人になる乙姫
乙姫様は、龍宮城の入口まで、太郎を呼びました。
「なにかあったら、太郎を龍宮城の外に押し出して、記憶を消しましょう」
と私が助言したからです。
もちろん、乙姫様は躊躇されましたが、お互いに気まずくなるだけだからと、私の提案をお受け頂きました。
太郎がやってきました。
私は影からこそっと見守ります。
「乙姫様、お呼びですか……」
太郎は照れくさそうに言いました。
「あぁ。歩こうか……」
乙姫様が言われました。
歩いて行かれたら、私がついていけませぬ。
乙姫様気付いてくだされ。
「あっ、やはりここでよい」
「そうですか」
「あのな……。亀からな。太郎の気持ちを聞いたのじゃ」
乙姫様はもじもじしながら、言われました。
頬をほんのり紅く染められ、そう言われたのです。
「……あの亀。おしゃべり……。
はい。
私は、乙姫様をお慕い申しております。
申し訳ございません。
あなたのような身分の方を」
「太郎。お前はいつまでたっても、変わらないのぉ。
ワシが身分は気にせんよ。
そう言ったのに……」
「はい。
ですが……」
「ワシも太郎が好きじゃよ」
「……そうですか。そうですよね……。
えっ今なんと……」
太郎は目玉が飛び出るような驚き方をしております。
「だから、ワシも太郎が好きじゃ。両想いなんじゃよ」
乙姫様は、桃の木を見ながら言われました。
太郎は、目を見開き、明らかに喜んでおりました。
「しかしじゃな。
そのお主の好きが夫婦になりたいというものなら、
いささか問題があるのだよ」
「その問題とは何ですか?」
「私は龍宮城を出ないといけない……」
「乙姫様は私となら龍宮城を出ても良いと思われているのですか?」
乙姫は唇を噛み無言でうなづく。
「乙姫様さえ、よければ問題ございません。龍宮城を出ましょう」
太郎は力強く言いました。
よくぞいったぞ。私は太郎を褒めてやりたくなりましたよ。
乙姫様も少しうれしそうです。
「あとはな。龍宮城を出ると私もお前も歳をとり、いずれ永遠の別れが来る」
太郎は少し考えた。
無理もない。永遠の命か、そうでないか。こんな大きな問題容易く決めれるわけはない。
「乙姫様がよければ、私はそれで問題ございません」
そう太郎は言いました。
「そうなのか……」
少し意外だったのでしょうな。
乙姫様はポカンとされました。
「なぜじゃ。龍宮城におれば、永遠の命が手に入るかもしれないし、別れも来ぬのじゃぞ」
そう乙姫様は聞かれました。
「私は乙姫様と結ばれるなら、永遠の命なんていりません。むしろ乙姫様と結ばれないのに、永遠の命など、迷惑でしかありませぬ」
そう太郎は言いました。
それを聞いて乙姫様は急にお腹を抱えて笑らわれました。
「そうか。そうか。たしかにな。永遠の命と引き換えに、叶わぬ恋があったとしたら、それは地獄かもしれんな」
そう言われました。
太郎もうなづいております。
よしあと……
もう一歩。
私の応援も気合が入ります。
しかしやはり、なかなか言いにくそうです。
「あとはな。太郎……龍宮城の記憶がなくなるのじゃ」
「記憶……。
記憶がなくなるのですか?」
と今までとは少し様子が違う太郎。
やはり記憶がなくなるのは、きついのだろう。
「そうじゃよ。ワシも太郎も記憶がなくなるのじゃ」
「……えぇとでは、乙姫様と私の関係はどうなるのですか?」
「一応な、夫婦という関係にはなり、その夫婦という記憶は作られる。ただ龍宮城の記憶はなくなる」
「夫婦という記憶が作られるなら、だいじょうぶです。私は乙姫様を初めて見た時からお慕いしていましたから……」
乙姫様の顔がぱーっと紅くなる。
「しかし……少し不安なことがあります。
私は漁師でしたが、それほど腕のいい漁師ではなく、
学問を学んで、その知識があったから、自信がありましたが、それがなければ、乙姫様を満足させる器量があるかどうかが……」
乙姫様も困っておられる。
ここは私の出番。
「ごほん」
私は颯爽と登場する。
風がサーっと吹いて、私の顔にペタと木の葉をつける。
あぁ恰好が悪い……。
「あぁ聞いていたのか……」
まんまとやられたという顔をする太郎。
「乙姫様、太郎様。
龍宮城を出る際は、記憶は消されますが、御成婚となると、
龍宮城から支度金が出ることになっています。
また召使いも二人つきますので、それを使えば、生活に困ることはないでしょう。
また知識も一度見につけたものは、記憶が消されても、身につくのが速いので、困ることはないと思いますよ」
そういうと、太郎の顔がぱぁっと明るくなって、
「それであれば、乙姫様に苦労させることはない。
乙姫様さえよければ、私は乙姫様と夫婦になりたい」
そういいました。
「私は人として、あなたと生きれるならそれで十分です」
そう乙姫は言ったのです。
完…
でエンター、
あとは保存してアップして終わりっと。
ようやく乙姫の恋話が書き終わった。しかし……
なんでこの作品を書いたんだろう。
よくわからない。
まっいっか。
書き終わった事だし。
いい匂いがする。
あぁ晩飯の時間か……
今日は何だろう。
いつもとは違う匂いがする。
「今書き終わったよ」
「お疲れ様。
もうすぐできますから、
そういえば、今回の執筆は珍しくおみくじで選ばなかったのですね」
「そうなんだよ。なんかね」
それもなぜかは記憶がない。
「そう言えば、DMが届いていましたよ」
「DM?」
私は妻からDMを受け取る。
大黒亭?蟹料理の老舗旅館?
珍しい大黒天がお迎えする、美味しい蟹料理の老舗旅館。
なんだろ?聞いた事がないなぁ。
「これ知ってるところ?」
「知りませんよ。あなたのお知り合いでは?」
「いや知らない。蟹料理なんて食べないよね」
「蟹はちょっと……
あなたも嫌いでしょ」
「そうだね。
蟹はちょっとね。
間違いだろう。
シュレッダーかけておくよ。今日はなに?」
「今日は◯◯本舗の社長さんから頂いたスッポン鍋ですよ。
こちら手紙です」
なになに
……
昨日取り引き先と、料亭にスッポンを食いにいったところ、水槽でこのスッポンが『先生のところに送って、私を食わせろ』そう言う目で訴えるんです。はいと言うまで、身体が動かず、大変困りました。
先生のことだ。また変な縁でもお作りになられたんだと思い、そのスッポン送らさせて頂きます。
PS:なぜかその後、その取り引き先との商談が異常に上手くいったので、スッポンの返礼はよして下さい。スッポンに頂いたと思っております。
……
「変わった手紙だな。
スッポンが食べさせよと訴えるとかあるんだろうか?
スッポン鍋か……。
お言葉に甘えて返礼はよしとして、
お礼のメッセージを入れておくよ。
スッポン……亀か……。亀……。
なにか忘れて……
まっいっか…
さぁ食べよう。
食べ慣れないものとはいえ、
無駄な殺生はできないからね」
……
全ての生物は生きるために食う。
他の命を食ったものは、
その生物の分まで生きる。
それが供養だし、
それが生きるという事なのだ。
それが取るに足らない羽虫であったとしても、
無駄な殺生は極力控えたいものである。
私はそう思うのである。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。
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