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第82話

「マイグリン、たぶんソーは自覚していないわよ。」


エフィルロスがよくわからないことを言った。


「自覚ですか?」


「確かに、ソーは地位や権力に対して欲がないようだからな。自分がどれだけのことをしたかも意識していないのだろう。」


んん?


話が見えないのだが···


ここは定番のセリフを吐きたいところである。


俺、なにかやっちゃいましたか!?


エフィルロスが前に話していたコーンシロップやエタノールのこととは別件のように思う。


「人を信頼しないアヴェーヌ公爵を篭絡したのはあなただと言ったでしょう?」


「いや、アヴェーヌ公爵とは釣具を作って渡したり、チコリコーヒーをご馳走したくらいの記憶しかありませんが?」


「さる情報筋によると、アヴェーヌ公爵が国王に対して、賢者ソーの王城への招聘や叙爵についてを内々に打診していたと聞くぞ。」


「···初耳ですが?」


「それはそうだろう。貴族でもなく賢者としても証明が難しい人物を、いきなり要職に招き入れるとなれば大いにもめるからな。いくら国主や大公爵だといっても独断で決めると貴族が紛糾する。だから我々は、和平条約の条件として賢者ソーを要求した。」


「····················」


正直なところ、予想すらしていなかった事実である。


ユーグのところで「都市づくりシミュレーションだぜ」などと思いながら、楽しく過ごしていた自分のバカさ加減を今になって気づかされたのだ。


「もちろん、賢者の知恵を借りたかったのは事実だ。しかしそれ以前に、ただでさえ厄介なアヴェーヌ公爵に加えて、賢者という助言者を向こうに回したくはなかった。」


「それで、私に宰相という立場を用意したということですか?」


要するに、他国との交渉で出し抜かれないよう俺に交渉役を担えということだ。それには宰相という立場が必要だから用意したと···


「だから、その話は待てと言っているんだ。」


しばらく沈黙していたヴェーハートが怒りを表情に浮かべながらそう言った。


ふむ···


これはどうにかしないといけない。


「とりあえず、この件についてはゆっくり話をしましょう。会議のために準備した飲み物を入れてもらいますので少しだけ時間をください。」


俺はそう言って、場をクールダウンさせるために動いた。


俺が知らないところで宰相がどうのという話は勘弁してもらいたい。しかし、それ以上にこの件はしこりとして残る可能性があった。


おそらく、ヴェーハートはマイグリンたちとは時間軸や空間軸が違うのだと思う。


ここでいう時間軸や空間軸というのは、物事の捉え方という意味である。


まず、時間軸とは過去や現在そして未来のどこを見て考えているかということだ。長期的なことを視野に入れているマイグリンに対して、ヴェーハートは過去と現在に捕らわれすぎていた。すなわち、戦争における自らの功績とプライドである。


さらに空間軸とは、視野の広さや物事を俯瞰的に捉えられる能力のことをいうが、ヴェーハートは自分とその周りしか見えていない。


ビジネスに置き換えると、この時間軸と空間軸というのは仕事の出来不出来を大きく左右するものとなる。


簡単にいえばマイグリンは管理者領域(マネージメント)、ヴェーハートは従業員領域(エンプロイ)の思考でそれぞれ主張しているのだろう。


戦争時に軍を指揮して功績のあるヴェーハートが、そのような思考を持つことは今後にとって弊害となる。平社員レベルの思考力なのに、社長や重役クラスに同等の立場で経営論を説いているような状態だからだ。


俺はチコリコーヒーの生産もしてもらえるように、その素材を提案用として持ち込んでいた。こちらでも王国と同じで、飲料として一般的なのはアルコールを薄めた水しかなかったからだ。


より多くの人にチコリコーヒーの味を知ってもらおうと会議の人数分を揃え、さらにコーンシロップの持参と牛乳の手配までしている。


ヴェーハートも良識はあるようで、無理に話を中断させた俺に対して怒りの矛先を向けることはなかった。




「うん、不思議な味だが何となく落ち着くな。」


「ああ、色からしてクルゴンのポーションかと思ったが、これはなかなかいけるんじゃないか。」


マイグリンもブローナンヴィルもそれなりに高評価のようだ。


エフィルロスやビジェもシロップと砂糖を入れておいしそうに飲んでいる。


ヴェーハートも黙って口に含み、味を確かめているようだ。


「ところで、なんでソーはそこに座っているんだ?」


ブローナンヴィルは、彼やマイグリンとは対面の席、しかもヴェーハートの横に座った俺に疑問を呈した。


「宰相云々という件について、私もヴェーハート様と同意見だからですよ。」


真っ先にヴェーハートが反応した。


こちらに送ってきた視線が不思議なものを見るように見開かれている。


「その理由は?」


マイグリンが興味深そうにそう尋ねてきた。


「私に賢者と呼ばれる資質があるかは別として、一国の宰相という立場になると存在意義がなくなるからですよ。」



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