第2話:お払い箱の荷物持ちと、暗闇に消えた聖女
王都から馬車で数日。俺たち『暁の光』は、目的の『黒王の迷宮』へと足を踏み入れていた。
ゴツゴツとした岩肌が剥き出しの洞窟内は、松明の炎を吸い込むような深い闇に包まれている。ひんやりとした湿った空気が肌を刺し、時折、遠くから魔物の不気味な咆哮が響いてくる。
「おいトウマ! 足元がふらついてるぞ! ポーションの入った箱を落としたらタダじゃおかねえからな!」
前方を歩く重戦士のガルが、大剣を肩に担ぎながら振り返って怒鳴る。
「す、すみません! 岩に躓いちゃって……!」
俺はわざとらしく息を切らし、重いバックパックの紐をキツく締め直すフリをした。
リーダーの勇者アレンは、俺の様子を一瞥すると、鼻で笑ってリリア様に話しかけた。
「リリア、やっぱりこんな無能な荷物持ち、王都においてくるべきだったな。足手まといだし、いざという時に足がすくんで魔物を呼び寄せかねん」
「アレン、そんな言い方はやめて。トウマが荷物を引き受けてくれているから、私たちは戦闘に集中できるのよ」
リリア様はアレンを窘めるように眉をひそめると、後ろの俺を振り返り、ふんわりと微笑んだ。
「大丈夫よ、トウマ。何があっても、私が神聖魔法であなたを守ってあげるからね」
その碧眼には、純粋な慈愛と、俺に対する完全な「無警戒」が宿っている。
聖職衣の胸元から覗く白い肌が、松明の光に照らされて妖しく艶めいていた。
(ああ、本当に優しい聖女様だ。……だからこそ、めちゃくちゃに汚し甲斐がある)
俺は俯き、口元に浮かび上がる邪悪な笑みを必死に噛み殺した。
アレンたちの言う通り、俺はとっくにこのダンジョンの構造を把握している。
それどころか、仕込みはすでに完了していた。
◇
パーティーが中層の細い一本道に差し掛かった時のことだ。
「――よし、ここを超えれば中層の安全地帯だ。警戒を怠るなよ」
アレンが先頭で指示を出した、その瞬間。
「キャッ……!?」
最後尾を歩いていたリリア様が、小さく悲鳴を上げた。
彼女の足元の床が、まるで生き物のように不自然に陥没したのだ。
「リリア!?」「聖女様!」
アレンとガルが慌てて振り返るが、遅い。
それは、通常のダンジョンの罠ではない。俺が事前にばら撒いておいた『自身の粘液』によって、岩盤の固定を一時的に溶かして作った、俺専用の特製トラップだ。
底なしの縦穴へと真っ逆さまに落ちていくリリア様。
俺はすかさず、その縦穴に向かって身を投げ出すフリをした。
「リリア様ーーーっ!!」
「トウマ!? クソッ、二人とも落ちたか!」
上空からアレンの忌々しそうな声が聞こえたのを最後に、ガガガガ、と音を立てて強固な岩のシャッターが閉まり、縦穴の入り口が完全に塞がれた。
これで上からの追跡は不可能。アレンたちがここまで回り込んでくるには、最短でも丸一日はかかる。
完全な密室の完成だ。
◇
「……う、うう……」
暗黒の底。リリア様は、受け身の魔法が間に合ったのか、奇跡的に大きな怪我もなく、冷たい地面に横たわっていた。
「ここは……? トウマ? トウマ、いるの……?」
リリア様は震える手で、小さな光の魔法を灯す。
淡い光が照らし出したのは、周囲を分厚い岩壁に囲まれた、誰も来ない広い空洞だった。そして、その少し離れた場所に、荷物持ちの少年――トウマの姿はなかった。
代わりに、そこにいたのは。
じょぼり、じょぼり……と、不快な水音を立てて蠢く、巨大な半透明の質量。
光を浴びて妖しく紫に輝く、おぞましい【特級スライム】の本体だった。
「ひっ……!? ま、魔物……!?」
リリア様の顔から血の気が引いていく。
スライムの身体からは、無数の太い触手が植物の蔦のように伸び、彼女を囲むように地面を這っていた。さらに、空洞を満たすのは、頭が芯から痺れるような、甘く濃密な媚薬の香り。
「神よ、我が祈りを聞き届け、邪悪なる存在を退ける力を……『聖なる光』!」
恐怖に震えながらも、リリア様は胸の前で手を組み、最高位の攻撃魔法を放った。
まばゆい聖なる光弾が、スライムの核を目がけて真っ直ぐに放たれる。直撃すれば、並の魔物なら一瞬で消滅する一撃。
しかし。
ベチャリ。
光弾はスライムの表面に触れた瞬間、パチパチと音を立てて、文字通り「ドロドロの粘液」へと融解し、吸収されてしまった。
「嘘……!? 私の神聖魔法が……消された……?」
リリア様の碧眼が、絶望に大きく見開かれる。
完全擬態と魔力吸収を極めた俺にとって、人間の小細工な魔法など、ただの栄養源に過ぎない。
グチャリ、と音を立てて、スライムの本体から一本の太い触手が伸びる。
それは、怯えて座り込むリリア様の足元へと滑り込み、白い太ももを容赦なく締め付けた。
「いやっ……! 離して、離しなさい……!」
リリア様が身悶えする。だが、暴れれば暴れるほど、触手から分泌される特殊な粘液が、彼女の白い聖職衣をジュワジュワと音を立てて溶かしていく。
布地が溶け、露わになっていくのは、誰も触れたことのない聖女の真っ白な素肌。
そして、俺の【性感探知】のスキルは、彼女の身体が恐怖で震えながらも、すでに媚薬の香りにあてられ、信じられないほど敏感に色づいていることをハッキリと捉えていた。
(さあ、始めようか。気高き聖女様。神に捧げたその身体が、魔物の快感にあっけなく屈する姿を、じっくり見せてくれよ)
意思を持った無数の触手が、衣服を剥ぎ取られた聖女の豊かな双丘と、秘められた聖域へと、容赦なく同時に伸びていった――。




