17話 天誅
九月中旬。野外活動が行われた。
エキナセア近郊の草原で三日間野営する。
滅多に魔物が出ない環境であることと、聖杖術に長ける神官たちが見回りするため、安全面での問題はないという。
私は同室三人娘と共に、同性の先輩四人と行動を共にすることになった。
先輩たちにとって、私たちの面倒を見ることも修行に含まれているらしい。
私たちも修行二年目に後輩と共に野営することになる。
ヒース暦1011年。
修行内容に浄化聖術が追加された。
浄化聖術は瘴気や呪詛を払うものだけれど、雑菌にも効果があるとアリアさんから教わった。
旅の中ではやむを得ず不衛生な環境で過ごすこともあるかもしれない。
そんな時も聖力さえあれば浄化聖術でどうにかできる。
この術も既に習得済みだけど、もっと腕を上げたい。
ゲームでは、大規模な瘴気を王女が奇跡によって浄化するイベントがある。
一応、奇跡が起こらない場合も想定しておこう。
練習用に軽い呪詛がかかった道具をあっさり浄化して、周囲の注目を集めた。
気分が良いな。
結界聖術も修行に加わった。
瘴気や呪詛を阻む術で、上達すれば魔物さえも阻むことができる。
私はまだそこまでのこと出来ないから、こちらも更に腕を上げたい。
練習で使ったのは、魔物の力が宿った小石のような物。
この練習は二人組で行われた。
一人が小さな結界を張り、もう一人がそこへ小石を投げる。
結界が成功していれば小石は弾かれる。
私はミーナと組んで行った。
私が張った結界は、ミーナが投げた小石を物凄い勢いで弾き返した。
それに驚いたミーナが悲鳴を上げたため、今回も周囲の注目を集めた。
ミーナに当たらなくて良かった。
休養日。
パメラに会おうと思って外出する。いつも通りパメラが現れた。
おしゃべりしたり、都市を散策できたら良いなと思っていたら、私より先にパメラが言った。
「ねえ、ソフィー。美味しいお菓子の出る店を見つけたの。私、この前予定よりもお金が稼げたからおごるよ。一緒に行こう」
魅力的な誘いだけれど、おごられるのはよくない気がする。
「嬉しいお誘いですが、おごっていただくのは気が引けます。お金を貯めるので、どうかお待ちいただけませんか?」
「遠慮することなのに」
そんな話しをしていたら、見知らぬ男性が近寄ってきた。
「ねぇ、お嬢さんたち。私にご馳走させてくれないかい? 君たちのように可愛い子と食事できれば、私はとても嬉しいよ」
……ナンパ?
いや、違う。単なるナンパじゃない。
何だかわからないけど気持ち悪い。
私を真っ直ぐ見つめる視線におぞましさを感じる。
「……ご遠慮します」
そう言って、パメラの手を引きその場から離れようとしたけれど、パメラが動かない。
そして、いきなりナンパ野郎の身体が崩れ落ちた。
「えっ?」
診断聖術を発動したら、何と呪詛にかかっていた。
人間が呪詛にかかるのは、呪われた品に触れるか、呪詛をかける能力を持った魔物に襲われるか、魔術師に呪詛魔術をかけられるか、大体その三通りらしい。
「……パメラさん?」
パメラは鋭い目付きでナンパ野郎を見下ろしていた。
「こいつ、ソフィーをいやらしい目で見てた。ソフィーを狙ってたんだ。こいつ、変態だよ」
そうだね! きっとこいつは変態だ。
私がこいつに悪寒を感じたのは、本能で変態だと察知したからだろう。
パメラがこいつを呪ったのは、いわば天誅だ。
「……しかし、いくらこのかたが変態とはいえ、呪詛をかけるのは問題にならないでしょうか? パメラさんに謂われない批難が向けられるのはイヤです」
私の心配にパメラは自信のこもった声で答える。
「大丈夫。ここは人通りが少ないから」
「それはどういうことですか?」
「今かけた呪いは悪夢を見せるもの。もうソフィーと私に近づくことも、話題に出すことも出来ないくらいくらい酷い夢を見させているの。もうしばらくしたら呪詛がとけて目覚めるから大丈夫!」
ゲームでの呪詛は、かかると徐々にHPが消耗していくというものだったけれど、バリエーションがあるのか。
「呪詛魔術はそのようなこともできるのですね。ただ、やはり呪詛をかけるというのはパメラさんが悪く思われそうなので、このことは二人の秘密にしましょう」
「二人の秘密……それって良いわね」
そんな話しをしていたら変態が目を覚ました。
診断聖術で確認したら、パメラが言ったとおり呪詛は解けていた。
変態は私たちを見ると恐怖の表情を浮かべ、転がるように去っていった。
その後、私たちは賑やかな場所を散策した。
十月。
神官になるために必要な一度目の試練を受けた。
簡単すぎて余裕が有り余ったけれど、熱心に取り組む振りをした。
そしてもちろん合格した。
神官になるための試練は見習いになった翌年から受けることが出来る。
十月に行われ、三度突破した上で大神官に認められれば正式な神官の位を与えられる。
試練を突破する能力があっても、人格に問題があれば神官になれないということだ。
いつか会った駄目神官のように問題有りの者はいるけど、修行中は問題がないように見えて、いざ神官になったら駄目になるパターンがわりと有るらしい。
賄賂を受け取り神官の位を与える悪徳大神官がいるという噂もある。
アルヴィンは不正が嫌いだし、私も『善良な見習い神官』として頑張ってるし、エキナセアで修行したということは、経歴に大きなプラスとなるだろう。




