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許嫁を寝取られたので、皇帝を脅しつけたい第47話

 サリス家は血気盛んである。もっともそれは俺の力やプララの力に依存するところが大きい血気なわけだが、それは一族の力を誇示していくためには必要なことだろう。


 増長するならば止めるが、そもそも他国の国主に托卵をカマそうとする相手への怒りを、増長というのならばいうがいい。少なくとも俺はバカにされていると感じるし、こちらに圧倒的な力の差があるならば、それはもう戦争を選択することも可能だ。


「猊下――お待ちください。今のは――エンデ王女が自殺を計られたのではないですか」

「サザーリン辺境伯殿、死なないのですよ、エンデ王女は。彼女は私の評価で固定されていますから。これで帝室が王女の存在を隠すようならば、私はこの国の敵となります」


 サザーリン辺境伯は絶句する。忠義と信仰の者サザーリン辺境伯としてはこの会見次第で対応に困ることになるだろう。


 俺は控室をでて会見の場に向かった。途中、数回、教会の人間とやり取りをする。暗部とのつなぎ役だ。こういう姿は大っぴらに見せていかなければならない。


 お前たちの行動など、お見通しである、と。


 だが果たして、この城内でそこまで意識を配れる状態の者がいたか――。それほどに、帝城は混乱していた。


「ライト、あまりひどい物言いをしては困るのだが――」

「お爺様、ひどいことをされているのはお兄ちゃんです。ひどい物言いとは、こちらの体面はつぶされても、向こうの体面は守れ、ということなの?」

「そういうことではないのだが――」


 後ろの方でお爺様とレティが言い争いをしている。まぁ、どの道、我々の勝利なわけだから、好きにすればいい。


 会見の間の前で、先程のジェマという侍従がこちらを睨みつけていた。


「教皇!!エンデ王女は自殺なされた!!あなたが王女を追い詰めたせいで!!この責任は如何とるのか!」


 どうもとらんよ。死んでもないのに。俺は笑うしかなかった。


「あははは、辺境伯殿やお爺様、どうやらこの会見は面白いものが見れそうです」

「この人非人が!!」


 俺はジェマの横をすり抜け、会見場の扉を開いた。真っ赤な顔をしたミド21世がそこにいた。怒りを隠しきれていない。

 ジェマは私の横を通り過ぎ、ミド21世の斜め後ろに控える。


 部屋の隅にはまるで我関せずといったようにヨハン=セバスティアン枢機卿が控えていた。


「教皇!!よくも我が娘を辱め、死に追いやったたな!」

「なんのことです?」

「とぼけるな、貴様がうちの娘を恐怖に落とし込み、周りの無礼をあざけわらった挙句、それを気にした我が娘エンデが自殺をしたと聞いた。許さぬぞ!!」

「戦略帝殿――お気は確かか?」


 俺はあえて挑発的に二つ名を使った。


「なっ、なんだと!?」

「先に無礼を働いたのはそちらだ。ありもしないことを叫び続け、この私をバカにした挙句にこの騒ぎ。そもそも、私と初顔合わせのエンデ王女はなぜ妊娠していたのだ?」

「――なっ」


 ミド21世は狼狽した。その件については知らされていなかったように見える。


「そこの先程、吠えていたジェマ!!エンデ王女は誰の子を宿していたのだ!」

「出まかせを!!」


 ジェマが真っ青な顔で続ける。


「いうに事欠いて、王女が子を宿していたなどと!!イル教国はどれだけ我が国を愚弄するというのか!!」

「出まかせではない。あと10カ月もすれば分かろう――」

「なにをいう、王女は、たった今――」

「死なぬ。王女は死なぬのだよ。少なくともこの10カ月はな。その体に宿したお子もなくなることはないだろう」


 俺はフフッと笑った。


「――どういう、ことだ」


 ミド21世はぽかんとして言った。

 俺はニヤッと笑って、砕けた口調で解説する。


「ああ、陛下、簡単にお伝えしますね。まずエンデ王女には思い人がいたわけです、たぶんですが。それとも不特定多数の男と寝る女性だったんですかね? 知りません。もう興味もありませんから。また皇帝陛下が独断でエンデ王女の降嫁をお決めになられた時との前後関係は分かりません」


