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張り詰めた空気の真ん中がわちゃわちゃな第31話

 張り詰めた空気、というのはこんな空気のことを言うのだろうか。


 改築されて大きくなった我が家の応接間に俺とプララが並んで座り、正面に父さんと母さんとマリエントのおじい様、上座のお誕生日席に4枢機卿のヨハンさん。それに相対するように下座席にレティが腰を掛けた。


 おじい様は枢機卿のヨハンさんが強めに指示をするまで直立不動を崩そうとせず、腰を掛けた今も背筋をピンと伸ばしたままだ。


「おじい様、少し力を抜いていただけませんか。場がいつまでたっても硬いままです」


 俺は軽い口調でおじい様に声をかけた。


「なにをバカなことを!ライト、この平民のサリス家にイル教の枢機卿の中の枢機卿、聖人セバスティアン様がいらっしゃるのだぞ!」

「ああ、マリエント殿、私からもやめていただきたい」


 ヨハンさんが口をはさんだ。


「イル教での地位を持ち出すなら、私はこの中で3番目だ。そこまで持ち上げられると、私も恥ずかしい」

「な、なにをおっしゃる!4枢機卿といえば、イル教の中で教主イル=サン様の次席ではありませんか」

「それを説明するために上がったのだ。もう少し肩の力を抜いていただきたい」

「は、はっ。仰せのままに」


 おじい様の肩の力は抜けない。この世界では士爵つまり騎士爵、というのは武功を立てた平民が徐爵する爵位で、数代前のマリエント家の当主がゼナの港の争いを収めて領主サザーリンから地位と独立を得たものだ。


 よく言えば武家らしさ。悪く言えば融通が利かない。俺はこのおじい様のそういう不器用さが好きではある。


「サザーリン伯も早馬を飛ばしてきているということだが、今日中というわけにはいくまい。話を進めさせていただく」


 ヨハンさんは言った。


「サリス殿はもう大体のところは理解されていますな」

「はい、セバスティアン様――」

「カイン!何を知っていて、わしに黙っていたというのだ!」

「おじい様、うるさいです」


 と、厳しい口調で言ったのはレティ。


「なっ」

「おじい様はなにも理解していないのですからお黙りください。今からそのように取り乱していては、死にますよ。たとえば――お兄ちゃんの隣に座っているエルフの方や、今のお兄ちゃんの立場を聞いたら卒倒間違いなしです」


 ああ、そういえばまだ紹介していなかった。


「まず、おじい様に紹介します。俺の許嫁のプララです」

「お、おお!? 許嫁?」

「改めまして、皆様、お初にお目にかかります。私はプララ=セローと申します。エルフの主座プラローロ=セローと前魔王リャララ=リャラの一人娘にございます」


 プララは立ち上がり一礼し、礼儀にそった振る舞いを見せる。

 

