12話 橙髪の女の子
馬車がニゲラ・ビレッジに到着した。
この馬車は数時間ほどここで休んだ後、ルピナス・ビレッジへ向かう。
私は御者に村を見て回ることを告げて狩人を探しに行った。
狩人は私と同い年で、今は10歳。
今10歳なのは狩人だけではない。
主人公、王女、魔術師、隠しキャラも今は10歳だ。
ジェイクは一人だけ年上なんだよね。
ニゲラは全体的に飾り気のない村だ。
小さな村だから、短時間で村中を回ることが出来ると思っていたけれど、こういう風景を見るのは新鮮で物珍しく、周囲を見ながら歩いていると自然と足は遅くなった。
狩人が見つからなくてもいいかな。
ジェイクと出会うことができてラッキーだったし。
そんなことを考えていると、背後から何かがぶつかった。
私は地面に転んでしまい、手を擦りむいた。痛い……
「ごめんね、大丈夫?」
女の子の声だ。
私が顔を上げると、声の持ち主は後ろから顔のほうに来てしゃがみこんだ。
……狩人?
橙色の髪と赤茶色の目を持つ可愛い女の子。
外見の特徴は狩人と合っているけど……果たして本人かどうかはまだ謎だ。
起き上がりながら、私は返事をした。
「大丈夫ですよ」
「でも、手が怪我してる!」
みるみるうちに、女の子の表情は泣き出しそうなものになった。
表情が豊かな点も狩人と同じだな。
「本当に大丈夫です」
そう言って、私は自分の手に治癒聖術をかけた。
「ほら、もう治りました」
女の子は目を見開く。
「すごい!」
うん、そうだよ。私はすごいんだよ。
「あなた、神官なの?」
「いえ、まだです。神官になることを目指しています」
そろそろ名乗るタイミングかな。
「私はソフィーです」
「あたしはキャロル! 大人になったら狩人になるんだ!」
やったぁ! 狩人のキャロルと出会うことができた。
運良く出会うことができたのだから、少しでも好感度を稼ぎたい。
とりあえず会話の続行を試みる。
「キャロルさんはこの村の住民ですか?」
「キャロルさん!? キャロルさんって呼ばれちゃった!」
テンションが上がったらしい。さん付けで呼ばれるのは初めてだったのかな?
嬉しそうにしているけど一応聞いておく。
「そうお呼びして構いませんか?」
「うん! 呼んで、呼んで!」
そう言って笑顔を浮かべていたけれど、キャロルは一瞬で真顔になった。
「私もソフィーさんって呼んだほうがいい?」
「どうかお好きなように呼んでください」
「じゃあ、ソフィー!」
「はい、キャロルさん」
キャロルが笑い声を上げ、私も釣られるように笑う。
ロールプレイに合わせたお淑やかな感じの笑い方で。
キャロルの笑い方は『元気いっぱい』という感じで、私まで元気になりそうだ。
ゲームにおいて、キャロルは仲間内のムードメーカー。
暗い雰囲気になった時、自分自身が辛くてもみんなを元気付ける良い子だ。
今は物語開始時点より幼いせいか、ゲームで見たよりもかしましい。
こういう姿を見ることが出来るのも貴重な体験だよね。
今から4年後。
お転婆娘のキャロルは冒険の旅に憧れるようになる。
それを知ったこの子の親は、他所の村に住む親戚に会いに行ってはどうかと提案する。
親には娘を冒険の旅に出す気はない。
けれど、このままだと勝手に家を飛び出しそうだから、親が目的地を決めて旅に行かせたのだ。それで娘は満足して帰ってくると考えて。
だけど迷子になったこの子は、偶然にも主人公一行と出会い、そのまま仲間になって邪神討伐までついて行った。
おしゃべりはまだ続く。
キャロルはもう弓の練習を開始していて、いずれは魔物も射抜けるようになるのだと無邪気に宣言した。
「ステキな夢ですね」
その夢が叶うことを私は知ってる。
ゲームではクリティカル率が高くて大活躍だったんだよね。
私も神官を目指していることを話した。
「ソフィーなら絶対なれるよ。だって、あっという間に傷を治したんだから」
うん、私はすごいんだよ。
何度褒められても気分が良い。
この短時間で、私はキャロルから友だち認定を受けた。
思った以上の成果に満足だ。
おしゃべりしている内に、馬車が出る30分前になった。
話しをするのが楽しくて、ついつい時間を忘れそうになる。
だから少し惜しいけど、早めに話しを切り上げることにした。
馬車に乗ってこの村を出ることを告げると、キャロルは寂しそうな表情になった。
私も寂しげな表情を作り、別れを惜しむ振りをする。
「また会おうね、ソフィー」
「はい。またお会いしましょう」
4年後も仲良くしようね。
……何て思っていたら、とんでもないことになった。
馬車の都合で、予定時間より20分、出発が遅れた。
そして馬車が出発したら、私を呼ぶ声が聞こえた。
「ソフィー!」
キャロルの声だ。
窓から外を見るとキャロルが馬車を追いかけていた。
馬車の速度はまだあまり速くはないけど、10歳の子供が着いてこられるなんてすごい。
私は御者に向かって大きな声で言う。
「止まってください!」
その頼みは聞き入られて、私は馬車から降りた。
呼吸が荒くなっているキャロルは、今のままだと何の用なのか話せそうにない。
治癒聖術をかけて体力を回復させる。
「助けて、ソフィー! 鍛冶屋のおっちゃんが怪我したの!」
……思い出した。
キャロルのサブイベントで、幼い頃、可愛がってくれていた鍛冶屋が仕事中に怪我をして死んでしまったという話しがあった。
そのイベントが発生する頃には王女が優秀な回復要員になっていて、村の神官が王女みたいな治癒聖術を使えたらよかったのにと洩らしていた。
キャロルのサブイベントでは珍しく暗めの内容だったな。
その事件が今日起こったのか。
私は御者に、私を置いて行ってほしいと告げる。
多分、治癒するのに時間が掛かるだろうから。馬車を留めておくのはよくない。
私はキャロルに案内されて、怪我人のもとへ急いだ。




