最終話の断片
大教会の広場にて。
多くの人々が見守る中、特別な儀式が執り行われていた。
邪神を倒した勇者と聖女の結婚式。
邪神討伐前から婚約していた二人の関係は大いに祝福され、盛大な式典が催されることとなった。
結婚することを認められる年齢が15歳からであるこの世界で、16歳の勇者と聖女は結婚適齢期であり、二人の婚約が周知されていなければそれぞれに大勢の求婚者が押し寄せたはずだ。
特に聖女のたぐい稀なる美しさと慈愛に満ちた微笑は、男性だけでなく女性さえも虜にし、彼女が聖女と呼ばれるようになる前から引き手あまただった。
彼女が望むのならば、年若き国王の妃になることさえできただろう。
けれど彼女が選んだのは、勇者となった彼との婚礼。
彼が勇者になる前から、彼女はそうなることを望んでいたのだ。
幸せそうに微笑む聖女とは対照的に、勇者の表情は硬い。
それに気付く者もいるが『結婚式で緊張しているのだろう』と深刻に考えない。
儀式はいよいよ佳境に入り、勇者と聖女は誓いの口付けを交わそうとする。
その直前、少女の叫び声が響いた。
「やめて!」
その声を発したのは、勇者と聖女の母国の王女。
王女は悲痛な表情で涙を流し、勇者を真っ直ぐに見つめる。
その視線を受ける勇者も、隣にいる聖女も、周囲の者たちさえも王女が呼びかける相手を理解していた。
「私のお腹の中には……あなたの子供がいるの……」
一瞬の静寂の後に騒然となる。
王女の泣き声、誰かの怒声、激しい興奮を帯びた金切り声……修羅場とはこのことだろう。
その中で勇者は決意を固めたような表情を浮かべた。
戸惑う聖女を置いて勇者は王女のもとへ向かう。
周囲の注目を集める中、勇者は大きな声ではっきりと言った。
「結婚しよう! 僕が本当に結婚したい相手は君なんだ!」
聖女には勇者の後姿しか見えず、その表情は窺えない。
けれどその声から彼の本気が確かに伝わる。
勇者が王女を選んだのだと理解して聖女は泣き崩れた。
聖女の心は悲嘆と敗北感でいっぱいになっていた。
(これが運命なの?)
彼女は知っていた。
本来『聖女』と呼ばれるはずだったのは王女であり、勇者と王女が結ばれることこそが最適の結末なのだと。
周囲からは清廉だと称される彼女だが、その本性は高慢で身勝手だ。
彼女が聖女と崇められるほど人々のために尽力したのも全ては私欲から。
彼女の野望は壮大とも浅慮ともいえる。
『ヒロインになりたい』
彼女にとってこの世界は遊び場だった。
前世で楽しんだゲームの舞台と酷似したこの異世界で、 特別な存在になるという大功を成し遂げたかった。
(いったい何が悪かったの?)
彼女は記憶を振り返る。
転生したことを自覚し、ここがゲームの世界である事に気付き、ヒロインになるという野望を胸に秘めて生きてきたこれまでの人生を……




