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17 舞踏会へ

 

「出来ましたミラお嬢様! とってもお美しいですよ!」


 リゼに促されて、ドレッサーの前に腰掛けたミラは、鏡の中の自分をまじまじと見た。


 週末の夜会に、頼んでいたオーダードレスの仕上がりが間に合ってよかった。

 ミラが「悪女的な感じで」と注文つけて出来上がったのは、大輪の薔薇のようなドレスだ。


 クリノリンでたっぷり膨らませた深い赤の重厚な生地に、存在感のある黒いレース飾り、小ぶりだが一級の輝きを放つブラックダイヤがそこかしこに縫い付けられた、公爵家の税をつくした一着だ。


「オーダー通りとはいえ……このドレス、胸元が空き過ぎじゃないかしら」


 肩も背中も出ていて、落ち着かない。


 しかしリゼはしたり顔で否定する。


「夜会ですから、このくらい普通ですよー。胸元から喉に沿ってはレースに覆われていますし、寧ろ肌の露出は抑えめなほうです」


 黒いレースの下に白い肌が透けるのが、かえって妖艶な気がするが……。


 ――いや、言うほどでもないかしら? 


 改めて客観的に見る自分の姿に首を傾げる。


 ――寧ろこのデザインなら、もっとセクシィになってもいいはずじゃないの?


 このドレスが下品にならないのは、デザイナーの腕が良いのもそうだが、いかんせん控えめな胸のふくらみのせいでは、と思い至り、先日暴漢に襲われた際言われた言葉が蘇えるが。


 ――伸びしろ、これは伸びしろだから。


 心の中で魔法の呪文を唱えて自分を冷静にさせる。


 瞳以外は母親似と言われているから、いずれは母のような豊かなボディになるはずである、きっと多分。


「髪も素敵ね、ありがとうリゼ」


 あえてきつめにカールをかけてもらった黒髪には、大きなブラックダイヤが真ん中についた黒いリボンと、園庭から選び抜かれた薔薇の生花が飾りつけられ、大人っぽくて華やかな印象に仕上がっている。

 時間をかけて準備してくれた侍女を労うと、彼女は力強く両拳を握りしめる。


「これでシルヴァンティス伯爵令息もメロメロですわ!」


「え、いや、キースがメロメロとかは、べつに期待してないんだけど……」


「もう馬車の準備も出来ておりますよ。出発いたしましょうお嬢様!」


 予期せずキースの名前を出されて何故か動揺してしまったミラの言葉を、まるで聞いてない様子のリゼが張り切って部屋の扉を開け廊下を先導していく。


 ――メロメロ? あの無愛想な男が? いやいや、ないから。


 静かに首を振りながら、ミラは公爵家の馬車へと乗り込んだ。


 ――因みに侯爵家の夜会に出席したいと話した際、父ルネはもろ手を挙げて賛同してくれた。


 年頃の娘がオシャレもせず神殿に通いつめなのを心配していたので、社交に興味を持ったことが嬉しかったらしい。


「でもエスコートはどうするんだい? パパが一緒に行こうか?」


「ううん、キース…あ、シルヴァンティス伯爵令息と約束してるから平気よ」


「――――へえ……。彼とは仲がいいのかな?」


「ええ、いいお友達よ」


 にっこり答えるミラに、父も同じくにっこりして、「今度ぜひ一度、僕もご挨拶したいなぁ」と言っていた。


 もっと険悪な反応されるかもと思っていたので、意外と好意的でよかったな、とミラは思った。


 会場であるバルマン侯爵邸につき、馬車から降りると、キースがすでに外で待っていた。


 キースも今日は夜会用にめかし込んでいる。


 ワンサイドにだけ編み込みを作り、いつもより高い位置で一本に結んだ銀髪が、月夜に映える。


 一からお揃いで仕立てる時間はなかったが、ミラのドレスは「赤い薔薇モチーフ」と事前に伝えていたので、それに合わせて選んでくれたのだろう、濃いローズグレイの生地で、襟や袖に精緻な黒い薔薇の刺繍を入れた礼服を着ている。


 精悍なキースの姿になんとなく落ち着きをなくし、彼の前、腕にはめた黒いレースの長手袋を意味もなく引っ張り上げながらミラは視線を揺らした。


 そもそもミラの深紅のドレスは、図らずともキースの瞳の色に合わせたようになってしまっており、やや気恥ずかしい。

 ミラの揺れる視線が、キースの上着の胸元、自分の髪と同じように飾られた、赤い薔薇を捉える。


 瞳の色に近いせいか――。


「――赤い薔薇が似合うわね」


 知らず声に出た。美貌の青年は考えるように腕を組んでミラを見下ろす。


「あんたはあんまり似合わないな」


「ノンデリ!!」


 ――いや、メロメロとか! そりゃ全然思ってなかったけどね?!


 意図せぬ呟きを聞かれたのが恥ずかしいし、お世辞にも似合うと返してこない相手が憎らしい。


「というかあんたはなんか――まあいいや」

「待って! 諦めないで! なんか何!? そんな変?」


「変じゃないが……いや変じゃない、ないから安心しろ」


 ――絶対言いたいことがあったくせに、面倒くさいから止めたやつじゃない。


「ほら行くぞ」


 差し出された腕をしぶしぶとり、もう片手でボリュームのあるドレスの裾をたくし上げる。


 どうにも納得いかぬまま、ミラは侯爵家の玄関ホールへと続く階段を上がった。


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