 その様子を見て、おじい様がブルルっと震えて固まった。


「はい、おじい様死亡1ね。プララさん、話はお兄ちゃんから聞いています。私はレティ。お兄ちゃんの双子の妹です。」

「よろしく、レティさん――」

「うん、よろしく。で、申し訳ないんだけれど、一つ頼みたいの。父さん、あの短剣あるでしょ?」

「ああ」


 父さんは壁に掛けられている短剣を持ってきた。


「はい。呼び出して」


 それを受け取ると、無造作にプララにその短剣を差し出した。


「――え?」

「だめなの?じゃあ、お兄ちゃん、呼び出して」


 今度はこちらに短剣を差し出してくる。おいおい、我が妹はエキセントリックだ。


「早く。今のお兄ちゃんなら、根こそぎってことはないでしょ?さっき通信機で話しておいたから大丈夫だって」

「根回し早いな」


 俺は苦笑しながら短剣の刃の部分を握りしめた。


「師匠はランプの魔人じゃないんだけどな」

「似たようなもんでしょ」


 俺は血のにじみを待って、叫んだ。


「我が魔力でもって顕現なされませ、プラローロ様!」


 あの時とは違うけれど、かなりごっそりと魔力を持っていかれる。と同時に徐々に師匠の体が実体化していく。


「な、なんだ!」

「控えられよ、マリエント殿」


 ヨハンさんはおじい様に控えるように言い、同時に自分は平伏する。おじい様もわけもわからないままに平伏する。


「おじい様、これで2死亡目は確実ね。ふふっ」

「はあい!みんな!久しぶりね!元気にしていたら嬉しいんだよ!!」


 ずずっと、頭を下げていたヨハンさんが顔を上げて話す。


「お久しゅうございます。教母様」

「久しぶりだね、ヨハン。元気にしていたかい?」

「寄る年波にはかないませぬが、教母様はいつまでもお美しくてうらやましく存じます」

「はっはっは、それがこのプラローロだからね!」


 俺は肩で息をしながら師匠に向き合った。


「3週間ぶりですね、師匠――」

「やあ!全然余裕がありそうじゃないか!!鍛えた甲斐があったけれど――そもそもキミのあれを使えば良かったのでは?」


 評価で固定すればよかったのか。なるほど。


「いえ、自分の魔力量の増加を体感したかったという感じでして」


 俺は強がった。


「やあ、サリス殿、ご無沙汰だよ!こうしてまた会えたことを嬉しく思うよ!」

「プラローロ様、ご機嫌麗しゅうございます。今の息子を見てあなた様に預けたことを心から良かったと思います――が」

「が?なんだい?」

「商人としての感ですが、息子から僅かばかり人外の雰囲気を感じます――」


 父さん、ひでえ。


「あははは、さすが会ったばかりの私にライトを預けただけはあるね!正確に、今の息子さんは人外の――――さ」


 せき込む師匠。


「禁忌に触れることを言おうとしなければいいのに」


 とレティ。


 ――ん?


「レティ――なんでそんなことを知っている?」

「今の神の禁忌に触れたんでしょ」


 さも当然といった顔をして、彼女は言った。すごい違和感。せき込むだけの動作を神の禁忌と看破することは不可能だ。


「ははは、レティちゃんにはかなわないんだよ!」

「プラローロ様は初代イル=サン。神理解の極みも果たされているのでしょう?」

「してるよ!」

「なら、そこに禁忌が存在しているでしょうから。それだけよ、お兄ちゃん」


 なにが見えているのか――俺は妹の見えているものに一抹の不安を覚えた。


「ふふん!まあ、ライト、レティちゃんのことは置いておくといいのさ。これでもこの子は世界トップランクの神聖魔法使いなんだから、気づいてしまっても仕方ないさ」


「……なんの、話だ……」

「あら、おじい様、死んでいたらいいのに」


 レティが酷いことを言った。


「やあ!マリエント殿!お孫さんの師匠をしているプラローロ=セローだよ!これでも5賢人の1人で、イル教の教母っていわれているのさ!」


 イル=サン国では国母。外では教母。まあ、どういう地位を占めるかということが分かればいいのだ。


「5賢人!?」

「おじい様は想像のできる相手にしか、畏まれないのね。プラローロ様は雲上人すぎて畏まれていないわ!」

「おい、レティ、ちょっとはおじい様にやさしくしろ」

「お兄ちゃん、ちょっと人外の化け物じみてきたからって、偉そうにしないで」


 なにか俺に対しても辛らつである。


「人外の化け物って、おまえな――」

「私にはわかるもの。なんていうか感覚的に? お兄ちゃんは神聖魔法すら必要のない、ううん、受け付けることのない体でしょ、今。まったく『ご武運を』なんて祈ったのが馬鹿らしくなるほど人外ね」


