13話 文通の約束
キャロルの案内で鍛冶場に入り、素早く診察聖術を発動させる。
……重傷だ。
予想していたことだけど、それでも気が滅入る。
鍛冶について詳しくないから、どういう事故が起こったのかは分からない。
診察により私が知ったのは、広い範囲に深い火傷を負っているということ。
「ちくしょう……ちくしょう……」
若い男性神官がうなだれている。
多分この村の教会にいる神官だろう。
全力で治癒聖術を掛けたけど、重傷から回復させることが出来なかったという所かな?
すぐに治癒聖術を掛ける。
火傷の範囲が広い分、治癒するのはこの前の怪我人以上に大変だろう。
それでも、心にいくらか余裕があるのは、前回の経験が活きているおかげかな?
心を落ち着かせて聖術を掛け続ける。
怪我人の体力が戻り、火傷も癒されて行くのが分かる。
だけど……今回も全快させるのは無理だった。
火傷が浅くなった所で、私の聖力は0になった。
「申し訳ありません……聖力が尽きました」
しおらしい態度をとっておく。
「いや、素晴らしいよ! ここまで回復できれば、もう命の危険はない!」
神官が興奮気味に私を褒める。
「君はなんて素晴らしいんだ! 感動したよ!」
前回の件で自分の今の実力を分かっていたためか、今回は完治させることができなくても、あまり悔しさを感じなかった。
だけど、もっと治癒の腕を上げなければという思いが深まる。
このままの腕前では安心して冒険の旅に出ることができない。
これから4年間、もっと頑張らなくちゃ。
「ありがとう、ソフィー! おっちゃんが助かったよ!」
キャロルが涙ぐんでいる。
「私も、このかたの命を留めることが出来て良かったです……」
私は疲れたような微笑みを浮かべた。
私はこの村で一晩滞在してから、ルピナス・ビレッジへ向かうことになった。
まだ怪我人である鍛冶屋は、神官がどうにかするという。
あそこまで回復出来ていれば、後は自分の腕でも大丈夫だと。
翌朝、聖力が回復したら治癒に取り掛かるらしい。
後でキャロルから聞いたけれど、この日は朝から怪我人が多く、神官は忙しかったらしい。
そのせいで聖力不足になり、鍛冶屋の治癒をきちんと行うことができなかったのだろう。
そういえば、私もキャロルに突撃されて、手に擦り傷ができたっけ。
私がエキナセア・シティで見習い神官になることを言ったら、神官はますます私を褒め称えた。
「あのエキナセアで修行をするとは、なんてすごい子なんだ! あれほど治癒聖術を使いこなす腕といい、心から尊敬するよ」
改めて実感する。私ってすごい!
私はキャロルの家に泊まることとなった。
キャロルの両親から手厚くもてなされ、とても気分が良い。
ちやほやされるのって大好き。
夕食に出された品を見て驚いた。
(肉じゃが!?)
この料理が前世の世界にもあったことを思い出した。
曖昧な記憶だけれど、前世の世界では、肉じゃがを上手く作れる女性は魅力的だと言われていたような気がする。
キャロルの母に頼んで、肉じゃがのレシピを教えてもらった。
肉じゃがだけでなく、キャロルの母自慢の手料理レシピも数点手に入れた。
いずれは作れるようになりたい。
……そうだ、女子力だ。料理の腕を上げると女子力も上がる。
女子力とは、確か女性としての魅力を表す言葉だったような……少し自信がないけど、多分あってるんじゃないかな。
とにかく、女子力を上げることはヒロインになるためにも大切なことだ。
夜、私はキャロルに頼まれ、同じベッドで眠ることになった。
孤児院でも甘えっ子がこうして頼んでくることがあったな。
「ねぇ、ソフィー」
少し眠いけど、キャロルに付き合うことにする。
「何ですか、キャロルさん?」
「あたし、ソフィーともっと仲良くなりたい。だけどソフィーは、明日いなくなるんだよね? どうすればいいんだろ?」
おぉ! キャロルの好感度が確実に高まっている! この機会を逃す手はない。
少し考えて私は話す。
「それでは、私と文通をしませんか?」
「ぶんつう?」
「手紙のやり取りをするのです。私がエキナセアに到着したら、キャロルさんに手紙を送ります。それにキャロルさんが返事をくだされば、私も返事を書きます。それを繰り返せば、離れていても、もっと仲良くなれるはずです」
「……良いね。それ、やろう」
キャロルの声に嬉しさが滲んでいる。
「あたし、字を書くのは苦手だけど、ソフィーに手紙書くよ」
「ありがとうございます」
キャロルと文通の約束が出来るだなんて、今回もラッキーだったな。
翌朝、鍛冶屋は完治しており、お礼を言われた。
キャロル一家や神官、鍛冶屋に見送られて、馬車に乗ってルピナスへ向かう。
ルピナスに到着し、馬車を降りて周囲を見回す。
何だか懐かしいような気がするのは、果たして気のせいなのか。
それとも、記憶の奥底にある風景を無意識に振り返ったのか、自分でも分からない。
教会を訪れ、神官に事情を話すと歓迎された。
神官に案内されて、母の墓参りをする。
「お母さん。私は立派な神官になってみせます」
そんな芝居をした。
その後、ニゲラとは別方面へ向かう馬車に乗ってエキナセアを目指した。




