師匠の怒りと世界を変える君と僕の愛の行方の24話
『ジャロロ、やっぱり生きてたんだね!今日は流石に興奮しちゃったよ!相変わらずあいつ根暗だったよね!昔はそうでもなかったんだけどさ、あれ以来ちょっと心病んじゃってさ。まぁしょうがないよね、自分の魔法で侵略者を止めたつもりが、敵とは言え数十万の人の命を奪ったんだからさ。でも――』
師匠は通信機の向こう側で少し考えてからつけたした。
『相手が悪いと思わない?あんまり悩まなければいいのにね!』
「そういえば、俺、規模が違いますけど、暗殺者の30人殺しました。でも全く何にもないんです。悩みも、後悔も、全くありません」
『それはキミが、ライトだからかな。多分キミは目的のためならば、そしてそれに意味があるならば、人が何人死んでも、何人殺しても、多分大丈夫』
さすがにそこまではない、と思いたい。
「そういえば、先輩たちどうです。相変わらず死んでますか」
『当たり前じゃない!私プラローロだよ? 私が本格的に鍛えてるんだよ?そりゃ1日に5、6回の死を覚悟してもらわなきゃ』
「それでも弱音吐いてないですか」
『あーそうだね、そういう意味ではあの子たちも覚悟が決まったと言うことかな』
さすがにツーザンの事件は堪えたようである。
「そういえば治安統括官のサララさんから、同じようなことを聞きました。一時の悔しさが数百年にわたる成長もたらすならば、それはとても意味のあることだと」
『それはそうかもしれないよ。ところで、ライトキミもそういう経験をしてきたのかな?』
「この人生ではあんまりないですよ。なんとなく、力任せ感がありますけれど。最近、自分の人間としての寿命とこの世界について考えているんですが――」
と、そこまで言うと師匠はケタケタと通話越しに笑い出した。
『人族としての寿命かい?キミはバカだなあ――』
「いや、これでも真剣なんですよ?たとえば、今日会ったサララさんとか135歳だかで、まだ20代のような若さじゃないですか。自分はよく生きて90ですよ。その時プララはまだ20のような美人って。ホラーでしょ?」
『あのさあ、キミの今回得た評価スキルの固定って何だい?まやかしでも心理操作でもなく、この世の理を超えるスキルじゃないか』
――何を言っているのかわからない。
「よく意味が分かりません。そりゃあ、師匠の訓練でも体の評価を固定し続けるという荒業を使えば、苦しくなくこなせていけましたけれど――」
『私の1日に5,6回を超える死をもたらす修業を苦しくなくこなすのを、「そりゃあ」程度っていうのかい?プララの致死毒が回るはずの体の変化を止めてしまうスキルが、「そりゃあ」かい?』
怒気が込められているような気がする。
『物理も何にも関係ない。ニュートンって言ったっけ?キミが教えてくれた物理学者は。残念だね、キミの前ではニュートンは天才たりえない。だって、リンゴも木から落ちずに永遠にそこにあるんだよ?』
師匠の言葉に俺の言葉は詰まる。
『そんなキミが寿命で死ぬ? はあ? バカ? なんだいそれは? どんなバカな冗談だよ。笑えないね。自分の狂った力を理解もしていないなら、今度私がどれだけ死なないか実験材料にして試してあげるよ。キミが体の評価を固定したら、私がどんな魔道具で痛めつけようが、プララが誇りジャロロが忌避する例のダークマニフェストをかけようが、キミの体は変わらないんだよ!!』
師匠はそこでちょっと声のトーンを落とした。
『ああ、私もバカだったね。理解してなかったね。キミが「あすとろん~」とかいって、アホみたいに鉄化しているときに気づくべきだったんだよ。人体を鉄に変えるスキルって!アホすぎて気づかなかったよ。死をも超越してるじゃないか――すべてを超越しすぎなんだよ!!』
「い、いや、それは――」
少し理解したが、理解しきれない。
『私はキミのそのスキルを見て、世の中が1から変わったことを理解したよ。この世界は、キミの思い1つで永遠だ。キミが望めば誰も死なない。逆もまたしかり。キミが望めばみんな死ぬ。キミが望めば永遠でキミが望めば破滅だ。キミは世界の主であり、キミは世界の破壊者だ。キミが――であり、キミが――』
「破壊もしませんし、永遠も望みませんよ。そこまで傲慢じゃない――」
『いや――すまないよ!ちょっとイラっとしてしまってるのさ!このプラローロ、この700年ほど間違いなく、この世界の柱石で、この世界を調停し、この世界の歴史を背負ってきたという自負があるのだけれど、今後はどうやら本格的に世代交代だよ。だって、その荷を降ろすとか降ろさないとかいう―――――存在に出会ってしまったのだからね!キミは――――――――』
師匠の言葉がそこで止まる。舌でも噛んだか、時々言葉が跳んでいる。
「大丈夫ですか?」
『げほっごほっ――すまない。どうやら先程から――だ。ちょっと整理しなければ話せないようだから、一回通信を切るよ』
「あ、はい。お大事に、してください」
『あっはっは、キミはもう少し頭を使え!じゃあな!」
さようなら、という前に回線が切れた。
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寝る間際にプララがやってきた。
「お母様がお風邪? 体調を悪くされた? うーん、今話してきたところですけど、そんな様子も無かったですよ。最後に『ライトに、無理だった。話せない、と伝えて』と言われたのできたんですけど」
「ああ、わかった」
俺に言えないことがある、というのはわかる。おいおい話を聞いていきたいものだ。
「なんにせよ、少し話をしたいのだけど」
「ええ、もちろん」
俺は少し姿勢を正した。
「まずは人族としての俺の寿命なんだけれど」
「そんな話は聞きたくありません!」
思ったよりも強い反応である。
「1つ、どうやら俺は死なないらしい」
「――え?」
「俺は評価:固定ができるようになっただろ?これは状態を固定するものなんだけれど――」
俺は右手に評価をかけて見せた。
そしてそのままペーパーナイフを机から取り出して刺して抜く。――傷なし。
「このように、実際に刺しても刺さるけれど、抜いた瞬間にすでに元の状態に固定されている――ということができる」
「ええ、それで私の状態を固定して、毒を無効化したのですよね?」
「そう。だから俺が思う状況で年齢を固定することができるし、状態も固定できる。つまり、もっとも健康で最も状態のいい時が永遠に続く、ということなんだよ――」
プララの両眼からぽろぽろと涙が流れ落ちる。
「――よかった。私は――よかった。ああ――!!なんということでしょう!!よかった!!!ほんとうにああああああ!!!」
プララは感極まったように叫んだ。
ええ?
