校舎裏のコアラ
ああ、だるい。なぜ俺がこんなことさせられなければならないんだ。
「おい、もうそろそろいいよな? 注文がやべーほど溜まってんだよ」
「んなこと言ったって、今ゆで始めたばっかだぞ? さっき『このうどんは冷たいんですか? 温かいんですか? どっちかわからないんですけど』って苦情来たんだからな。わかってんの?」
俺はそう言うのだが、忙しなさを隠せない安広は早くしろとでも言いたげに余裕がなさそうな様子だった。
「文化祭に旨さなんか誰も求めてねーよ。もういいよ面倒だから。あげちまえ。スピード重視だ」
「はいはーい」
ここはどこか。高校の調理室。
今は何の時間か。文化祭の最中。
何を作っているのか。うどん。
なぜ作らされているのか。生徒会。
いつからやっているのか。朝から。
今何時。もう十四時。
「ふざけんなよーマジで。午後の担当の奴らどこ行ったんだよ、この野郎。バックレやがったな。ふざけやがって」
そう言いながらも手はちゃんと動かしている。茹で上がった、いや、茹で上がってないんだけど、両手に持ったステンレスの玉網を氷水の中で揺らす。もう氷じゃないんけどね。五秒もしないうちに水を切って、中に入っているうどんをどんぶりの上に乗せる。素早く玉網を調理台に置き、右手でキュウリ、左手でわかめを適当に散らす。そして、最後にミニトマトを一つ置く。
「はーい、持ってけーい」
「イエッサー」
そう言って、安広が三十メートル先の理科実験室に持っていく。
またすぐに玉網を熱湯の中に戻し、その中にうどんをあける。
このスパイラル。
まずこの状況で二人しかいないってのがおかしいよね。先生はいつの間にか消えたし、さっきまでいた後輩も「応援してまーす」とか言い残してどっか行っちまったし。
そう思いながらも、やっぱり手には玉網が握られている。
元々、六人で回していた。二人が茹で、氷で冷やし、どんぶりに乗せる。そしたら、もう二人がキュウリとわかめとミニトマトを入れる。で、残りの二人が運び屋だった。
二時間前まではな!
「先輩ごめんなさーい。これから彼氏と校舎回るんですー 。お先に失礼しますー」
「おお」
まあ一人ぐらい大丈夫だろう。
「せんぱーい。俺もクラスの方で行かなきゃいけなくて……」
「それはしょうがないな」
まあ、まだ大丈夫だ。
「あのー。自分らもこれで失礼して……」
「お前ら俺たちを見殺しにする気かあ!!」
奮起立った俺は甲高い声を出してしまった。
「そう言われましても、他の人たちだって帰ってるし、ねえ?」
後輩は、隣の男と顔を合わせている。
「おい彼方! うどん早くしろ! もう十二人も溜まってんだぞ!」
戻ってきた安広が急かすように怒鳴っている。
「悪い! 今やる! 君たち二人。本当にお願いだから、頼むからもうちょっとだけ手伝ってくれ。お願いします」
そう言って後輩二人に背を向けて、ガスの方へ急いで向かう。また玉網を持って、ほぼ水になった氷水の中でうどんを揺らし、どんぶりに乗せて、具材を乗せる。
「はい、」
顔を上げたらさっきまでいた後輩二人の姿はなかった。そしたらうどんを運んで、再び理科準備室から戻って来たであろう安広がちょうど現れ、「さっきの後輩二人出てったけど、お前一人で大丈夫なの?」と聞いて来た。
「大丈夫な訳あるかー!!」




