それでフェリスさんにも付いてきてもらいました」


 アイラが「え?」みたいな顔をしたから、バレないようにふとももをペシリと叩いた。

 そこは察しろ。


「なるほど…………。事情は分かりました。ですが彼女は何かと忙しい身の上。あまり長時間拘束しないで頂きたい」

「そうですね。気を付けます」

「それでは私はこれで……」


 そういってハボックはそのまま通り過ぎていった。

 アイラがその後ろ姿にベーッと舌を出している。


 なんとか誤魔化せたな。


「ごめんねヤシロ君……。気を使わせて……」

「間違ったことは言ってませんからね。それにしてもアレは何者なんですか?」

「私と同じ、星宝三龍将の1人だ。三人の中でも最古参でな、30年近くこの職に就いている」


 やっぱり三龍将か。

 見た目はそれほど偉ぶっているようには見えなかったけど、見透かしてくるようなあの目。

 嫌な気分になる。


「私、あいつ嫌い」

「奇遇だね。私もだよアイラさん」


 絶賛女の子からも嫌われ中。


「だが、この国で魔導級の魔法が使えるのは彼一人だけだ。未だに彼を超える魔法使いが出てきていない」

「私は負ける気しませんけどね。私も使えますし」

「本来であればフェリスがこの国で一番なのは間違いないが……フェリスは階級制度から外された立場だからな……。星宝三龍将になれば、勇者様と旅ができなくなる。それは困るだろ?」

「……まぁ……そうですね」


 詠唱魔法のトップ。

 魔導級魔法か。

 俺も使えるけど、使ったことはないな。

 超広範囲魔法らしいし、使う場面がない。


「しかし、彼はここで一体何をしていたんだろうな……。向こうには新世大隊の宿舎しかないはずだが……」

「その新世大隊に用事があったんじゃないですか?」

「用事がある場合は普通、伝令を使うのだがな……」


 不審がるドットだったが、考えすぎだろうとそのまま歩みを進めた。

 俺達はその後をついていった。

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