 俺はジェマの足を固定しておく。


「もちろん、この時点でいたなら不幸な話。悲劇ですねえ。もしこの時点の後であったとしたら、明確な不貞。信義則違反というやつですわ。しかしまぁ、なんにせよ私としては断ってもらっても構わないわけですが、帝室としてはそういうわけにはいかなかった」

「それは、そうだ――わしから申し込んだ話であるからな」


 俺に明確な信義則違反があるなら別だが。


「なんらかのきっかけがあったのでしょう。エンデ王女付きの皆さんが一生懸命に俺の悪い評価を帝都ならびに帝室にまき散らした。陛下の耳にも入ったのではないですか?」


 ミド21世は黙る。もちろん沈黙は肯定の意を表すのである。


「で、最近、エンデ王女のご懐妊が分かった。さすがにそれはまずい。ということで二方面作戦をとった。一つ目は、俺の方から愛想をつかして断らせること、先程、無礼云々と叫んでいたあのジェマなるものが言ったのでしょう」

「なんの根拠があって――」


 ジェマが俺を睨みつけたままに言った。


「別に根拠がなくてもいい。俺の固有スキル評価が、お前たちを評価した結果だから黙ってろ」


 どなりつけると同時に、最大限の威圧を周囲にまき散らす。


「もう一つは、我が国への托卵。もしそれでも俺が結婚をするというのならば、じゃあ、そのまま嫁がせて子供を産ませれば、少なくともイル教の高い位置に入られるであろうという考え。長男ならばもしかしたら国が継がせられるかもしれない」

「卑怯者ね――」


 俺のまき散らされた評価を正確に分析し、ただ一人平然としていた。お爺様、父さん、母さんはこの場では完全に飾りである。


「それがすべて俺によって打ち砕かれた。なんだか妊娠のことも知っている気がする――じゃあ、今のうちに自殺したことにして――こちらに責任をおっかぶして逃げよう、ですね」

「――我が帝(マインカイザー)、今の話は――」


 サザーリン辺境伯がミド21世に尋ねる。


「朕は知らぬ話だ、ジェマッ」


 ミド21世の叱責がジェマに及ぶ。ジェマは逃げ出そうとしたが、俺の評価固定で動きが取れなくなっている。


「――ヒッ」

「逃げられはしない。この教皇ライト=サリス、おぬしらが流した噂よりも、もっと恐ろしい存在であることを知れ」


 俺はジェマにそう言い放つと、ミド21世の方を向いた。


「それから、エンデ王女は生きていらっしゃいます。私のスキルで固定しておきましたので、死ぬことも傷つくこともない。逃亡の恐れがありましたから、先程、我が教会のもので保護しましたので、そのうち連れてこられるでしょう」


 教会の関係者と話を通していたのはそのためだ。


「ジェマなるものよ、それでもなお私を人非人と?それほどまで私を罵ったからには、それ相応の覚悟があるのだろうな――」

「わ、わたくしは――」


 俺はジェマの言葉を無視をした。そして居住まいを正して、砕けた雰囲気を改めてミド21世に向いた。


「――そして、アッティラ皇帝ミド21世殿、先程の私に対する挑発をどのように弁解なさるつもりで? 許さぬ? ふふふ、許さぬのはどちらのセリフであろうか――」


 沈黙が支配する。レティの嗅覚の鋭さは今ここで口を開かないことにある。


「ん、エンデ王女がいらっしゃったようだ。とりあえず話を聞こうではないか」


 俺は口を閉じて廊下で叫ぶ王女の声を聴いていた。


「やめてください、教皇猊下は何もかもお見通しのご様子です。今度、お会いしたならば、私は間違いなく殺されてしまう!」

「それでも王女様、猊下にお会いなさらなければ!一連の申し開きが――」

「申し開き? いったい何を申し開くというのです!! お義兄さまはどこにいらっしゃるの!あれほど私を守る、お前こそが我が王妃とお話しいただいたジルベスターお義兄さまは!!」