 取り付く島がない。しかも俺のことを正確に見取っている。すこし、ゾッとする。神理解の極み、なんというものがなくとも、すでに何かが極まっている感じ。


「はい、やめましょう。一度皆さん落ち着いて。もう、この場は上下の関係を一度置いておきましょう。でないと偉い人が多すぎて困ってしまうわ」


 と言い出したのは母さん。


「私は少なくとも息子も娘も帰ってきたことを喜びたいですし、こんなにかわいらしいお嬢さんが息子の恋人であることを喜んでいます」

「お母様――」

「ごめんなさいねえ、プララさん。レティは今、『愛してやまないお兄ちゃん』を取られたことを間近に見て怒り狂っているだけです」

「なっ、母さん!!」

「レティ、はしたないですよ」


 母さんはぴしゃりといって、レティを黙らせる。


「お父様――」


 母さんは、続けておじい様の方に向いて言った。


「少し落ち着きください。士爵ともあろうお方が、なんという取り乱しようですか――」

「す、すまない」

「今から私の知っていることをすべてお話ししますから、落ち着いて聞いてください。情報を共有して、基盤を作って、対策を練りましょう」


 母さんは驚くほどに場を仕切っていく。


「いいね!対策というほどのことはないかもしれないけれど、近い将来のライトのあり方は一度相談しておきたかったんだよ!」

「ええ、ですから、プラローロ様もプララさんの隣におかけください」


 師匠も言われるままに座る。ヨハンさんもおじい様も同じように腰を掛ける。


「お父様にまず申し上げます。ライトに関して言えば、マリエント、サザーリン伯爵様、さらにアッティラ新帝国のレベルですらありません。ライトは次期イル教主です」

「なっ」

「黙って聞いてください。セバスティアン様、そのような見解で間違いありませんね?」

「ええ、ライト様は我が教団の渇望してきた神託の御子であります。これは教団の設立にかかわることであると、私が若いころ教母様から教わりました」


 ヨハンさんはそういって師匠を見る。


「そうさ、イル教は私がライト=サリスを迎えるために作った教団なのさ。マリエント殿、つまり、あなたが思っている以上に、お孫さんはとんでもない存在なのさ」


 師匠が楽しそうだ。最近、師匠と話すと、なんだか不機嫌なことが多くて、こんなにもドヤ顔をしている師匠は久しぶり。


「――で、すが」

「おじい様、理解しようとしない方がいいですって。あたしたち、一般庶民には理解できないレベルですから」


 イル教主などといった立場から見れば士爵家も平民も変わらない。レティの言葉には棘があった。


「レティ、さっきから嫌に化け物扱いしてくれるが、お前の神聖魔法だって十分人外の能力だからな――」

「あたしが?――あのね、お兄ちゃん、あたしは何も修行していないし、強くもない。ただ、自分の法適正の導きに従っているだけ」

「神聖魔法の法適正の導き?」


 ヨハンさんが口をはさんだ。


「私はこれでも神聖魔法法適正Aだが――導かれたことなんてないのだが、レティさん、それはいったい――」

「どうでもいいんだよ、ヨハンは細かいことに気を使いすぎさ!!今はライトとプララの話なんだよ!」


 ――ん?


 強引に話題を返還する師匠の姿に疑念が浮かぶ。


 ――レティがらみで、なにか隠しているのか


「さあ、ミリィ殿続けておくれよ!」

「はい――」


 俺の疑念はそのまま置いて行かれる。


「で、プララさんはライトの許嫁です。お互い好いているようで安心しました」

「そ、そうだ、それを教えてくれ。すまない、プララさん、あなたはプラローロ様と誰のお子といわれた」

「前魔王リャララ=リャラです」

「五賢人の2人のお子様ということか――つまり、魔国とイル教国は」

「魔国とイル教国は手を組んでなどいませんから」


 俺が機先を制して言った。


「おじい様、アッティラ新帝国のみなさんは少し誤解をされています。魔国は侵略者ではありません。むしろ変化を嫌う国民性です。イル教国も多くは人族ですが、エルフの性格を色濃く受け継ぎ、変化しない国です。300年前のことも――」

「ライト――」


 プララが俺の膝に手を置いて制する。ふと我に返る。つい、ジャロロ=ジャロの話をしそうになってしまった。


「ああ、とにかく、魔国に侵略の意図はありません。ゼロです」

「それは、本当なのか?」

「俺はここ数カ月魔国の学園でトップの地位にありますが、誰もが侵略なんてものを考えていません。いかに自分の力を強くするかには興味があるようですが、他国なんてどうでもいい、というのが本音です」


 俺の言葉におじい様が反応した。


「魔国の学園でトップ?」

「ええ、おじい様、ちょっと魔国に留学していまして」

「マリエント様、ライトさんは圧倒的な力をそこで見せつけ、同級である1回生をなぎ倒し、2回生を屈服させ、各学年の王や魔帝といわれる絶対的な力を持つ方々を絶望に叩き込むくらいに強いのです。さらに魔国での名声はうなぎ登りで、ツーザンではライトを殺そうという暗殺者50人に対して、無傷で30人を斬り殺し、残った20人も一人残らずお縄にして治安部隊に引き渡すという荒業――ついたあだ名が人族の英雄、ツーザン30人殺し!!」

