表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/91

王たちとの闘いと幸せを求める第26話

「手加減はするな――いいな、ライトとプララ」

「もちろんですけど、本当にやるんですか?」


 俺とプララは、テムジンとジャリリ、それにシュシュトリと向き合っていた。魔校第三庭、3回生が集う場所だが、今は執行部黒猫の5人しかいない。


<><><><><><><>


「確認させてくれ――」


 3人が師匠プラローロの元から帰校した次の日、俺たちは執行部に顔を出すと、テムジンからそう切り出された。


「なにをですか?」

「お前たちの強さを。立ち合ってくれ」

「うーん、めんどくさいので嫌です」


 俺は最初にべもなく断った。たぶん俺たちは負けない。だが、それを確認することは、別にしなくていい。先輩の顔をつぶすのは、正確な意味でめんどくさい。


 だが、テムジンとジャリリ、それにシュシュトリの3人は、強さの確認をしつこく求めてきた。


「ライトくん、それにプララさん、僕たちはキミたちに負けることを厭わない。師匠のもとで修業してきた今だからこそ、キミたちの強さが理解できる。だが、それでもなおキミたちと立ち合いたい」

「これはお願いに近いのよ。私たちが、もう一段上に行くためには、師匠が誇る天才のあなたたちと戦いたいの」


 俺はプララと顔を見合わせた。


「あの、ライト、私は手合わせをしてもいいと思います」

「プララ?」

「先輩たちは明らかに変わられている。だからこそ、知りたいんじゃないですか。格上の存在を」

「そうだ――」


 テムジンがプララの言葉にうなずいた。


「魔帝?王?先輩?後輩?そんなものどうでもいいんだ。俺たちはこの一月、死ぬほどに死んだ。誇らしく思っていた『魔帝』がとてもちっぽけに見えるくらいの価値観の変化を受けた。雲上の意味を知った――お前たちは俺たちが目指すあの雲上の入り口にいるとプラローロ師匠に聞いた。だから――」

「経験をさせてほしい、と?」


 俺の問いかけに、三人はああ、と頷いた。


「分かりました。でも、人払いはお願いします。俺は先輩をみんなの前で恥をかかせる趣味はないので」

「ああ。気遣いに感謝する」


 ――ほう。


 ここまで煽ったことを言ってもテムジンたちが怒っていない。評価で内面を覗いても欠片も怒っていない。素直に気遣いに感謝された。


 というわけで魔校第三庭で俺たちは向き合っていた。


「じゃあ、最初は1対3で行きます」


 俺は言ってプララに目配せをした。


「今から始まると同時にプララが魔法を打ちます。多分防げずに苦しむと思います。で、そこから復活したら第2戦目。今度は俺が皆さんにあることをして打倒します。防げません。そして第三戦はそれらの技を封印した状態で戦います。これは2対3で」

「なぜそんな説明を――?」

「うーん、たぶんそれらを使うと試合にならないからです。でも全力に近いものを見たいのでしょう?だから、使った勝負と使わない勝負をするしかない」

「ありがとう。僕たちは最初から全力でいきますよ?」

「何をされても俺らは死にませんのでどうぞ――」


 それはただの事実だが、さすがに煽っているように聞こえたのだろうか。


「では始めるぞ!!!」


 テムジンの怒声が響いた。


 ――はい。


 第一戦終了。初手ホウオウゲンマケンにて、三人は瞬時に気絶をした。


「起こして、プララ」

「はい」


 プララは手を叩いた。悪夢から目が覚める3人――。のそりと起きてくる3人に俺は穏やかに聞いた。


「二試合目、すぐ行きますか?」

「――ああ」


 テムジンもジャリリもシュシュトリも異論はなさそうだった。体に傷はないのだから、これくらいは当たり前である。師匠のもとで何度も死んだのが生きている。ただし、冷や汗が凄い。


