33話 聖戦
私たちは旅を続け、ついにデルフデア王国へ辿り着いた。
この地の宝玉を手に入れれば、神剣は完全に覚醒する。
その後は魔人アガレスとの戦いだけれど、あいつは四天王最強な上に、ゲーム内では邪神よりも倒すのが厄介だった。
その上、実は完全に倒せていなかったことが二作目で判明する。
しかも二作目の元凶としてパワーアップするイヤな奴だ。
今の時点であいつを完全撃破することが出来れば、二作目対策はグッと楽になる。
どうかアガレスを塵にすることが出来ますように……!
宝玉のある教会はこの国の王都にあり、今はそこを目指して草原を歩いている。
ゲームでは、ギルを仲間にしている場合、王都に入った直後にギルが王子だと判明するイベントが起る。この世界でもそうなるかな?
城壁まであと僅か。あと少し進めば王都への門に到着する。
門番の兵士と視線が合い、微笑みを向けようとした瞬間、悪寒が走る。
咄嗟に背後を振り返った。
「アガレス……!?」
私の心は即座に臨戦態勢へ入る。
どうしてここで出て来る?
そういえば、邪神討伐の旅が始まった直後、ゲームでは出るはずのない場所でアガレスと遭遇した。
あの時は戦闘にならなかったけれど、今回は違うと分かる。
アガレスは闘気をみなぎらせている。
「ソフィー」
アガレスの声が重々しく響いた。
「ずっとお前を見ていた」
「勇者よりもお前が気になってならなかった」
「お前が勇者に色目を使うのが嫌だった」
「他の者に愛想を振りまくことも嫌だった」
「お前に死んでほしくないとさえ思った」
「邪神を奉ずる我が! 神の僕であるお前に心を囚われてしまった!」
「どうしてこんなことになったのか、我自身にも分からん!」
「まるで呪われたかの様だ!」
「ソフィー! お前こそ我が運命! 神がほざいた受難よ!」
「我はお前を打ち砕く!」
ねぇ、アガレス? それって私に惚れているって意味?
あまりに熱烈な愛の告白に、身も心も竦みそうになる。
イヤだな。怖いよ。
モテるのは好きだけど、アガレスにまでモテたくなかった。
真っ当にプロポーズするならともかく、私を殺す気満々だなんてイヤ過ぎる。
だけど、イヤだからといって目をそらすわけにはいかない。
私は結界聖術の応用で、仲間たちを背後に――門のほうへ押し出した。
「ソフィー!?」
「魔人の目当ては私です! みなさんは宝玉を!」
アガレスを王都に入れるわけにはいかない。
私は結界を纏いながら、杖を振り上げアガレスに駆け寄った。
クローズヘルムの下でアガレスが笑った気がする。
高位聖術により生み出した聖なる鎖でアガレスを拘束しようとするけど、失敗すると分かっていた。
案の定、アガレスは鎖を引きちぎったけど、ほんの少し時間を稼ぐことが目的だから十分。
鎖を出すのに並行して生み出して杭を十本、いっせいに発射。
杭は鎖より術の完成に時間がかかるのだ。
これもアガレスに対してあまり効果がないと分かっている。
そして、アガレスからの攻撃がそろそろ来ることも――アガレスは大剣によって杭を全て薙ぎ払い、一瞬で間合いを詰めて私に切りかかる。
結界を強化すると同時に肉体も強化。結界が破られた瞬間、後ろに飛ぶけど刃が私を切り裂く。
それを瞬時に治癒し、アガレスを目視した瞬間から体内で増幅させていた聖力を、あいつに向けて解き放つ。まるで極太レーザービームの様だ。
私の膨大な聖力が空っぽになる。
多分、これでも倒せていない。やはりアガレスは立っている。
けれど、弱らせることが出来たと確信している。
アガレスの身体から瘴気が漏れ出してきた。
ゲームでは、アガレスのHPを削っていくと、瘴気が漏れ出す演出が入る。
戦闘には影響しないけれど、アガレスを倒した後、大地が汚染されてしまう。
それをリアが浄化しようとするけど力が及ばず、神に祈ったところで奇跡が起り、大地は清められた。
私は神を敬っていないから、奇跡が起きるか不安だった。
自力で浄化する覚悟を決めていたところ、制限書庫で見つけた本に、とても良い事が記されていた。
術者に負担がかかり過ぎるため、禁断聖術に指定されている秘技。
瘴気を体内に取り込み、瞬時に聖力へと変換する。
取り込む際に必ず瘴気に侵されるから、短時間しか使用できないとあった。
だけど私はすごいから、この術で大地を浄化できると信じていた。
まかさ戦闘中に使うことになるとは思っていなかったけど大丈夫。
私なら出来る!
アガレスが放つ瘴気を意図的に取り込む。
痛い。苦しい。最悪。だけど……耐える!
変換して得た聖力で自分に治癒と浄化をかける。
そして更に瘴気を吸って、変換して、治癒&浄化、そしてアガレスに攻撃。
これを繰り返してアガレスと攻防を繰り広げる。
アガレスが瘴気を放ち続ける限り、私は戦うことが出来る。
だけどアガレスは弱っていく一方だから、私の勝利は決まったも同然!
どれだけ時間が経ったのか分からない。
アガレスが崩れ落ちると同時に、今までとは比べものにならない程の、莫大な瘴気が溢れた。
私は全力で瘴気を吸い取り、浄化し続ける。
魂が軋みそうなほど苦しいけど、気分は高揚している。
だって私はヒロインになるんだから!
リアを押しのけたんだから、このくらい解決できて当たり前!
失敗なんて有りえない!
瘴気を全て浄化しきった。
自分への浄化と治癒も行っていたのに、もう立っていられない。
アガレスが塵になったのかは確認できなかった。
けれど今はこれで良いということにしておこう。
ちょっとだけ休みたい……
【アナザーストーリー】
魔人と見習い神官の戦いを、城壁の上から多くの兵士が見守っていた。
濃厚な瘴気が広がり城壁まで届きそうな寸前で、清らかな光がそれを収める光景も彼らは目撃した。
聖なる光の中心にいたのは見習い神官の少女。
「聖女様だ……!」
誰からともなく声が上がった。
「聖女様が現れた!」
「聖女様が勝利なされた!」
「聖女様が我々を護ってくださったんだ!」
兵士たちの歓声は、城壁内の者たちにまで届いた。




