11話 思わぬ幸運
怪我の治癒は万全を期するために、一晩休んで翌朝に行うことになった。
ジェイクが怪我人を担ぎ、3人で宿屋に行く。
私の分の宿賃はジェイクと怪我人が負担するそうだ。
到着した宿屋を見上げる。
古めかしい建物で薄汚く見えたけど、中は清潔に保たれていて安心した。
4年後の旅が始まれば、こういう場所に泊まることも多いのかな?
もしかしたら、外も中も汚い安宿に泊まらなければならない時があるかもしれない。
雑菌のたぐいなら浄化聖術でどうにかなるけど、今のように聖力不足の状態で泊まることも考えて、覚悟を決めておかないと。
ジェイクと怪我人が相部屋、私は一人用の部屋に泊まることになった。
ジェイクにおしゃべりしようと誘われたから、私用の部屋に移った。
私がもっと成長していれば、男性と宿の一室で二人きりという状況は避けただろうけど、今はまだ10歳の子供だから構わない。
ジェイクが私に質問してきた。
「まだ10歳くらいに見えるけど、実はもっと年上なのか?」
「いいえ。私は10歳です」
本当のことを告げると、ジェイクはとても驚いた。
「10歳なのにあんな聖術が使えるのか!?」
そう言うと思ったよ。
「大神官並の力だろ!?」
「それ程の力はありません。大神官様ならば、あのかたの傷をきちんと癒すことができるのですから」
「だけどスゲーよ!」
そうだよ! 私はすごいよ!
さっきは落ち込んだけど、ジェイクのリアクションと賞賛の言葉で気分が持ち直してきた。
ありがとう、ジェイク。
「ちなみに俺は20歳だ」
知ってる。4年後には24歳だからね。
「あんだけ聖術を使えるなら、もっとチビの頃から練習してたのか?」
「はい。ベルガモット・シティの教会で学びました」
「ベルガモットっつーと、ここから東にある街だったか?」
「そうです。素晴らしい神官様が大勢いました」
すると、ジェイクの表情が苦々しいものになる。
「ここの神官はひでーよな」
私は辛そうな表情を浮かべた。
「……はい。神官にあのようなかたがいるなど、悲しいことです」
「ベルガモットの教会は、本当に良い所だったんだな。ああいう神官は、実はわりと多いんだ」
「そうですか……」
表情に浮かべる『辛そう度』をアップした。
「悪いな。嫌な話しをしちまって」
「いえ……様々な物事を知ることも大切ですから」
ちょっと気になることがあるから、私からも質問する。
「お連れのかたとは、ずっと一緒に旅をしておられるのですか?」
ゲームのジェイクは一人旅をしていたはず。
あの怪我人には心当たりがない。
「そうじゃない。たまたま目的地が一緒だったから、少しの間だけつるむことにしたんだ。目的地はここでな、着いたらお別れの予定だったんだが……」
ジェイクは溜息を吐く。
「途中で魔物に襲われてな。どうにかアイツを連れて逃げることはできたんだけど、ちょうどあの貴族とかちあった」
ジェイクの雰囲気は重苦しげなものになった。
「それは災難でしたね」
「ああ……」
とりあえず納得した。
ジェイクは一人旅派だけど、ゲーム内では少しの間のつもりで主人公たちに着いて来た。
実際は、少しの間どころか邪神討伐までずっと着いてきてくれたけど。
だから過去に『短期間の仲間』がいたとしても不思議はない。
それからも私たちは話しを続けた。
ジェイクの旅の話しは面白かった。
魔物退治の武勇伝は、冒険小説に記されているようなものより小規模だけど、ジェイクの語りに臨場感があって心が弾んだ。
旅先で受ける依頼は魔物退治が主目的なものばかりでなく、魔物が出る場所に生える薬草を採取するといったこともあるという話しも聞いた。
そういうお使いイベントがゲームにもあったな。
ゲームでは絶対に魔物が襲ってきたけれど、ジェイクの話しによると、何も出ずにあっさり目的を達成できることもあるらしい。
怪我の手当てについても聞いた。
ゲームでは一瞬でHPを回復する薬を道具屋で買えるけど、この異世界にでは簡単に手に入る物ではない。
傷を負ったら普通の傷薬で処置をして、教会で完全に治癒してもらうそうだ。
怪我の程度によっては教会までもたなくて『残念なことになる奴もいる』らしい。ジェイクは言葉をぼかしたけど、『死んでしまう者もいる』ということが簡単に分かった。
治癒聖術の重要性をますます感じた。もっと腕を磨かないといけない。
私の話しもした。
目的地はエキナセア・シティで、そこで見習い神官になること。
その前にここからルピナス・ビレッジに行って母の墓参りをすること等。
墓参りの話しをしたとき、ジェイクが一瞬だけ同情の眼差しを向けた。
ゲームでも、両親がいない主人公に内心では同情しているということが分かるサブイベントがあった。
ジェイクにも両親がいなくて、今から4年後の物語でも密かに悲しみを引きずっている。
ゲームでは、両親がいなくても村で幸せに暮らしてきたという旨の選択肢を選ぶとジェイクは喜び、好感度が上がる。
だから私は、ベルガモットの孤児院に引き取られて幸せだったという思い出話を少した。
思ったとおり、ジェイクはそのことを聞いて嬉しそうだった。
ジェイクは他人の幸せを素直に喜ぶことができる良い人だ。
だからといって『弱者を踏みにじって得た幸せ』なんかは許せなくて怒るけど、良い人ならそれが普通だよね。
一晩休み、怪我人に治癒聖術をかけ全快させた。
とても感謝されて、お礼の金を渡されそうになったけど断った。
神官は治癒で謝礼金を受け取ってはいけないという決まりがある。
寄付金なら構わないのだけれど、神官でないものは寄付金を受け取ってはいけない。
今の私が治癒の対価を金銭で得ると、色々と厄介なことになる。
聖力が再び回復するまでもう一晩、この宿に泊まる金を出すと言われたから、それを受け入れた。
昨日ほどじゃないけど、けっこう聖力を消費したから。
このまま馬車に乗るより、もう一晩休むほうがいい。
聖力が回復する薬が簡単に手に入ればいいのにな。
元怪我人はその日の内に村を出た。急ぎの用があるそうだ。
ジェイクはもう一晩、ここに泊まった。
それでまたおしゃべりをして、楽しい時を過ごした。
翌日、私はジェイクと別れの挨拶をした。
「俺はベルガモットを目指す。良い所みたいだからな」
「はい、とても良い所です。是非とも行ってみてください」
ベルガモットは観光地ではないけど景色が良い。
街中にも緑が多く、のどかさと街の発展具合が上手いこと調和している。
治安も良いから、本当にお勧めなんだよね。
私は馬車に乗り、ジェイクに見送られて村を出た。
それにしても、今回は本当にラッキーだった。
まさかここでジェイクと知り合いになれた上に、好感度を稼ぐことが出来ただなんてすごい。
狩人とも無事に会える予感がした。