「ここ最近、あなたの名声が高まれば高まるほど、誰もが口をそろえていうのです――あいつが人族でよかった、と」
「そんなこというの?」
「もしくは人族だから数十年我慢すればいい、なんて口を叩く輩もいます。みんなあなたのことを脅威に思い、みんなあなたの力を恐れ、みんなあなたに嫉妬して――ということは分かります。でもそれでも私はいつでもあなたの死について考えざるを得なかった。あなたに対して失礼なことをいう輩を縛り付けて、口が利けなくなるまでライトニングを打ち込みながらもあなたの死を身近に感じるしかなかった。分かっているけれど、それを突き付けられることの苦しみは本当につらかった。私はあなたの死の後の1000年をどうやって生きていけるのだろうと考えていた――」
不穏当な発言があったけれど、そこはとりあえずスルー。
「お昼にジャロロ様にあったあとに、ああ、この人も何かを失ってその後を『死ねず』に生きているのだと分かった。私はああなるのだ、と気が狂いそうだった。それならば、あなたがなくなった後に、この世界の片隅で顕現せし闇を撃ちまくって世界を滅ぼしちゃおうかしらとかまじめに考えるレベルだった」
「あの、プララさん、ちょっと闇が深くありません?」
俺は愛の深さに若干引いていた。
「でも、あなたが私が死ぬまで生き続けていることが分かった――これを喜ぶのは当たり前なんです――」
「うーん、ちょっと違うなあ」
「なにが違うんです?!」
なんか怖いから、食いつきそうな顔で迫らないで、ちゃんと説明してあげるから。
「あのね、俺はプララを死なさない。ごめんね、俺の永遠にプララにも付き合ってもらうよ?」
「え――?」
「なんで俺一人で生きなくっちゃいけないのさ。俺は俺の家族が『もうそろそろいいや』っていうまで死なさないし、プララに至っては「もう無理」とか言っても、俺が死ぬまで絶対に健康で生きてもらうんだから」
そう、俺はもう決めていた。
「あのさ、プララが俺の死を考えて世界を滅亡させる可能性があるように、俺はプララと共に生きるためにこの世界を何人たりとも絶対に滅ぼさせないつもり」
「――愛が重いんですけれど」
「俺の愛は重いよ。だってもうすでに、プララは死ねないから」
俺は、ペーパーナイフを差し出す。
「――ええ?」
プララは受け取って恐る恐る腕に突き刺した。
「――痛くもないってどういうことですか……?」
「最良の状態に保っているのに感覚に痛みを感じたら困るじゃない?」
「あの、成長ってするんですか?」
「もちろん。でも老化しない」
まあ、この体のピークが俺たちの永遠になることは間違いない。ただ、最良の状態、最良の年齢に保つのだから、筋肉の発達や体感覚の発達は当然ある。
「これはいよいよ、ヤバいですね――」
「プララだって十分ヤバいよ」
俺たち最高にヤバいよなー、と前世のどこかのヤンキーのように冗談で言ったら、本当にヤバいから笑えないですよーと返答があって、二人顔を見合わせて、また笑った。
ちょっと遅れた新入社員の29歳が新歓に30分以上遅刻して、乾杯ができなかったんですが、「まあ、新人が到着して一言謝ったら、みんな許してやってくれよ」と言って部下や同僚を宥めていたのですが、新人は何も言わずに入ってきて席に着きました。挙句の果てに新人挨拶で「僕は褒められて伸びるタイプなので褒めてください」とか言いやがりました。
こんな人もいるんですね。ストレスで毛が抜けました。
さて、ここまで読んでくれてありがとうございます。
この物語は当初学園と社会生活のスローライフを書きたいと思って書き始めたのですが、スローライフにならなくてビビっています。
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