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01話 私はソフィー

 私が『生まれ変わっている』ことに気がついたのは数え年で3歳になった日。



 孤児院で新年のお祝いをしている最中、穏やかな雰囲気をまとう中年の女性神官が私に言った。


 「これでソフィーも3歳ね」


 その言葉に違和感を覚える。

 (ソフィー?)

 それが私の名前であることは知っているけれど、奇妙な気がしてならない。

 (私の名前は……何だったかな?)

 それをきっかけに様々な疑問が脳裏を廻る。


 どうして私は小さいの?

 どうして私はここにいるの?

 どうして私は髪が銀色なの?

 どうして私は……


 他の子供たちのはしゃぐ声を聞きながら私はしばし考える。

 そして、疑問に対する答えはあっさりと閃いた。


 (私、生まれ変わったんだ!)


 突拍子もない発想だし、具体的な根拠はないけど、それが事実なのだと確信した。

 私は前世の記憶を持ったまま生まれ変わったのだと。

 その考えがすんなりと胸に落ちた。


 『記憶を持ったまま』といっても、前世についてほとんど思い出せない。

 いくつか思い出せたのは、今のように幼児ではなく、もっと成長した身体だったということ。

 大人ではなかったはずだ。前世の私は『大人になりたくない』と思っていたから。

 ……何だか嫌な気分になった。

 どうして大人になりたくなかったのかは分からないけど、ろくでもない予感がするから掘り下げないでおこう。きっと思い出さないほうがいいはずだから。


 何か楽しいことを思い出せはしないかと考えを廻らせる。

 そして、銀髪に憧れていたことを思い出した。


 前世の私は、プラチナのように美しい銀髪をほしがっていた。

 神秘的で、特別感があって、染めた色とは全然違って、まるで不思議な力が込められているかのような――そんな髪を夢見ていた。


 それに、青い目もほしかった。

 写真で見たことのある、最高級のブルーサファイアのような青い目こそ、私が思い描く銀髪に1番似合うと思っていた。


 今の私の髪は胸元まで伸びていて、首を下に向ければ銀色が見える。

 銀色であることは確かだけれど、私の視点からは影になっていて正確な色は分からない。

 そっと髪に指を伸ばすと、柔らかでサラサラしていて触り心地は最高だ。

 『絹糸のような髪』とはこういうものを指すんじゃないかな?


 今の姿を見てみたい。

 指で触れるだけでなく、この目で確認したい。

 ステキな姿になっているのではという期待が高まる。

 

 丁度、部屋の片隅に姿見があることに気付き、そこに行って鏡面を見る。


 私はとても驚いた。

 (うわっ! 可愛い!)

 私の心境とリンクして、鏡面の幼児も目を見開いたから、これは確かに私の姿なのだと理解した。


 『可愛い』としか表現できない幼い顔。

 ブルーサファイア以上の価値があると感じさせる、吸い込まれるような青い目。

 プラチナを細くて柔らかな糸にしたような、前世で夢想した以上に美しい銀髪。

 それらを引き立てる、透き通るように白い肌。


 (すごいよ……!)

 鏡面の私は笑顔を浮かべた。それがまた可愛くてたまらない。


 「ソフィー?」

 喜びのあまり踊り出しそうになったところで私を呼ぶ声が聞こえた。

 「はい」

 私は良い子な感じで返事をする。

 こんなに可愛い姿なのだから、良い子でいることで魅力をより高めたい。

 私は呼ばれたほうへ向かう。


 私を呼んだのはアリアさん。

 つい先ほど、生まれ変わったことに気付くきっかけをくれた人。

 孤児である私たちの世話をしてくれている神官だ。


 ふと、アリアさんの格好に目を引かれた。

 紺色の神官服、首にさげた木彫りのお守り、腰にさげたポーチ。

 ――何かを思い出しそうになるけれど、思考はまとまらず、あっという間に霧散する。

 「ほら、このケーキがソフィーの分よ」

 アリアさんが差し出した皿には小さなパンケーキが乗っている。

 とても美味しそうだ。

 「ありがとうございます、アリアさん」

 私は笑顔でお礼を言い、皿を受け取る。

 するとアリアさんは驚いたような表情になった。

 「あら、急にお話しが上手になったのね」

 私は少し動揺した。

 (もしかして失敗した?)

 「良かったわ、ソフィー」

 とても嬉しそうな笑顔で言われて安心する。

 (失敗じゃない。大成功!)


 前世の記憶を思い出したせいか、今世での記憶が曖昧になっている。

 今はまだ3歳だし、あまり不都合は起きないと期待したい。


 生まれ変わったということは前世で死んだはずだけど、その辺もさっぱり思い出せない。

 けど、まぁ良いかなと思う。死んだ記憶があるとキツそうだから、それがなくてラッキーだよね。イヤな記憶なんてないほうが良い。


 小さなパンケーキをフォークで更に小さく切り、行儀が良いように意識しながら食べる。

 (おいしい!)

 期待以上の味だった。

 ふんわりした優しい食感と甘いシロップのハーモニーにほのかな幸福感がわく。

 その余韻に浸っていると、一人の男の子が私に近づいてきた。

 「いこう!」

 そう言って私の腕を引っ張る。

 幼児なのに力が強い。

 私も幼児だからそう感じるのかもしれないけど、そんなに引っ張られたら痛い。

 「痛いよ、やめて……テオ」

 思い出すことが出来た。この子の名前はテオだ。

 私の声を聞いたテオは驚いている。

 「ソフィーがしゃべった!」

 さっきアリアさんも驚いていたけど、前世について思い出す前の私は相当無口だったらしい。

 とりあえず、腕を離してくれたから用を聞くことにする。

 「どこに行くの?」

 「あっちだよ。ユーシャごっこするんだ」

 ユーシャごっこ?

 「きょうはオレがユーシャだ。ソフィーをセージョにしてやるよ」

 勇者と聖女?


 テオに連れられて私は庭に出た。他の子供たちもいる。

 「セージョをつれてきたぞ!」

 テオがそう叫ぶと勇者ごっこが始まった。

 「ジャシンだぞー! こわがれー!」

 別の男の子が両腕を振り上げ、他の子供たちが楽しげな声をあげながら駆け回る。

 テオは細い木の枝を振りかざして叫ぶ。

 「しんけんディアマンテ!」



 勇者と聖女と邪神。


 神剣ディアマンテ。


 アリアさんが着ていた紺色の神官服と、胸に下げていたお守りの紋章。



 それらがパズルのピースのように脳内で組み合わされる。



 前世で遊んだロールプレイングゲーム。

 タイトルは思い出せない。

 『運命』や『栄冠』といったキーワードが浮かぶけれどはっきりしない。

 そのかわり、他の情報はどんどん頭の中に湧き上がってくる。


 ファンタジーな世界で、勇者と聖女と仲間たちが邪神を倒す物語。



 前世で夢中になって遊び続けた、私が大好きなゲームだ。

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