 うーん、大きな声。


「取り乱している割には叫び声が説明的でわかりやすいわね――」


 レティの耳打ちに俺も小声で返事をする。


「すべての心の内が出てしまうようにしておいたからな」

「お兄ちゃん、マジ鬼畜」

「鬼畜は向こうだって」


 レティはポンっと手を打って笑った。


「おっけ。百パーセント同意だわ。鬼畜は向こうね」


 皇帝ミド21世はさすがに苦虫をかみつぶしたような顔をしている。


「ジルベスター殿はどちらのお兄さまですかね?」

「次女エミーの配偶者だ」


 ミド21世はそう一言言って黙る。いろいろ考えるところもあるのだろう。


「ジルベスター殿ですか。キッキン子爵家の3男でしたが、能吏としてキエサル大山脈のすそ野の開拓などに尽力され出世された方です。陛下より伯爵位を賜り、実家から独立し伯爵家を立ち上げた方です。領地もキエサル大山脈のふもとです」

「サザーリン辺境伯殿はご存じで?」

「顔を合わせたことはある程度ですが、なるほどあの者の仕業ですか」


 なるほど。急に能弁になったのは、矛先をそちらに向けさせるためか。


「――愚か者め――取り立てて、目をかけてやった恩を忘れ、この不始末か」


 ミド21世はつぶやいた。「許さぬ」、と。

 と、同時にエンデ王女が会見の間に連れ込まれてくる。教会の皆さんマジ、ご苦労様やで。


「お父様、ジルベスターお義兄様との結婚を認めてください――。私はあの方にあって一年と半年、幸せの中で恋を知りました!」


 俺たちのことが目に入っていないかのように――狂っている。もちろん、発狂することができないようにしてあるので、あれは狂っていない。酔っているだけだ。


「お兄ちゃん、マジ鬼畜」

「やめてくれよ、鬼畜はあっち」

「おっけ、もちろん同意だわ」


 俺たちは小声で囁きあい、笑いながら事の推移を見守った。めっちゃ面白い。もう、アッティラ帝国はかけるだけの恥はかいているので、面白さ倍増である。


 俺はただ許嫁を寝取られたかわいそうな教皇である。いや、この一事でもって戦争だろ、と思うが、そこまでじゃない。


 しかも!このいいところはプララが喜ぶ、ということである。もう少し二人っきりの新婚という立場にありたいものだ。


「エンデ」と、ミド21世はエンデを手招きした。


「お父様、わかってくださるの!」


 エンデはミド21世のもとに駆け寄っていく。ミド21世は腰の儀礼用の宝飾のついた剣を抜き、「この痴れ者が!!!」と叫んで、そのままエンデに逆袈裟に切り上げる。


 くにゅん。刃が一切入らない。


「ああ、無理ですよ、陛下。エンデ王女には今、私のスキルがかかっています。樹海龍ラトーガをもってしても一切破れなかったものですからね――って先ほども言いましたよ」

「殺させろ、このバカ娘を殺させろ――」


 二度三度と切りつけるが、もちろん切ることができない。


 皇帝陛下ともあろうものが、怒りに我を忘れているなぁ。さっき俺が自殺に追いやったってすげえ怒ってたのに。


 戦略帝も戦術レベルでとことん失敗されると、何にもできないもんだな。


 俺は素早く王女を昏倒させると、セバスティアン枢機卿の方を向いた。


「さて、セバスティアン枢機卿、ことの次第と結果は分かっていただけただろうか」

「は、猊下。このヨハン、しかと。猊下に一切非はなく、すべてはエンデ王女と――帝室にその問題があることを認めます」

「ふむ――して?」


 セバスティアン枢機卿は咳ばらいをした。


「恐れながら猊下。それでも私はアッティラの臣民でございます」

「ふむ」

「アッティラの臣民として提案もさせて頂きたい」


 俺はセバスティアン枢機卿の提案が大部分読めていた。ただ、面白がるだけなら戦争してもいいが、決着をつけなければならない。


 本来ならば、ぐっちゃぐちゃにかき回して、ボロボロにしてもいいレベルの事案だが、そうはいっても、限度がある。向こうがこちらに一定の配慮をするならば、それをこちらは不承不承認める、ということでいきたい。


