02話 大好きな世界
生まれ変わった先が、大好きなゲームの世界かもしれない。
その可能性に心が弾むけれど、まだはっきりと決まったわけじゃない。
だから出来る範囲で調べることにする。
その方法は、私が持つゲーム世界の知識と、この世界のあれやこれやが一致しているかどうか確かめるというもの。
前世の記憶を持つことは知られたくない。
『前世の記憶がある』と言う人間は、前世の世界では変人扱いされていた気がする。
この世界ではどういう扱いをされるのかまだ分からないけど、隠しておいたほうが無難だよね。
変人だって言われたり、嫌われたりするのはイヤだから。
子供らしく振舞うことを意識して、翌日から聞き込み開始する。
まずは勇者について。
私はテオに勇者の話を聞かせてほしいと頼んだ。
テオは興奮気味かつ嬉しそうに伝説を話してくれた。
『邪神が大暴れして人間が困っていたら、勇者が神様から聖剣ディアマンテをもらって、勇者と聖女が一緒に邪神を倒して、勇者は聖女と結婚して王様になった』
ゲーム内ではもっと重々しく語られていたけれど、内容は同じだ。
話を聞いた後、お礼を言ってその場を離れようとしたら引き止められた。
何だろうと思ったら「みんなにはナイショだ」と飴玉をくれた。
昨日、腕を引っ張ってまで遊びに誘ってきて、勇者ごっこにおいて重要な聖女役をくれた上に、子供にとっては貴重品である飴玉をプレゼントしてくるとは……
(テオって私が好きなのかな? 恋しているのかな?)
鏡で見た自分の姿を思い出しす。
今の私はすごく可愛い。きっと世界で1番可愛いに違いない。
だからテオが私に恋をしても不思議じゃないよね!
たとえ相手が幼児でも好かれるって嬉しい。
感謝を込めて、とびっきりの笑顔を浮かべてお礼を言った。
「飴玉、ありがとう。すごく嬉しい」
こっそり鏡の前で笑顔の練習をしていて良かった。
あとで飴玉の包み紙をよく見たら、ゲームに出てきたものと似ていた。
ちなみに、はちみつ味で美味しかった。
次に神話について。
アリアさんに神話を聞かせてほしいと頼んだ。
相手は大人だから特に気を使い、無邪気に見えるよう意識しておねだりした。
するとアリアさんはお伽話を聞かせるように話してくれた。
驚いたことに、それはゲームに登場したモブ神官がモブ子供に話したものとまったく同じだった。
子供への説明用としてマニュアル化されているのかもしれない。
ついでに暦について知ることもできた。
この世界の暦は『ヒース暦』といい、ゲームの世界の暦と同じものだ。
1年は12ケ月に分かれていて、1ヵ月は30日。
1年間は360日となっている。
今年はヒース暦1003年であることも判明した。
今が1003年だというのはとても重要なことだ。
今の段階で、私はもうここがゲームの世界だと思っているけど、8日後まで保留する。
8日後、私はここがゲームの世界かどうか確信することができる。
不審がられることが怖くて、国について等は聞けなかった。
ゲームの世界では5つの国と、大神官長が治める聖区がある。
主な舞台となるのはアンゼルク王国。
1003年の1月10日。国王が不審な死を遂げ、世界中を騒がることになる。
ここがゲームの世界で、この出来事が起るのならばきっと私もそれを知ることができる。
もしもそうなれば、ここはゲームの世界だと私は信じる。
『ゲームの世界』といっても、機械の中に入ったとは思えないから、ゲームの舞台と酷似した異世界かな……?
その辺りを考えると何だかキツくなるから、深く考えないでおこう。
イース暦1003年1月10日。
この国の王が死んだと、大人たちは大騒ぎだ。
ここはアンゼルク王国だった。
ついでにここが『ベルガモット・タウン』であることも知ったけど、ゲームには出てこなかった街だ。
私は必死になって平静であるかのように振舞う。
この思いを知られちゃいけない。隠さなくちゃいけない。
だけど心の中で思うことは自由だよね。
王様が死んだ!
これではっきり分かった!
嬉しくて嬉しくてたまらない!
ここは私が大好きな世界だ!
何度も周回して、攻略情報を見ずに隠しキャラを仲間にして、イベントもエンディングも全部見て、アイテムもコンプリートして、続編も遊び尽くして、それでも飽きることがなかった、大好きで大好きでたまらない世界!
この世界に転生できるだなんて幸運すぎるよ!
もしかして、私の情熱が奇跡を起こしたの?
私の力でこの世界に生まれ変わったの?
すごい! すごいよ! 私すごい! 私、最高!
興奮が収まらない!
その辺りを駆け回って、地面にゴロゴロと転がって、この気持ちを発散したいけど我慢しなくちゃ!
辛いよ! 嬉しすぎて辛いよ!
『嬉しい!』って大声で叫びたい!
この世界で生きていくことができるだなんてすごい!
私の将来、どうしようかな?
1作目の物語が始まるのはヒース暦1014年。
私は主人公たちと同じ年齢だ。
主人公の仲間になるっていうのも良いな。物語にかかわるのって楽しそう。
もしそれができるなら……夢は大きいほうがいいよね。
――激情に駆られるがまま決意する。
(私はヒロインになる!)