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第100話

それから数日後、会談出席のために王国のアヴェーヌ公領に向けて出発した。


馬車による移動はそれなりの時間を要する。国境付近に川があり迂回しなければならないからだ。


出発からしばらくは会談での王国の出方をシミュレートするためにマイグリンと最終打ち合わせを続け、それが納得できる形に着地すると、次は新国の産業経済のための案をひとりで煮詰めることにした。


「よろしいですか?」


同じ馬車に乗るビジェが紙の束を見せてきた。


彼女は護衛ではあるが、俺の仕事の手伝いをしてくれている。主に食材関係でだが。


「どうかした?」


「各人種からヒアリングした故郷の料理と食材のリストがまとまりました。それと、新都市予定地の周辺で自生する植物と、食材に使える野生動物の照合も終わっています。」


「ありがとう。」


「あと、これはエルフ族の知識だけですが、家畜にできる動物についてもリストアップできています。」


ビジェから受け取ったリストを見ると几帳面に筆記されていた。


この時代でも表計算が使えると楽なのだが、ないものは仕方がない。


「すごく見やすくまとまってる。ビジェはこういったセンスもあるんだね。」


「ソー殿が普段記している書類を参考にしていますから。」


リストアップの手法はToDoを使っている。


ToDoリストはやるべきこと(タスク)を洗い出し細分化、優先順位をつけて期限を設定するというのを基本にしている。また、タスクごとに必要な情報を紐付けることで、一覧すれば誰でもやるべきことが明確になるので利便性が高い。


現代の企業ではToDoリストを用いている所も多いのだが、その本質や使い方を教えずに、ただ「ToDoリストに入力しろ」というダメ上司も多いと聞く。


おそらく、その上司自体が理解できていないのだろうが、便利なツールなのに宝の持ち腐れというべきだろう。


ビジェに依頼していたのは、そのタスクのひとつである食糧部門についてだった。


長期食糧備蓄など、食糧危機への対策は国家にとって重要な政策である。今回は新都市での備えを中心として行い、他の領地は既存の元領主や人民がこれまで通りに行うというものになっていた。


もちろん、戦禍により食糧難に陥った地域もあるのだが、それらはいずれも旧人族国家である。民の多くは戦争難民となって散り散りとなり、残っているのは降伏を受け入れた元領主や貴族の係累ばかりだそうだ。


彼らはマイグリンに対して忠誠を誓うと告げてきたに関わらず、頑なにその地域を離れようとはしない。


非常に難しい問題ではあるが、当事者がマイグリンの呼びかけに対してその場を動かないのは、以前と同じ立場に復帰したいがための悪あがきなのではないかと思われた。


それぞれに都市を復興させ、自らの領地としたいとの申し出は少なからずあったようだ。


ただ、個人的には馬鹿なことをしていると思っていた。


彼らのような亡国の元貴族など、よほどの例外を除いてマイグリンが領地を与えることはないだろうと思えたからだ。


民が早々に逃げて難民となった背景には、圧政や搾取があったというのが戦後の調査である程度把握できているそうで、すぐに拘束するまでもないが領地を与えるような道理はないとすでに判断されているらしい。


個人的にもそういった者たちは治世者に値することはないと感じているため、後々財産を没収されて路頭に迷えばいいとすら思っている。


また、例外とは戦況や国情を早い段階で見極めて帝国に迎合した者たちである。


彼らの多くは、民たちの安全のために故郷たる自国に背を向けた者が多かった。自らの立場や誇りに固執せず、多くの人民の命を救った彼らは賞賛に値するだろう。


マイグリンもそういった者たちについては、人種や敵将などであった垣根を越えて重用したいと考えているようだ。


この辺りに関しては、俺が口を挟むべきではないだろう。


俺がマイグリンに協力しているのは、あくまで多くの人々の平穏な暮らしを確保するためと、自らの立ち位置にやりがいを感じているからに他ならない。


自身に害なす者ならともかく、人に恨みを抱かれることに積極的に関わろうとは思っていなかった。例外に値する人たちの抜擢に関しても同様で、自分がマイグリンに比肩するような要職だとも思われたくない。


やりたいことだけをやる身勝手な奴だと思われるかもしれないが、だからこそのコンサルティング契約なのだ。


立場を明確にし、敵対者を極力作らないための策としては最適解だろう。誉高い人物と過剰に評価されることもまた、敵を増やす要因となる。


ただ、懸念事項がないわけではなかった。


俺の命を狙い、再び戦争を起こそうとした武器商人が未だ拘束されていない。そして、旧国の貴族の中に武器商人が逃走で頼った人物と交流を持つ者がいたのである。


その旧国の貴族は領地に金鉱を持っており、発掘量を偽って自国に流通させる数を調整していた節があった。そして、その金は隣接する地域へと流れていたと想定されている。


隣接する地域とは王国の辺境伯領だった。


そして武器商人が逃走に頼ったのも、その辺境伯領の領主である可能性が浮上していたのである。




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