妖力暴走 ˜”*°• 神楽 蓮 side•°*”˜
――同時刻
「この問題で終わりだな」
俺はそう呟いて長ったらしい文章が書かれた問題に取り掛かった。
――2分後
「終わった!」
ついに宿題が終わった。
「後は遊び放題! 柚葉もそろそろ終わったかな? 朝食の時後ちょっとで終わるって言ってたから」
そう呟いて席を立ち、柚葉の部屋に向かって歩き出した。
◇◇◇
俺が柚葉の部屋の前に行くと、戸には黄色の紐がかかっていた。
なんだろう、これ? さっきまで無かったと思うんだけど……。
そんなことを思いながら戸をノックする。
しかし、何回叩いても返事がない。
寝てるのか?
「柚葉?」
戸に向かって呼びかけてみても、何も返事がない。
そうこうしていると。
「神楽様? どうされましたか?」
「舞花さん!」
廊下の反対側から舞花さんが歩いてきた。
「柚葉に用があって、でも返事がないんです」
俺がそう言うと、舞花さんは戸の前に来て、かかっていた黄色の紐を手に取る。
「これ……ああ、なるほど。いつもよりも1週間ほど早いですね」
「え?」
「ちょっと待っててください」
舞花さんはそう言うと、翡翠の瞳をそっと閉じて数秒黙る。
そして、目をそっと開くと、俺の方を見ていった。
「神楽様。少し話しましょうか。伝えたいことがあります。ついてきてください」
そう言って、舞花は歩き出した。
どう言うことだ? あの紐と何か関係が?
戸惑いを隠せないまま、俺は舞花さんの後をついていった。
◇◇◇
「どうぞ」
「ありがとうございます」
舞花さんに通されたのは、屋敷の空き部屋のようだった。
「それで、話したいこととは?」
「……柚葉様の部屋の戸にかかっていた黄色の紐、見られましたよね?」
「はい。あれはなんですか?さっきまではなかったと思うのですが」
「……ねえ神楽様。……ご不快にしてしまったら申し訳ありません。ですが聞きたいのです。貴方は、今からどんなことを聞いても柚葉様のことを嫌いにならないと、柚葉様のことを恐れて遠ざける様なことはしないと、誓えますか?」
なにを聞いても……? やっぱり、何かあるな。でも、俺は柚葉から逃げないと決めた。
俺は数秒黙ったあと、しかと目を見開き舞花さんを見返した。
「もちろんです」
「そうですか。なら、話します。柚葉様のお身体のことについて。少し長くなりますが、それでもよろしければ」
「お願いします」
対面に座った舞花さんは、おもむろに話し出した。
◇◇◇
「柚葉様は、16年前の11月15日に妖狐の本家、白石家の長女としてお生まれになりました。妖狐は、妖力の強さに従って尻尾の数が増えていくあやかしでございます。現当主である白石華蓮様も、お生まれになられた時は尻尾を一本しか持っていらっしゃらなかったと聞いております。
妖力の増加は体の成長や日々の鍛錬によるものですので、生まれた時は尻尾が一本というのが当たり前なのです。ですが、柚葉様は違いました。生まれた時から尻尾を九本持って生まれてこられたのです。
その分、あまりにも莫大な妖力を秘めておられました。本来なら成長とともに少しずつ増え、体が妖力に慣れていくはずなのですが、柚葉様は幼少期から膨大な妖力を抱えることとなりました。そのため体が耐えきれず、発作のように妖力が暴走し、その後に高熱を出すという状態が続いていたのです。最近でこそ年に一度ほどになりましたが、昔は生死の境を彷徨われたこともございます」
「ちょっといい?」
疑問が浮かんできた俺は舞花さんの話を遮って挙手した。
「なんでしょう?」
「つまり舞花さんが言いたいのは、妖力の大きさに柚葉の体が耐えきれなくて発作が起こるってことだよね?」
「ええ。まとめるとそういうことです」
「今この話をしたってことはあの黄色の紐と柚葉の発作が繋がっているということでしょ? 舞花さんは、あの黄色の紐を見て状況を理解し、俺にこの話をした。つまり、今柚葉は発作が起きていると。黄色のひもは発作が起きたこと、もしくは起きそうになっているということを伝えるための物。違う?」
「……はい。よくお分かりで。正解です」
「それならますます分からないな。妖力は体の成長に合わせて慣れていくもの。たとえ最初の妖力の量が大きくても、大体体が成長しきった今はもう妖力に慣れて言っているから、発作なんて起こらないんじゃないの?」
「鋭いですね。ですが違います。妖力というのは体が成長し切っても鍛錬を続ければ多少なりとも伸びてゆくもの。16歳なら尚更です。ですが神楽様。貴方が半年ほど柚葉様を見ていて、妖力の伸びを感じたことはあられましたか?」
「そういえば……あんなに努力しているのに妖力の伸びは感じられなかった気が……」
「その通りです。柚葉様は特異体質。いわば先祖返りのようなもの。急激な成長が終わった頃から、柚葉様の妖力は一年に一回、この時期しか伸びないのです。そのせいでゆっくり伸びるはずの妖力が一気に体を襲うため、今でも発作が起こるのです」
「なる、ほど……」
大体は理解した。
「舞花さん。発作というのはどういう感じなんですか?あと、柚葉は今どこに?」
「……柚葉様は、多分地下の練習場にいると思います」
「練習場? なんで」
「……先に発作の内容について話したほうがいいですね。最初は体調を崩したように咳が出始め、そこから自分の体内にある妖力が反抗するのを感じます。その妖力の反抗を止めるには、妖力を全て使い切る必要があります。なので練習場です。その後はその反動で2日ほど高熱が出ると」
「高熱?! 倒れるということか? 練習場で?」
「……はい。ですがそれしか方法がないのです」
「……助けに、行かないと」
俺は、衝動に駆られて立ち上がる。
「言ってはなりません」
舞花はそう言い、妖力を使って俺の足を動かせなくする。
「解けよ!」
そう怒鳴るが、舞花さんは妖力を使うのをやめようとしない。
「神楽様。気が早るお気持ちもわかります。ですが、妖力を全て使うために妖術を使う時も、無理矢理なので妖力がコントロールできず、人を傷つけてしまう可能性があるんです。柚葉様は、せっかくできた大切な人を傷つけたくないはずです。今の柚葉様はいつもの練習で相手をしている柚葉様とは違います。妖力の暴走は1時間ほどで終わります。柚葉様を守るためにも、待ちませんか? 無理矢理今行くより、その後高熱を出した時の看病をしたほうが、柚葉様は喜ぶはずです」
舞花さんは懇願するように俺を見る。
数秒の沈黙の後
「……わかった」
そう言って俺は座り直す。
するとホッとしたように舞花さんは俺の拘束を解いた。
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