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オモイカネ ~ハイスペッカーが奏でる権謀術数駁論~  作者: 琥珀 大和


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第95話

「それって、とてつもない価値があるのでは?」


「そう思うだろう?でもこいつはあらかじめ定められた空間でしか機能しないのさ。」


ここから持ち出したら効力を失うということか。


使い回せないとなると汎用性はなく、価値はつけられない。


「詳しいですね。もしかして、他にも同じ魔道具が発見されているとか?」


「そうだ。すでに先人たちがいろいろと調べているから情報としては出回っている。」


残念だ。


量産できれば家庭用清掃ロボットよりも優秀な道具なのに。


「だけどよ、こいつのおかげで遺物が朽ちることはねえからな。」


なるほど、そう考えると別の意味で貴重な魔道具ではある。


部屋全体に灯りがついた。


移動中は魔法による光を利用していたが、ここでは持参した魔道具を使用するようだ。


「ここにいた賢者はどうやって明かりを灯していたのでしょうか?」


「ああ、それも魔道具だ。ただ、そっちは定期的に魔力を充填する必要があったようで、先遣隊が見つけたときには使えなくなっていた。人力でするから仕方がないがな。」


人力って、手回しで発電するみたいにだろうか?


いや、違うな。


まだ前世の常識で考えてしまう。そんな物があれば普段の暮らしでもいろいろと使えるだろう。


「人の手で魔力を充填するのですか?」


「そうだ。ただし、一度充填した魔力は一週間ともたない。たぶんだが、ここには定期的に訪れる協力者がいたのだと思うぜ。」


賢者は俺と同様に魔力がない。


「一緒に暮らしていたとかではなく?」


「ああ。ここに調理場や食料庫なんかはないらしいからな。」


ああ、なるほど。


食事や魔力補充の面倒を見ていた者がいたと考えると、その者は外部から頻繁に通っていたとするのが自然なわけだ。


この場所では食用となる植物の栽培や動物の飼育は難しいだろう。水は浄化や濾過することで使えるだろうが、食料だけは外部から持ち込むと考える方が無理がない。


それに、こんな暗くてジメジメした空間で生活できる者など変人でしかないし、賢者が協力者もなしに引きこもっていたとするなら誰にも所在はわからなかったはずだ。


「私ならこんな所で生活するのは嫌ですね。」


「それは俺も同じだ。」


ドワーフが洞窟に引きこもることもいとわないというイメージは、やはり空想のものでしかないようだ。


人間は陽の光をまったく浴びずにまともな生活を送ることは難しい。


体内時計が壊れ、脳内物質のセロトニンが分泌されにくい体質となるため、精神面が崩壊する可能性があるからだ。それ以外にも、ビタミンDが不足してカルシウムの吸収や免疫力の低下を招く。


骨軟化症に陥ったり、精神疾患などを始めとした病におかされて長くは生きられないだろう。


「ここで暮らしていた賢者は長生きできたのでしょうか?」


「さあな。あまり情報は残っていないが、ここに遺物が放置されていることを考えれば突然死したのかもな。」


遺物が運び出されていなかったことについて考えれば、協力者が先に亡くなり賢者の生活は破綻したのかもしれない。扉の外で息絶えたなら、遺体は魔物が処理したのだろう。


協力者が賢者よりも長生きした可能性も考えられるが、そうであれば死後も賢者の遺物に手を付けなかったということになる。


ぞっとしない話だ。


俺は俗世間と離れてこんなところで死にたくはない。


明かりがついた部屋を見回すと、手前は寝食する部屋のようでそれほどの広さはなかった。こじんまりとしたテーブルと簡易なベッドだけが置かれており、壁の隅には樽を改造した濾過装置の様なものがある。


二段になった樽の上部には小石や砂利、炭や砂などが入っており一番上には目の粗い布があった。


この布の上から地底湖の水を入れて濾過していたのだろう。微生物の除去はともかく、透明な水ができる仕組みになっていた。飲料とするためには一度沸騰させる手間がいるが、 竃やコンロがないためそれは外でやっていたのだろう。


「これは何だ?」


ブローナンヴィルが濾過装置を見て興味深げに聞いてきた。


「簡易な水の濾過装置ですよ。」


「ああ、それでこんなところでも生活できたのか。飲用水はともかく、生活用水まで運搬するのは厳しいだろうからな。」


この世界の水準では、清流や井戸の水を使って生活用水としている。


飲むためには一度沸騰させるかアルコールを入れて殺菌しているわけだが、工業を発展させるなら大掛かりな水の濾過装置は必要になるだろう。


大きな都市で上水道施設はあるが、あくまで洗濯などに使われるものでしかない。


実は前世でもこの水準と似たような国がそれなりに存在する。


アフリカでは現代でも水が汚い地域が多いが、それは浄化設備がないことが理由だ。さらに井戸などの貯水設備も少ないため、飲み水の確保が厳しい地域が多かった。




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