「ちょっと!プララ、みんな引いている!!やめてくれ」


 一同ドン引き。引いてないのは、俺とプララと師匠だけ。


「あら、ダメでした?」

「あのな、ここは人族の国。30人の魔族の暗殺者を斬り殺したなんて話はおとぎ話なんだよ」

「いやいや!!大丈夫だよ。魔国の中でもおとぎ話だったはずだよ!!」


 やめてください。


「まあ、いいや。父さんやレティが俺から人外の香りがするっていうのは、間違ってないよ。自分で言うのもなんだけど、ずいぶん人外な力を手に入れてしまって」

「まだまだ鍛えたりないんだよね!!」

「――ひよっこにしか見えぬが、それほどの力なのか……」


 おじい様が言った。


「うん、いいね!ライト、遠慮会釈なく、マリエント殿に殺気をぶつけてごらんよ」

「ちょっと、おじい様、本気で死亡するわよ!」

「ライトが殺さないさ!」

「どういうことよっ!」

「そういうことさ!」


 そんなことは、やりません。


「話を戻しますね」


 この場の良心こと母さんが、話を元に戻した。


「お父様、サリス家がここ数年で身代を伸ばした理由が分かりまして?」

「――つまり、エルフの主座と親戚付き合いの一環か」

「そうなんだよ!マリエント殿。ああ、そうだ、報告しておいたけれど、サザーランド君に関しては、エルフ港町ヘムヘースが責任をもって預かるからね!」

「お手数をおかけします」


 父さんは、申し訳なさそうな顔をしている。そりゃ、便宜を図ってもらっている側が、迷惑をかけてさらに便宜を図ってもらう話しだ。申し訳なさそうな顔をしていないと話にならない。


「もう一つ、お父様には秘密にしておいてもらいたいことがあります」

「つまり、今までのことも秘密にしておけ、ということだな」

「当たり前です」


 母さんは即答した。なんとなくレティの性格は母さん譲りである気がする。


「ライトは固有スキルの持ち主です」

「――なんだと」

「そうだね!ちょうど私が生まれて以来だから、750年ぶりくらいの固有スキルの持ち主さ」


 そういえば、俺は師匠の固有スキルについて知らない。魔道具に関連していそうだけれど、聞いたことがない。


「そ、それは――歴史ではないか」

「さっきからそんな話しかしてないんだよ!!今、ここで語られているのは、伝説であり、歴史であり、サーガであり、―――げほっげほっなのさ」


 師匠が本日何回目かの禁忌だ。


「あたし、禁忌に触れないからいうけど、神話なのよ。今、この瞬間が」

「――かなわないな」


 師匠が力なく笑った。


「プラローロ様は黙っていて。禁忌に触れるたびにせき込まれたら迷惑だわ。一言でいえばお兄ちゃんは神話のそれ。人外の化け物じゃなくて人外なのよ!」

「わかります!私の魔法適正はS。そのSランクの導きにより、ライトはたしかにあの域に到達すると答えを出しています!」


 プララが興奮して参画してきた。どうやらSランクというのは、その適正からの加護を受けるらしい。考えてみれば、ジャロロ=ジャロの魔法を復活させたのも、誰かに学んだわけではなかった。


「わかる!お兄ちゃんのその埒外の能力は」

「ライトのこの常識を超える力は」


「「神の領域」」


 プララとレティの声がかぶさった。と、同時に二人ががっしりと握手する。


「いけ好かないお嬢様かと思ったら、お兄ちゃんのことをちゃんと理解しているようね」

「ただのブラコンかと思いましたが、ライトのことをしっかりと分かっていらっしゃるのね」


 二人が変な空気を出し始めた。


「私をレティと呼んで」

「ええ、レティ、私のことはプララと」

「わかったわ!プララ!」


 二人して固い握手をしてニヤッと笑った。


「ライト――」

「なんです、おじい様」

「お前、大変なもんに目をつけられたんだな。じいは、同情するぞ」


 ありがとう、ございます?

毎回、話数を入れながら書いているのですが、ついうっかり30話で「わーい」とやるのを忘れてしまいました。まあ、いいか。

というわけで32部31話でした。めでたい!


自分は腰が悪い人間でして、より良い執筆環境というのを模索しているのですが、ネットブック片手にソファーで腰を落としていたら、案外集中して取り組めました。現在腰が痛くなってもいません。


さて、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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