許嫁の王女の秘密を暴くのは俺の仕事か?第46話
「王女様!!」
エンデ王女のお付きの女性が彼女を脇から支えた。そしてこちらをキッと睨みつけてくる。年のころは50後半であろうか。
「王女様に何をなされた!」
「今、見ておられないのですか?私は何もしていないのだが――」
「何かされなければ倒れることはないはずです!」
いや、何もしていない。見ていた彼女もわかったはずだ。ただただ、エンデ王女が俺に恐怖して倒れただけであることを。
しかし、この王女――ん?
「お兄さま、なんですか。この無礼な侍従は」
レティが相貌を鋭く光らせ、ずずっと前に出た。無礼な侍従と言われた女性は怒りを隠さずにどなった。
「そういうあなたは何者です!?」
「私は教皇ライト=サリスの妹です。で、あなたは何者です。イル教国の国主であり、イル教の教皇であるお兄さまに対する、礼も弁えない無礼なあなたのアッティラ帝国での立場は――いったい何者なのです」
ぐ、とその侍従は黙った。効率的に俺の立場を再確認させている。
「教皇であるお兄さまが、側室を迎えるとはいえ、生まれ故郷の帝室に敬意を払って王女殿下をお迎えに上がった。ただそれだけであることは分かるはずなのに、突然無礼な物言い――」
「レティ、それ以上は――」
「黙りません。お兄さま。ことはアッティラ帝国とイル教国、魔国との外交問題であり、お兄さまを侮るということはこのまま戦争に突入してもおかしくないことです」
息まくレティ。俺は立場上止めているが、心情はもっとやれもっとやれ、である。こちとら押し付けられた花嫁を貰う立場である。破談になっても毛先ほども困らないし――これはたしかに、問題だ。
レティは本気で怒っているわけではない。本気でいじめているだけだ。
「お兄さまがこのように蔑ろにされることは、もう耐えられません――この破談にいたしましょう!」
「お、お待ちください――レティさん」
そう声を上げたのは、意識を取り戻した王女エンデであった。
「私の侍従の教皇猊下に対するご無礼をお許しくださいませ。ひとえにこのエンデの責にございます」
震えながら正座し、きちんと頭を下げるエンデ王女。22歳の大人の女性でありながら、はかなげで庇護欲をくすぐられるだろう。俺でなければ。
ただし、いまだ俺に対する恐怖は取れていないらしく、唇が紫色に染まっている。
「――いえ、エンデ様、私の方こそ、差し出がましいことを申し上げました」
レティは素早くそういうと、一礼をして後ろに下がる。こういう押し引きはとても上手だ。
「ジェマも早合点が過ぎる上に、猊下に対する何たる無礼――」
「私は……!!」
「控えなさい。私の夫となる方にそれ以上の暴言は許しません」
ジェマと呼ばれた女性は、不承不承と言った体で下がる。
「あら、主君に謝らせて、自分は不満顔で下がるなどという、臣下としてあるまじき姿ですね――」
その姿をレティは見逃さない。
「小娘がッ」
「ふむ――どうやら我々は招かれざる客らしい」
俺は吐き捨てるように言った侍従ジェマのつぶやきに反応した。
「猊下っ、なにを――」
「ここの都民の表情はどうだ。私に対して恐怖に慄いている。都民はみな、私のことをエンデ王女を誘拐にきたとでも言わんばかりに憎しみの目をむける」
「そのようなことをだれが――」
誰も言っていないが、俺の言葉に王女の周りの人間はみな顔をひきつらせた。
「そもそも、この婚姻はミド21世殿によって要望された話である。そのことを正確に伝えもせず、周囲の者は、今まで俺が恫喝して嫁に出させたとでも言ってきたのだろう。違うか、ジェマなるものよ」
「――そのようなっ」
「どうやら理解していないらしい。この教皇ライト=サリス、なぜ神から世界の守護者を承っているのか、なぜ魔国が恐れる樹海龍ラトーガをたった一人で屠ることができたか。我が固有スキルの前に隠しごとなど通じぬというのに――」
ひっ、と声を上げたのはエンデ王女とその周り。
やはり、と思う。
「まず釈明を願う。そして至急アッティラ皇帝ミド21世殿との会談をセッティングしていただきたい――セバスティアン枢機卿はいらっしゃるか」
「は、猊下」
ヨハン=セバスティアン枢機卿は臣民であり、イル教の4枢機卿の1人である。王女との出会いの間の外に控えていた。
「そなたはこの国の宗教顧問であり、我が教団の代表である。曇りなき眼で事の顛末を見定めよ」
「――はっ。正しき信仰のもとに」
そこへ先程の侍従ジェマが割って入ってきた。
「お、お待ちください――姫は、姫は何も悪くありませぬ」
「悪くないわけなかろう」
「私の無礼がお気に触られたならば謝りますし、命を差し出せと言われるならば差し出します――なにとぞ、なにとぞ――」
俺はすぐさまこの侍従ジェマと王女エンデに状態固定をかけた。
