第81話
翌日、いきなり波乱が幕開けた。
今後の計画のための会議が催されたのだが、出席したひとりから俺に対する不信任案が出されたのだ。
俺自身は聞かされていなかったが、マイグリンたちは俺を国の要職···しかも、宰相待遇で迎え入れると言い出した。
宰相とは、前世の日本でいうならば内閣総理大臣にあたる。正確にいうならば、君主の命を受けて国政を執り行う者を指す。
いくらなんでも飛躍し過ぎだと思った。彼らの賢者に対する信頼を物語ってはいるが、俺の人間性に関しては出会って間なしの状態で詳しく知る由もないはずだ。
「昨夜に決めたことだ。私は国主として任命されたが、国政に通じているわけではない。その辺りは賢者ソーが適任だと、歓迎会に出席した者たちで決定した。誰からも不満の声は上がらなかったのだから、不信任案など受理しない。」
「おまえが宴席を意図的に欠席したから悪いんじゃないのか?昨夜の談話でソーの能力は立証されたぞ。」
マイグリンに続いてブローナンヴィルまでたたみかけた。
聞いてる俺自身が引いてしまうほど安直過ぎるのだが···。
「俺が欠席した理由は言ったはずだ。戦争を知らん奴に国の舵取りなどさせる気はないと。いくら国主たるマイグリンが推したとしても、それだけは納得いかん!」
不信任案を出して激昂しているのは、獣人で獅子族たるヴェーハートだ。
巨体で頭は天井近くにある。
220~230センチメートルくらいはありそうだ。体格もそれに見合ったもので、体重は推定で200キログラムは下らないだろう。
「エフィルロス様、これはどういったことでしょうか?」
俺は思わず、傍らにいるエフィルロスに確認を入れた。
「ヴェーハートは最前線で戦った英雄なのよ。それだけに戦争の過酷さを誰よりも知っている。だから、軍事力を高めて周辺諸国を牽制するよう求めていたの。マイグリンはあなたを迎えることによって、強国としてではなく協調路線に変更するといった。それに対して不満があるのだと思う。」
ふむ、意味は理解できる。
できるが···
「それ以前に、なぜ私が宰相などという発想に?」
「王国のアヴェーヌ公爵よ。」
「どういうことですか?」
「王国で最も思慮深く、力を持つのがその人なの。さらに今の国主の義父であり、王太子の祖父ともなれば絶対に無視できない存在よ。あの国がこの数十年の間に、緩やかではあるけれど繁栄を続けているのはアヴェーヌ公爵の功績といっても過言ではないわ。」
厳密にいえば、王国の貴族は領地を自領として持っているわけではない。国主が世襲として爵位を授け、与えた領地の租税徴収権を認めるという典型的な封建領主制度の仕組みを採用している。
対して、アヴェーヌ公爵は公領として独立した領地を持っている。
自領に関する国の関与や任命権がないことから、領主の裁量しだいで大きな資力を生むことが可能だ。俺にとってのアヴェーヌ公爵は釣り好きの紳士というイメージが強いが、政治や領地運営が絡むと雰囲気が激変するのを何度か目撃したものだった。
ユーグが宮廷に仕えることを拒否して母親の故郷で領主を目指す発端を作ったのも、不採算な土地への補助を取り止めるというアヴェーヌ公爵の冷徹な一面が関与している。
「私は王国の国主と会ったことはありませんが、確かにアヴェーヌ公爵なら国を裏から牛耳る力もありそうですね。」
娘を王妃の立場に送り込み、周囲の貴族からの反感を抑え込める財力、そして公爵個人の能力と先見の明。例えるなら、財閥や巨大企業グループの総帥のようだと感じたこともあった。
「その王国一のやり手を篭絡した人物がいるでしょう?」
「篭絡···誰でしょう?」
「あなたよ、ソー。」
「···はい?」
そこでマイグリンが口を挟んでくる。
「その通りだ。我々も何の情報も収集せずにソーを召喚したのではない。かの御仁は王国にとっての頭脳とも呼ばれている。狡猾で思慮深く、表立っては政治の舞台には立たないやり手だ。残念ながら、こと政に関しては我々では出し抜くことは難しいだろう。しかも、あまり人を信頼しないとも聞く。もし、彼が前面に立って我々と交渉するとなれば、終始向こうのペースに巻き込まれる危惧すらあったのだ。」
なるほど。
言葉は悪いが、アヴェーヌ公爵は狸のようだと感じていた。
ユーグの件に関しても、あのように自由にさせていたのは表面上見限ったと公言していたからである。しかし、公爵と話をかわした印象では、その背景にはユーグに対する期待と自らの力で経験と成功を培わすための思惑があったのではないかと感じていた。
孫である王太子が即位する頃には、ユーグが大成しているという計算があったのではないかとも思える。
将来的に孫と実子が王国で力を持ち、他の有力者たちを牽制できるだけの土台づくりを水面下で行っていたと考えれば符合する点も多い。