「では、第2戦目、行きます」


 同時に評価:固定を展開。


 3人は意識があるが、動けない。言葉も発することができない。そうして俺は一人ずつ、木剣でぶん殴りながら気絶させていく。1人倒されるたびに残った者が怯えた目でこちらを見ているが、仕方ない。これがルールだ。


 気絶させると同時に、プララが水系の治癒魔法をかけていく。3人とも鍛えられているだけあり、すぐに目を覚ました。


「さて、ここまでで何か質問はありますか?ああ、俺のしたことは秘密ですけど」

「――恐ろしい」


 テムジンが絞り出すように言った。


「やだなあ。テムジンさん、そういうこと言うのなしですよ。俺たちは頼まれて誠実に強さを示したのに」

「そうだな――すまん」


 テムジンが頭を下げた。他の2人は口も利けないようだ。


「第3戦をしてから感想戦に移行しましょうか?」


 3人は頷いて立ち上がった。


 と、同時だった。


 テムジンの体が大量の魔力によって膨らんだ。魔力によるパンプアップ。ただでさえ、2m越えの大男が3mを越えてくる。


 そして全身を魔力で補佐を入れながら、猛ダッシュ。


 テムジンは俺の懐に飛び込んだ。


 そして「おらああああ!!!」と叫びながら、地を這うような軌道の力のこもったアッパーカットで俺の顎をカチ上げる。


 俺の体がゆうに4mは体が持ち上がった。


 そこに示し合わせたかのように打ち込まれるシュシュトリの水魔法棘の鎖(チェーンオブトーン)が俺の体を空中に固定する。


「行きます!ライトくん、死なないでくださいよっ!!」


 タメがいる魔法を用意していたようだ。まるで某かめはめ波のように両手を突き出して、俺に雷撃の上位魔法神の鉄槌(トールハンマー)を打ち込んでくる。


「「「やったか!!!」」」

「無駄です」


 声に出した3人に対して冷たく言い放ったのはプララだ。


 え?と言った顔で3人はプララを見た。


 そう、無駄だ。


「先輩、なかなか素晴らしい連携攻撃でしたが、ライトには無効なんです!!」


 俺は気まずい顔をしながら空中から地面に降り立った。


「ふふふ、さすがライトです。見ましたか、先輩方!! 私のライトの凶悪なまでの強さ。あれ以上の攻撃があるなら打ち込んでみてください。でも無駄ですよ!!そう、無駄なんです。ライトは私のダークマニフェスト(大消滅魔法)でも倒せないのですから!見ました?伝説の魔王(ジャロロ=ジャロ)の魔法ですら倒せないってすごくないですか?すごいですよね!!激萌えです!」

「あのね、プララ、あんまりそういうこと言わないで?恥ずかしい」

「ああ、ごめんなさい、ライト!」


 プララが自分の興奮に気が付いたのか、顔を真っ赤にしてうつむく。


「――わかった、降参だ」


 テムジンの声に残りの二人も手を挙げて降参の意を示した。


<><><><><><><>


 執務室で俺たち黒猫のメンバーは重い雰囲気になりながら、ヒナタさんの入れてくれたお茶を飲んでいた。


「ほら、ちょっとめんどくさい感じになったじゃないですか」


 俺は少し後悔しながら言った。


「ああいや、すまない。そんなつもりもなかったんだ。ただ、僕たちの想像の遥か上に二人がいたので、ちょっと驚いているだけなんだ」

「ええ――ねえ、二人は今冒険者ランクBランクっていってたけれど、Bランクの実力はみんなあのレベルなの?」


 シュシュトリが少し落ち込んだような声で言った。


「うーん違うと思いますよ。師匠曰く、俺の防御は師匠でも破れない、ですから」


 防御しているわけではないからちょっと違うけれど、実質の意味合いは同じだ。


「そりゃ俺たち程度では無理だな。そうか、お前たちはすでに雲上の実力者なのだな――」

「だから、それやめてくれません?めんどくせえ。俺たちをあがめるのは1回生と2回生だけで十分っすよ。この上で、先輩たちにまでそんな雰囲気作られたら、退校しますよマジで」

