第79話
「火山灰?」
「ええ、死火山などが近くにあればよいのですが。」
「それならば都市の予定地の近くにある。しかし、灰など何に使うのだ?」
答えたのはマイグリンだ。
「セメントが作れればと思っています。」
「もしかして、コンクリートで作る気か?」
それに反応したのはブローナンヴィルである。
「ええ、ご存知ですか?」
「古代の建築ではよくあったようだ。今でも現存するものがあるが、特殊なコンクリートなのか、何を使って作られているかがよくわかっていない···もしかして、それが火山灰なのか?」
コンクリートに用いられるセメントは石灰がメインとなる。石灰岩、粘土、珪石、酸化鉄を高音で焼いたクリンカーと呼ばれるものに石膏を混ぜ合わせたものだ。ただ、この手法では時間も費用もかかり過ぎてしまう。
「ええ。可能であればですが、火山灰、石灰、火山岩、海水が調達できれば耐用年数の高い物ができると思います。」
ここで話しているのは、前世でもロストテクノロジーとされているコンクリートの話である。
一般的にコンクリートの耐用年数は50~100年といわれている。しかし、それをはるかに超える超耐用年数のコンクリートが実在するのだ。
古代ローマ時代に造られたパンテオンは2000年が経過した今でも現存する。しかも、通常では鉄筋を入れて引っ張り強度を増すのに対して、無筋コンクリートで形成されているのだ。その名をローマンコンクリートと呼ぶ。
「それで強固なコンクリートができるのか?普通のコンクリートが何百年にも渡って建造物に使われなかったのは強度に不安があるからだ。いや、ソーの話しているものは既に普通のコンクリートとは中身が違うな···」
「一般的なコンクリートは、圧縮には強くても引張り強度に不安があります。鉄筋などを骨組みとすることでそれはクリアできますが、コンクリート内にある鉄筋もいずれ錆びてくるので何百年という年月はもちません。それで提案なのですが、今回の建築計画は二期に別れて行うというのはいかがでしょうか?」
「二期というと具体的にはどういった内容で行うのだ?」
ここでマイグリンが質問を入れてきた。
国主となるのだから、最も都市計画の詳細を詰めておきたい立場になるため、気になるのはあたりまえのことだろう。
「一期目に行う建築はスピードを重視した仮設型の建造物でまかない、二期目に耐用年数の高い建設を行います。この場合、都市計画に余剰な敷地が必要となりますが、先を見すえると移住者が増えた際の住居にあてがうことも可能でしょう。10~20年しかもたない建物であったとしても、急激な人口増加が見込めるのは産業や経済的に魅力がある都市だと吹聴されてからになりますので、建て替えるにはちょうどいい時期だといえます。その間は訪れる商人に貸出すなど、他に活用する術はいくらでもあるでしょう。」
「確かに無駄ではないかもしれない。しかし、都市計画を大幅に変更する必要が出てくるな。」
「変更は必要だろう。どうせコークスの工房を作るなら同じことだ。コールの加工を街のド真ん中でやると空気が汚れるしな。それと、さっき話していたコンクリート造りの建物に何か重大な要素があるんじゃねぇのか。」
マイグリンの懸念をよそにブローナンヴィルは何かを察しているようだ。
「そうですね。不確定要素は高いところですが、バサノス・イネの製造に成功したときのことについて言及したいと思います。」
「それは···ダンジョンでの探索がうまくいったときの話ではないのか?」
「うまくいかなくてもバサノスを加工する知識はあります。試行錯誤や時間は必要ですが、そこは創意工夫で何とかできるのではないかと。」
「···できるのか!?」
「かなり難しいことに違いはありません。ダンジョンで設備が発見できればそれを活用する方が効率的でしょう。しかし、時間をかけてでもその価値はありますよ。」
マイグリンとブローナンヴィルがきょとんとした顔をする。
「だが、バサノスでは資金調達はそれほど見込めないと言っていなかったか?」
「資金調達という面では策はあります。それにバサノス・イナを建造物に使うと、私の理論上では数百年から数千年はもつ超高耐久の建造物をつくることが可能ではないかと思っています。建て替えや修繕にかかる費用が抑えられることだけでも相当なものではないでしょうか?」
唖然とする者、話についてこれていない者など様々だが、それなりにインパクトのある話という感触だ。
「具体的に話してくれないか?」
マイグリンは近くにいた者に書記をするように指示したようだ。この辺りは抜かりがない。
「ちょっと待ってもらえる?これって歓迎会でしょう。それにソーは今日着いたばかりなのよ。」
突然のエフィルロスの一言で場が静止した。
「···ああ、そうだったな。」
マイグリンはバツの悪そうな顔をしていた。
俺が前世で会社員だったなら、社畜がこんなところにもいるとかブラックだとか考えていたかもしれない。
しかし、事業を起こした人間にとってはあたりまえのことなのだ。もちろん、従業員には法に乗っ取った対応をしていた。しかし、事業家はそんなことを気にするよりも新しいアイデアを形にすることを優先する。
何より、やっていることが楽しかった。自分が持つ先人たちの知識で興国に関与できるのだ。チートなしでも異世界は十分に楽しいというのが本音である。
ただ、今後のことを考えると、休息は取れるときに取っておくべきだと考え直した。