「――まて、セバスティアン枢機卿」


 しかしミド21世がセバスティアン枢機卿の言葉を遮った。


「卿がそれをすべきではない。それをすべきは朕にある。朕こそ国家なのだから」


 もう、彼はボロボロである。だが、それでもなお、皇帝としての誇りを保とうとしていた。


「朕は国家なり、ですか。良いでしょう。お聞きしましょうか」

「朕――いや、わしが皆の前で膝を折り首を垂れ、猊下に謝罪を申し上げる。まず第一にエンデの不貞について。そして、第二に今回の一連の事件について巻き込んでしまったことを。そして最後にわしが猊下を勘違いから罵ったことを、すべて謝罪申し上げる」

「へぇ」


 と、レティは小声で感心している。


「その上で、ジルベスター=キッキン伯爵家は取り潰しとする。ジルベスター自身は自裁を申し付ける。エンデは修道院に預け、その子は修道院で育てることとする」

「ふむ、受け入れよう」


 俺は頷いた。悪くない条件である。続けて砕けた調子で言った。


「まぁ、別にさほど怒っているわけではないけれど、俺にも体面があるんでよろしくお願いしますよ」

「分かった。そして、これは条件ではないのだが――お願いがある」

「エンデ王女を引き取れというのでないのならば」


 さすがにあれはいらん。


「もう一人の被害者である、次女のエミーを妾でもメイドでもいいので、教皇領で引き受けてもらえぬか。あやつは器量は良くはないが、まじめで硬い女だ。ジルベスターとの間には子供もできず、外で遊ぶジルベスターに無視をされながらそれでも気丈にふるまって居った。そしてこの事件だ。さすがに不憫でならぬし、帝国内ではまともな縁談も見つからぬ」

「側室というわけではないのですね――?」

「さすがに言えぬ。だが、帝室は教皇との関係を悪化させるわけにはいかぬ。恐怖で国が崩壊する。そなたが引き受けてさえくれれば、なんとでもいいわけが立つのだ」

「虫のいい話を――」


 レティがつぶやいた。


「いや、妹君の言うとおりである。ならば、その上に、教皇猊下の父君であるサリス家の伯爵への陞爵と、なおかつジルベスター=キッキン家の元領地を与える。領地は治外法権とし、関税などの自主制定権も与える。事実上、あの地に、そなたの自治領をつくることを認めるというのではいかがか」

「なんと――」


 お爺様が唸る。


「ただし、サリス伯爵家には帝室への忠誠だけは誓ってもらいたい。我々帝室はサリス伯爵家の領地には干渉せぬ。であるが、サリス家は――教皇ライト=サリス猊下とのパイプ役になってもらう、ということでいかがか、サリス伯爵」

「お受けいたしましょう」


 父さんが頬を少し紅潮させて答えた。


 ただ、これに渋い顔をしているのはお爺様である。ゼナの街の税収はサリス家によるところが大きく、そこが抜かれてしまうというのはとても痛い。街と新領地は帝都をはさんで反対側にあたる。魔導車で必死に走っても三日はかかる。


 痛い。お爺様は痛いであろう。


「義父上、私とミリィはゼナの街に残りますからお気になさらず。頂いた領地はパリスとレティがうまくやることでしょう」


 父さんは続けてさらっと言った。伯爵に陞爵したら、自分は引退する。そしてパリスに伯爵家を引き継がせ、領地経営をさせればいい、と。望外の夢は手に余るからな、と笑ってる。


「うむ、頼む――」


 お爺様はほっとした。


「さて、条件は分かりましたし、そこまで言われるならエミー王女もお預かりいたします。同じ轍を踏まぬように本人次第、ということでよろしいですか?」

「ありがたい。それも併せて発表させてもらうぞ?」

「もちろん」


 俺とミド21世はそこでようやく握手ができたのである。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


ブクマありがとうございます。嬉しいです。


明日からの二日間はカクヨムの方で新作「小学生のあたしは気高き男の娘なので。」を投稿をはじめます。毛色の違った一話一話が短くさらっとしたお話です。

こちらも見ていただけるとありがたいと思います。

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