「申し開きは後でしてもらおうか。エンデ王女、そしてジェマよ」
まぁ、俺は前世は教育者である。そういうのは見たくない。
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「あのさ、いったいなにがあったの?」
俺たちは控室に通された。ミド21世との会談まで1時間の間がある。もちろん、それは帝国側の時間稼ぎである。
セバスティアン枢機卿はここには通されていない。
俺は唇に人差し指をやり「シー」とやると、控室全体に評価をかけた。盗聴6人――上に3人、下に2人、隣に1人だ。
「控室を盗聴するとは不届きなり!! 1人はこのことをミド21世に伝えよ!! そして残り5人は3つを数えるうちに去るがよい。去らなければ、問答無用で斬り殺す!」
俺は全殺気を評価に載せて叫んだ。
「ひぃ」と叫んだのはお母様。しまった、チャンネルを絞るのを忘れていた。
しかし効果はあって、すべての間者はいなくなった。
「すみません、みなさん、お座りください」
俺はソファーに腰を掛けるように促した。
「お兄ちゃん、すごいわね。私に向けられたものではないとは分かったけれど、生きた心地がしなかったわ」
「ああ、すまない。6人も盗聴しようとしていたんで、つい――」
「間者か――なんと……」
サザーリン辺境伯は言葉を失っている。お爺様にしてもお母様とお父様にしても――パリスも当然顔を真っ青にして座っている。
「――なにがあったというのじゃ」
やっとのことでお爺様が言葉を絞り出した。
「お爺様、エンデ王女は妊娠されています――」
「はぁ!?」
真っ先にブチ切れたのはレティだ。
「なに、あの人妊娠してたの?もしかしてさっきの侍従の無礼なふるまいは芝居なの?」
「ああ」
「うっそ、マジ許せないんだけど――」
乗せられて芝居の片棒を担がされて怒りが頂点に達しているようだ。
「俺が怖いのは本当みたいだ。そしてたぶん、妊娠、3カ月というところ。子供の心音が聞こえたし、評価にも表れていた」
「猊下――それではまさか、エンデ王女は妊娠を知っていて猊下に嫁がれる予定であった、と」
「そう。そういうこと」
サザーリン辺境伯の問いに、俺は頭を掻きながら答えた。
顔も今見て知った程度の女に未練などないけれど――許せないことではある。
「ライトや――黙って嫁にもらってやるわけにはいかぬか――」
「はぁ?お爺様、バカなの?死にたいの?許されるとでも思っているの?」
「か、仮にも皇帝ミド21世のご息女を嫁にできるならば、それはサリス家、ひいてはマリエント家の誉れ、妊娠していようがしていまいが、関係ないではないか!!」
あるある。そういう忠義の見せ方。お爺様はそれでよかろう。
「――義父さん、サリス家は許せませんが?」
父さんは静かに言った。
「貴族と偉ぶるつもりもない、もともとただの一介の商人である私だ。王女の降嫁などということが名誉であることもわかっているが――この私の息子をバカにする気であるならば、いつでも何もかも捨ててやろう」
「お父様、私も同じ考えです」
母さんも父さんに乗った。
「サリス家の総意は出たわね。ああ、パリス、あなたも身の振り方を考えなさい。うちは皇帝と、つまりアッティラ帝国といざとなればことを構えることが決定したわ」
「僕はサリス家に養子に入る身。しかももう士爵も貰って家から独立しているからね。当然、サリス家に全のっかり」
「いい男ね。愛してるわ」
レティはパリスの頬にキスをする。
「ま、待つのだ。いや、お待ちくだされ、猊下。話は陛下との話の後でも」
サザーリン辺境伯が、エキサイトするサリス家の面々を止めようと立ち上がったその時だった。
城内に響き渡る絹を切り裂く、というか、耳をつんざく叫び声、瞬間的に窓から外を見る――上か。城内の中心にある高い時計塔、そこに1人の女性がたっていた。
エンデである。
「――自殺?!」
誰かが叫んだ――と同時に、ゆっくりと倒れるように、エンデ王女の体が下に向けて自由落下を始めた。
これだから、三文芝居の役者は困る。筋書きがあまりにもチープである。
――ああ、くだらない。
「じゃぁ、会談に臨みましょうか――」
俺は立ち上がった。エンデ王女が自殺を計るであろうことは承知している。ここまで卑怯な展開をお望みならば、本気で生き地獄を見せてやろうではないか。
ははは、NTRだぜ。
いつもに比べればちょいと短いですが、続けると無駄に長くなりそうなので止めました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ブクマの一つ、評価の一つでもいただけますと、やはり意欲が出るもんでげす。
どうぞよろしくお願いします。




