第78話
「コールを使うわけにはいきませんか?」
コールというのはこちらでの石炭の呼び名だ。
「使えないことはないが、木炭に比べて鉄の品質が下がる。」
石炭をそのまま燃料として使用すると、含有する硫黄分が鉄と化合して硫化鉄となってしまう。
「コールを加工してコークスを作るというのはいかがでしょうか?燃焼温度も木炭やコールよりも高く、鉄の品質も低下しません。それに燃焼時間も木炭よりはるかに長い。」
コークスというのは、石炭を蒸し焼きにして不純物を取り除いたものだ。成分はほとんど炭素と灰だけのため、燃やしても煙が出ない。燃焼温度は木炭や石炭は1000℃、コークスもそれに近いものである。しかし、ふいごなどで送風を行うと、コークスの方の比重が大きく発熱量も高いのである。
燃焼時間は1個で7~24時間継続して使える。木炭が30分から1時間程度だと考えると、効率のよい燃料だといえるだろう。ただし、石油に比べて大気を汚染しやすいのが弊害である。
「その話、もっと詳しく聞いてもいいか?」
ブローナンヴィルが食いついてきたため、俺は概要を説明する。
「なるほどな···よし、その方向性でいこうか?」
ブローナンヴィルはマイグリンに同意を得るように目線をやった。
「そうだな。それが成功するとして、木材に余裕が出そうだ。家屋の建設に回せないか?」
「木造か···確かに石工が足りてないからな。しかし、それだと耐用年数が短くなるぞ。」
こちらの気候はヨーロッパに近く、風土や生活様式もそれに近い。建築物も日本とは異なり、石造りが主体となる。
日本では築100年をこえると古民家と呼ばれるが、ヨーロッパの建築物の耐用年数は300年をこえるものもあったりするのだ。
家屋も同じで、長く暮らすものとして定着している。この長くが数百年単位というところに日本との違いがあるのだ。日本はやはり湿気と地震の多さがネックとなり、その対策が木造住宅の多さにつながった。湿気が溜まりにくく、地震で倒壊しても生存率が高いがゆえの木造文化だったりするのだ。
「耐用年数に関しては仕方がなかろう。工期は木造の方が短いのじゃないのか?」
「確かに石材の運搬は人足や時間が必要だ?しかし、木造の建築資材に加工するとなると職人が足りん。」
どうやら、今から新しい街だか都市を作る話のようだ。
「ソー、何とかできるか?」
「木造住宅の工期を早める方法ということでしょうか?」
「そうだ。一年以内に都市として成立させたい。水道や道路の計画は問題ないが、人の住む家を早々になんとかせねばならない。」
「今まではどのような工程で建築していたのですか?」
「資材を現場に運び込んで、その場で加工だ。寸法を合わせながら組み上げるから技術と経験がいる。」
「一棟建てるのにどのくらいかかりますか?」
「職人が10人ほどで半年ってところだ。むろん、資材の搬入などは別でな。」
昔ながらの建築方法だ。
石造りがメインなら、さらに時間はかかるだろう。しかし、一年以内でとなると、何百軒もの家を建てるのはかなり厳しい。
「プレカットにすればよいのでは?」
「プレカット?」
「あらかじめ木材を加工しておくことです。それを現場に運び込み、組み上げることで工期を短縮できます。」
「しかし、木材には反りや変形がつきものだ。加工しておくのはいいとして、組み上げで合わなくなることもあるだろう?」
「そうですね···集成材を使えば、反りや変形は抑えられます。」
「集成材?」
「簡単にいえば、複数の長い板をくっつけて建築資材となる木材を作り出したものです。」
俺は紙にイラストを描いて説明した。
「大事な柱は天然の木材を使用し、それ以外にはこの集成材を用いることで、職人の経験値に左右されることも少なく工程を短縮できるはずです。」
「ふむ、柱に天然木を使うのは強度的な問題というわけか。」
構造用の集成材には高い基準の強度が必要となる。前世の集成材も、使用が開始されたのは1930年代以降と歴史は浅い。この時代では集成材に必要な接着剤は牛乳から取れるカゼインくらいなものだろう。カゼインは生分解性プラスチックでも使用したが、接着剤としても用いることができる。
だが、家具ならともかく、建築物に使うには緻密な強度計算と一定の品質は不可避となる。その実現のためには前時代的な技術では難しい。そのため、構造的に重要な部分には天然木の柱を利用する方がよいだろう。
「それでどれくらいの耐用年数になる?」
「平屋にすれば20~30年はもつかと思います。」
湿気の少ないこちらではもっともちそうな気もするが、強度や構造計算ができないのだからあまり大きなことはいえない。
「それは短いな···せめて50年くらいにならんか?」
「50年ですか。」
考え込んだ俺に、やや落胆の色を見せるブローナンヴィル。
「やはり難しいか···」
「木造や石造り以外でも、工期が早く耐用年数が長ければよいのですよね?」
ここで木造や石造りに固執する発想では手詰まりとなる。
「火山灰を得ることはできますか?」
俺は別の建築手法を提案することにした。




