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第98話

「それに関しては問題ない。ソーの人柄や趣味趣向は把握しているつもりだ。」


マイグリンが即答した。


信頼されているという喜びと、変人趣味の持ち主だと公言されたような何とも言えない複雑な気持ちになる。


「ありがとうございます。」


「ただ、個人ではなく団体というのはどうすればよいのか···」


「コンサルティングという分野で商会(ファーム)を作ろうかと思います。」


「コンサルティングとは?」


「主に国や商会などに運営や財務、産業や経済におけるアドバイスを行う職業です。簡単にいえば、知識と数値データで様々な改善策を提言するアドバイザーといった感じでしょうか。」


そう言ったときの場の雰囲気が和やかなものに変わった。


何かおかしいことを言っただろうかと思ったが、次の瞬間に皆が吹き出した。


「なるほど、言い得て妙だな。そのコンサルティングというのは、要は賢者の別称という感じじゃないか。」


ああ、なるほど。


確かにそう感じられてもおかしくはないかもしれない。コンサルティングという職業はまだこの世界には存在しない。


「まあ、そんな感じですね。」


俺も合わせて笑っておいた。




話し合った結果、俺はコンサルティング商会(ファーム)の代表として、形式上は独り立ちすることとなった。


あくまで王国との会談に出席するための便宜上のものではある。


そのため、マイグリンが興国する国とのコンサルティング契約を書面でかわすことになった。


契約期間は国として安定するのに必要とみなされる10年間。報酬に関しては給金レベルのものだが、必要経費はすべて国主であるマイグリンが負担するものとなった。


それ以外にも契約に盛り込む内容はいろいろとあったが、王国に提示できるものを記載した契約書を作成して会談に持ち込むことにする。


因みに、他者との重複契約に関しても鷹揚なものだといえた。例えば、前世では複数の同業他社との契約は敬遠されることが多いのだが、マイグリンたちの思考にはそういったものはない。契約さえきちんと履行すれば、極端にいえば他国と同様の契約をかわしてもよいという内容のものだ。


これは前世における一部の欧米企業と似たようなものだといえよう。日本ではいまだに「家臣は二君にまみえず」といった契約をしたがるのだが、こちらではドライなものである。


ただ、スパイのような疑惑を持たれる可能性もあるため、どちらにせよ他国と同様の契約を結ぶことはしないだろう。


規約が少ないということは、その規約に違反したときの罰則は従来よりも重たいということになる。


前世なら莫大な賠償責任や、場合によっては刑事責任を追求されるということだ。


もちろん、こちらの世界にそういった慣習や法は存在しないため、極刑や強制労働送りということだろう。


「これで問題はなさそうか?」


「そうですね。これを王国に明示することで別の効果も生むでしょう。」


「別の効果?」


「帝国の武力特化と思われる印象を覆し、他国よりも近代的な制度を取り入れているということです。貴族であっても民に対しては口上の契約というのは意外に多いものです。口約束が違法というわけでもなく、履行されれば互いに信頼し合った上での合意という側面もあるでしょう。しかし、多くの場合は後で言った言わないの争いを招き、力のある者が押し切ってしまうという事例も多いのが実情といえます。」


「ソーは、この書面で行う契約を標準化したいということだな。」


「ええ。事務仕事に忙殺されそうなものですが、後の争いを考えるとむしろ労力は少ないと思えます。これは売買や賃貸、請負や雇用など様々な分野で浸透させるべきことでしょう。もちろん、身分は問わずです。」


「ふむ、確かに必要なことだな。ただ、どのレベルまでを範囲とするかは協議が必要だろう。飲み食いの代金支払いまで書面化するわけにはいかない。」


日本の民法では、契約とは典型契約と非典型契約のふたつに分類されている。


典型契約とは文字通り典型的な契約として定められており、贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解の13種類。


対して、非典型契約は典型契約の枠を超えた内容である。ビジネスなどでも多く利用されるもので、コンサルティング契約は非典型契約のひとつである。


マイグリンには事例としてその内容を伝えた。もちろん、この世界で必要な項目のみを抜粋してある。


「契約は法で守られるべき当事者同士の約束ごとです。それと、履行されずに争いとなった場合は、公正な立場で判断を下す裁判所が不可欠でしょう。」


裁判所はこちらの世界にもある。


しかし、中世ヨーロッパと似たようなものだ。


捜査や取り調べなどをする警察組織はなく、有罪無罪の判断は神判が用いられる。


神判というのは、前世ならキリスト教の聖職者が執行するもので、神の判断に委ねるという曖昧な審議だった。




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