音響監督の覚書23(AI音声を例えるならば……)
いやぁ、AIボイスの成熟度がガンガンに高くなってきていますね!
技術の進歩って凄い!!
僕は歓迎してます。
AIの進化に伴い、AIボイスが自立で芝居をするようになってきた。
その成果を耳にしたけれど、やはりそれほど脅威は感じない。
自分の生業が声優ではなく、声優を使う演出家であると言う部分も大きいかもしれないのだが、『芝居』においてはこのままAIが進化したとしても、自分としては『AIボイスは一役者』と言う扱いで居られるかなと思う。
兼ね役をさせなくて済むようになるかな?って程度。
とは言え、じゃあ『なんで脅威に感じないか』と言う部分を人に説明するとなると「如何したもんか……」と思っていたのだけれど、さきほどちょいと例えが思いついたので、それを今回の題材としよう。
芝居・演劇と言うのは、音楽や料理と同じ『創作物』だと言うのは、古今東西言われてきたと思う。
自分もそのように感じている。
じゃあ、芝居に置いてのAIボイスと言うのは、未知の物なのだろうか?
僕としては『否』だ。
むしろ、芝居にようやく表れた物と言っても良いのではないだろうか?
音楽で例えるならば、AIボイスは『自動音楽生成』ではなく『シンセサイザー』だ。
FM合成音による電子楽器だったシンセサイザーは、技術の向上に伴い既存楽器の音の再現、つまり物真似をするようになり、サンプリングで本物の音をつかって人間では出来ないようなロングトーンをやってのけたり、下手な奏者よりも上手い音楽を奏でることが出来る。
カラオケマシーンなんかそうじゃないか。
オーケストラの再現だって出来る。
……じゃあ、シンセがそこまで凄いものになりましたけど、音楽において生楽器は駆逐されましたか?
なんなら、シンセは楽器の一つとして共生してるじゃないですか。
オーケストラを呼ばなくったって打ち込みできるのに、なんでわざわざ生オケで収録してるんですか?
TVアニメやネットの配信程度だったら別にシンセ音でもイケますよ?
主要パートは生で、他パートはシンセでって言うのも多くあります。
まさに共存!
では今度は、料理で例えましょうか。
料理で例えるならば、AIボイスは『化学調味料』でしょう。
さらに言えば『インスタント調味液』『だしの素』もAIボイスと同じ存在です。
例えば、コンソメ。
実際のコンソメが完成するまでの工程をご存じでしょうか?
今回はチキンブイヨンにしましょうか。(料理に造詣が深い人には、「コンソメって一言にいうけど、どれのことだよ!」って思う場合もあるでしょうから)
簡易的に作る場合は、鶏の丸ガラと香味野菜でチキンブイヨンを作り、そこにさらに根菜や香味野菜と卵白を入れて旨味を出しながら雑味や汚れを卵白で吸着させて取っていく。
こんな大変な作業を経て作られるのがコンソメです。
それを家庭で手軽に出来るよう凝縮したのが、固形コンソメです。
例えば、カレー。
コレは説明不要ですかね?
各種スパイスにブイヨン(出汁)やトマトやチャツネなどの野菜の旨味、そして小麦粉で粘りを出すところまでの工程を済ませたのが、市販のカレールー(の素)です。
例えば、ラーメン。
市販のラーメンスープの素も多種多様になってきましたよね?
僕も豚モツ煮で味を決めるのが面倒な時は、味噌ラーメンスープの素や豚骨ラーメンスープの素を使います(笑)
でも、これらが存在しているけれど、お店レベルになるとどうでしょう?
これらのインスタント調味液を使っているところもあれば、本当に一から作っているところがあります。
なんなら、一から作っているよりインスタント調味液やルーの素を使った上でひと手間かけているくらいの方が美味しい場合がゴロゴロしてると思います。
そういう存在があるからって、わざわざ一から作ると言うのが馬鹿にされてるわけじゃないし、個性を出すためにインスタントにひと手間を加える。
それって共存じゃないですか?
音楽の方が例えとして綺麗だとは思いますが、今回のAIボイスだって現れたからって人間の芝居が駆逐されるわけじゃありません。
怯えて猛反対するよりも、共存する世界でどうしたら良いのかを積極的に考える時期に来ているのではないでしょうか?
AIボイスと共存する上でどんな未来になるか?と言う点は、『音響監督の覚書20(AIボイスに声優が負けない理由)』で触れているので、そちらをご覧ください。