「すまん――そうだな、わかった。今日はありがとう。勉強になったわ」


 俺は少しむくれていた。


「そもそも俺は強さこそ正義なんて言うつもりはないんすよ。もともと人族ですしね。強くあるのは、死なないためです。入学式の挨拶でもいいましたけれど、大切なものを守れる強さが欲しいだけです。最近、少し手に入りつつある。そういう意味では満足しています」

「なるほど――」

「先輩方は知っていますか? 人族にとっての幸せを――」

「金と、名誉と、美貌か?」


 テムジンが言った。人族に対する侮蔑を感じるのは気のせいではないだろう。


「ああ、その3つは幸せの外的要因といって、実は幸せとは直結しないんですよ」


 俺の前世の専門は教育心理と教育学。ここら辺の話は得意分野だ。


「ふむ――」

「金があっても幸せになれない。それは金持ちがみんな幸せな顔をしているか、と言ったらそうじゃないはずですよ。金はあればいい。けど、唸るほどあったら幸せか、というとそうではないです」


 俺は執行部の黒板に金、名誉、美貌と書いて、金に×をつけた。


「美貌も衰えるし、そもそも他人がいなければ計れないものを幸せというでしょうか。プララは美少女ですけど、それだけで彼女が幸せであるのでしょうか――」

「もう、なに言っているんですか、ライト!」


 そういいながら嬉しそうだ。


「私が幸せなのはライトがいるからですけどね――」

「あはは、それはありがとう」


 美貌にも×。


「じゃあ、名誉はどうなの?」

「シュシュさん、今、シュシュさんは3回生の王という名誉を受けていますが、幸せですか?」

「いえ――王になった時はともかく、今は幸せに感じてないわ」


 俺は名誉に×と書いた。


「つまり王になったという名誉による幸せは一時のモノ。しかもそれは他者の存在、つまりもっと上が見えた瞬間に衰える程度の幸せです」


 たとえば子供のころからあこがれたプロ野球選手という夢をかなえた人が幸せで暮らせるか、ということ。夢と幸せは実はベクトルが違うのだ。


「俺、知り合いに位人臣を極めた人を知っています。でもその人に先日あった時、死んでいないだけでした。過去のことを後悔し、苦しんでいた――究極の名誉をかなえた人がその程度の幸せも感じられないのです」


 ジャロロ=ジャロ。プララに「死なずに生きているだけの人」という評価をさせる伝説の魔王。彼女が幸せだとは決して言えない。伝説にまでなるのにもかかわらず、だ。


「じゃあ、なにが人族の幸せだと、ライトくんは言うんだい?」

「これは結論が出ています。もっとも、この世界ではなく――というか、俺の中ではですが」


 正確には、俺の結論じゃない。前世で学んだこと、散々教え子に話してきたことだ。


「健康、他者貢献、成長です」


 俺は黒板に健康、他者貢献、成長と書いた。


「ん?そんなものが幸せになるのか?人族はお母さんみたいなこと言うんだな」


 そう、たしかにその通りなのだが、親の教えは深いのだ。


「これらは幸せの内的要因といいます。外的要因が外に左右されるのに対して、内的要因は『自分の中で感じる幸せ』です」


 つまり幸せの相対的要件(金,名誉,美貌)絶対的要件(健康,他者貢献,成長)だ。


「健康は大切でしょ?健康でいられるだけで人は幸せを感じられるようになる。頭が痛くない喜びは、頭痛から解放されたときにに文字通り痛感するものです。けがから復帰したときにはもう2度とケガしないと思うほどに心が軽くなる。これは個人の中で完結するものです。おじいちゃん、おばあちゃんに聞いてみてください。みんな言いますよ。健康が一番って」

