勇者は死んでいた
勇者デスティンの行方を探し歩いていた。
ところが、衝撃の情報を耳にした。一瞬、自分たちの耳を疑った。
教会のシスターに、話を聞いた。
シスター「勇者デスティンは、42歳で亡くなりました。晩年は無一文となり、発見された部屋には、酒のビンがたくさん転がっていました。」
なんということだ、勇者デスティンは、既に亡くなっていただと!?
しかも、晩年は無一文、孤独死!?
いったい、何があったんだ!?
「うおおおおーっ!うわあああーっ!」
私は声の限りに泣いた。共に魔王を倒し、世界を救った時は、明るい未来が開けたと思った、はずだった!
シスター「魔王との戦いの後、勇者デスティンが、どこで何をしていたのか、誰も知らないのです。
さらに言えば、勇者デスティンの生い立ちも、謎めいています。
どこで生まれ、どこで育ったのか、20歳でラスター王の前に現れるより前のことは、誰にもわからないのです。
といいますか、全くそのことに関する記録が残っていないのです。
一説には、この世界の人間ではなく、別の世界から、この世界にやってきたのではないかと。
そうなると、勇者デスティンとは、神がこの世界に遣わした救世主で、その役割を終えると同時に、旅立たれたのではと、私なりに思っています。」
勇者デスティン、そういえば、私にすら、自分の素性に関することは語らなかったな。
私もあの当時、何度も聞き出そうと思ったのだがな、決して語ろうとはしなかったな。
突然、私の脳裏に、今度は前世の記憶が蘇ってきた。
たしか、日本という国の、平成という時代の話か。
ここから過去の回想。
時はまさに就職氷河期。
ちょうど自分達くらいの世代が、就職氷河期世代などと、レッテルを貼られていた。
私らはなかなか希望通りの就職先が見つからずに苦しんでいた。
幸いにして、私はやっとのこと、就職先を見つけることができた。
しかし、今度はいわゆる『社畜』として、会社の仕事に追われる日々。
おまけに上司は、パワハラが趣味みたいな感じの上司だった。
それでも、日々食いつないでいくために働いた。ところが、今度はリーマンショックというのがあって、私はとうとうリストラで、勤め先をクビになった。
失意のうちに足を運んだのが、炊き出しだ。
やっと、温かいメシが食える、と思って
ほおばったのもつかの間、トラックだったかな、車に跳ねられ、気がついたらこっちの世界に来ていた。
勇者デスティンも、やはり同じように、こっちの世界に来ていたのだろうか。
そして、何らかの事情で、私たちのもとを去り、そしてこの世界からも去っていった。
再び現実に戻る。
さて、これからどうしようか。
思い返してみると、ラスター王国から、
マルタの町、最初のダンジョンときて、
次は、ポーレン王国へ向かう。
そこから、ちょっと南西に行って、
『ペペの道』という地下通路を通り抜ける。
『ペペの道』は、海の下を進んでいく地下通路となる。
そこから、フルクスの町へ。そして、そこから向かう先は、ジョバンニ王国だ。