「ああ、よく先生たちが言ってるな――」

「さすが人族は面白いことを言いますね。分かりますよ、私も。こうして100年以上生きていると、健康とは幸せだと思います」


 と、めったに口を挟まないメイド長のヒナタさんが口をはさんだ。メイド長の後ろには数人の執事とメイドさんたちがニコニコしながら聞いている。


「本来は口を開いたりする立場にないのですが、少しだけ聞かせてください。私たちにとっても興味深い思想です。私たちは――強さがない分、人族に近いですから」

「どうぞ――」


 俺は当然許可した。


「ああ、じゃあ、ライト。他者貢献とはなんだ」


 と、テムジン。


「我々、執行部黒猫は学園を平和に穏やかに過ごさせていますよね。もちろん打算的なことがないわけじゃないけれど、それだけじゃない。裁定したり、和解させたり、上手に会を運営したりした時に感じる充足感。だれも褒めてくれないけれど、『お、よくやったな、俺』と思う瞬間。人のために働く、というのはそういう幸せをくれます」


 前世で心理学者が、学生に一人ひとり1万円を渡して、自分のためにモノを買うグループと、友人にプレゼントを買ってくるグループとにわけて、実験観察したらしい。

 すると自分のためにモノを買ったグループは楽しそうにしていたが、すぐにその楽しさは引いてしまった。しかし、他人のためにプレゼントを選び買ってきたグループは、そのプレゼントを渡してしばらくしても「とても楽しかった」という感想をもっていた、というものだ。


「で、成長。人と比べてどうというよりも、自分が自分の中で成長を感じていると人は幸せを感じます。この1か月苦しい修行でしたけれど、自分の成長を感じてますよね?そりゃ、俺にはかないませんけれど、無駄だったと思います?」

「いや、思わないね。負けた悔しさよりも、力が付いた喜びが圧倒的に勝る。これはテムジンさんもシュシュさんも同じ思いですよ」

「そういうもんです。自分の中の基準で自分が成長をしたと感じるときに人は幸せを感じるのです」


 付け加えれば、前述の心理学者が高校生に行ったアンケートでは、他者貢献(ボランティア)は成長につながるとの回答が8割を超えていたというのだから、他者貢献と成長とはリンクしているようだ。


「力は正義ではない。強ければ幸せになれるのであれば、人はもっと簡単だ」


 と言って、俺は微笑んだ。


「だから、俺は先輩たちと仲良くやっていきたい。これが俺の他者貢献だ、なんていいませんけど、友達とワイワイやるのもまた幸せでしょう?」

「理解した――人族の幸せとやらは俺にも当てはまっている」「僕にも」「もちろん、私も」

「よかった――」


 俺は少し冷えたお茶を飲んだ。横からあたたかなお茶がすっと差し出される。


 ヒナタさんだ。


「11の子に教えられるとは思いませんでしたが、さすがは英雄。その考えに我々一同、感服いたしました」


 彼女と他の執事やメイドたちは俺に微笑んで、頭を下げた。


「ありがとうございます。生意気を言いました」


 いえいえ、とヒナタさんはもう一度頭を下げて、いつものように無駄口を開かないメイド長の顔に戻った。


 後でシュシュトリから、ヒナタさんが挨拶以上のセリフを執行部の面目にしたのは、数十年ぶりのことであったと聞いた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

こんな説教臭いのは、これで最後にしますから許してください。


でも書いてて楽しかった!!


ちなみに言い訳臭いのですが、幸せの3要件は使い方によってはblack企業のスローガンになります。


私は幸せの3要件を人材を消費するために使うblack企業が許せません。本気で嫌です。言うまでもないことですが、幸せの3要件は他者から強制されたりして感じる種類のモノではなく、個人の中で幸せになるためのものです。まじblack企業撲滅してほしいです。ああああ!!!!


最後までお読みいただきありがとうございます。

ブクマ、もしくは下の「小説家になろう 勝手にランキング」というリンクをポチっとしていただけると、見てくれている人もいるんだな、と嬉しくなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