英雄の凱旋と伝説の魔王の23話
プロの暗殺者集団50人を相手に一歩も引かず、無傷で30人以上を斬り殺した人族の男の子と、ジャロロ以降、魔法の大家である魔王すら使用できなかった大陸消失魔法を復活させたハイブリッドハーフの女の子――。
どちらもまだ学生成り立てであるという事実――。
魔国の未発達ではあるが、伝統に裏打ちされているメディアを連日騒がす事になった。
しかし批判はなく、ほとんどが好意的な文脈で語られていたらしい。しかも記事として上がってきた時のコメントがどれも爽やかで、かつ人情みに溢れたようだ。
魔国の人々は強いものが好きで、さらには筋の通った人情噺が好きらしい。
特に兎人の少年の話は、皆の涙を誘った。若干の誇張はあったが、俺が言った「妹に免じて許してやる」と行ったセリフは、流行語になりそうだった。
しかし、そんな事はプラローロの元、エルフ自治領で修行に励んでいる俺たちには耳に入らなかった。
だから、一週間後、学園都市サスティラに戻ってきて、驚いた。なんの騒ぎだと思ったら、俺たちを見るために人が集まっているという。
パレードをしているつもりはないのに、魔道車の周りを人が取り囲む。当然、速度を上げられないので、ゆっくり走ると、並走するように人々が歩き、左右の建物からは紙吹雪と、花吹雪が舞った。
どうやら宿場町ツーザンでも俺たちが通りかかるのでは無いかと、近隣の人が詰めかけていたらしい。良かった。なんとなく気まずいので裏街道を通り、町を避けて助かった。
寮のある魔校に戻るのも一苦労だったが、魔校に着けば、荷物を下ろす間もなく学園長室に呼び出された。
「――客が多く駆けつけている。今から一組ずつ通すから適当に応えてやってくれ」
副学園長がやつれた顔をして、俺たちを席につかせた。学園長室なのにリャララがいない。
「あの、リャララ様は?」
「よく考えろ。リャララ様にそんな些事をさせるわけにはいかんだろう――」
それはそうだ。何が悲しくて前魔王に客の相手とか、学園長としての決裁をさせなければならないのか――。現在のリャララの学園長は名誉職に等しい。
とすると、ほぼ全ての仕事は副学園長の仕事となる。
「俺が言うのも失礼かもしれないですが、大変そうですね」
「副学園長の仕事と学園長の仕事でいっぱいいっぱいなんだが、そこへきてこの英雄騒ぎだ。まだフォーカスがされていないが、やらかしたのも我が学園の関係者、裁いたのも我が学園の関係者。天秤はいつ向こう側に傾くかわからん――」
「分かりました。私たちは基本的に謙虚で冷静、明るく朗らかを心がけます。」
「ああ、そうしてほしい」
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一組目――魔国東部治安統括官サララ=シャラ。短い髪が軍人らしさを滲ませるが、肌が透き通るほどに白いきれいな女性だ。
俺たちは軽く自己紹介をして頭を下げる。
「治安統括官のサララだ。楽にしてほしい。私もここの卒業生だから、といっても卒業してもう120年にもなるがね」
「は、はあ、120年ですか」
「人族のキミには信じられないだろうが、魔国とはそういう国だ――ちなみに私はキミ達がプライドをへし折ったシャララの姪の孫だ」
「シャララの……姪の孫で135歳???」
「ああ、それでいい。これだけ離れているともはや他人だが、あの子は直系だからな。面識はあるさ。キミが同期に居て魔帝になれないであろうことを恥じていたが、良い経験をさせてくれたと私は思う。あの子はこの挫折を糧に数百年の時の中で強くなる。そのための躓きなら、魔帝など実に取るに足らないことだ」
はっはっは、と鷹揚に笑ってお茶に手を伸ばす。
「いや、しかもだ。敗れた相手が、プロの暗殺者集団を相手取って無傷で30人斬り殺したり、ジャロロ様の魔法を受け継いでいる子ならば、もはやその敗北は勲章だろう。キミが死んだ後、数百年はシャララの手によって語り継がれる話だ」
「――?」
プララが不穏な空気を醸し出す。怒っていらっしゃる。
「ああ、すまない、キミの恋人の死んだ後の話なんぞ聞きたくはないよな」
「まあ、人族である自分の寿命は分かっていますから。悪意がないのも分かりますし。プララ、落ち着いてね」
「――はい」
不承不承、という感じか。
「さて、本題だ。治安統括官としてキミ達の功績、ツーザンの町民を助け出したことに対する報奨を。ワギュウと協議の結果、キミらの冒険者ランクをBにまで引き上げておく、というところで」
「へ――?」
「ああ、金一封と行きたいところだが、それよりももっと実務面のほうがいいだろうと思ってね」
「俺ら、まだDランクなんですが――」
「ランク何ぞ目安にすぎんさ。現実にキミらはCランクの暗殺者を無傷で跳ねのけた。――プララちゃんの魔法は完成したらSランクを出してもおかしくないもの。まあ、年齢とキミらのバランス、それらを加味したらBランクが適当だろうよ」
2階級特進という奴だ。
「暗殺者のランクも魔法使いのランクも冒険者も、実のところ変わらないということを覚えておくといい。向き不向きもあるが、高位のランクを倒せるならば、そのランクの実力はあるってことなのさ」
「ありがとうございます」「嬉しいです」
俺たちは望外のことに喜んだ。これで単価の高い仕事を受けられる。さらにはBランカーなど、街にもあまりいない。
なによりも見栄えがいい!!
俺は人族として舐められないように――そして、プララは「エルフの長と魔王の子」としてのプレッシャーゆえに、こういう称号はとても有意義である。
「冒険者証はワギュウのところでもらってくれ。あいつ、嬉しそうにしてたからな。俺の目を信じろってな。あの二人を見出したのは俺だ!といろんなところで話していたよ」
「そうなんですか。まあ、実際そうですし」
「無理にEランクスタートさせたと、口さがない奴もいた。もちろん、今のお祭り騒ぎで手のひらクルーだが」
そんな苦労があったんだな。ワギュウには感謝しなければならないな。
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2組目はスト家の家長ブロウリストとブルームの頭領ゼイド=ブルーム。
土下座&土下座。
「スト家家長ブロウリです」
「ブルーム頭領ゼイドです」
スト家の最高責任者――だろう。
「この度は愚息がご迷惑をおかけしました。」
2人はそう言って頭を下げた。
「私が殺しました」
前置きもなく、プララが言った。
「ありがとうございます」
ブロウリストは土下座したまま、お礼の言葉を述べた。
「どういうことです?」
プララが表情を変えずに淡々と聞いた。
「息子を可愛くないと言ったら語弊がある。可愛い――可愛かった。だが、わしに無断でブルームをそそのかして町と王族であるプララ妃を襲ったなど、言語道断であります。さらには卑怯な手段でプララ妃の玉体に傷をつけた。我が家は反逆罪で一族郎党抹殺されておかしくない」
ふむ。見方の問題だ。プララを王族として扱った人など見たことがない。しかし、そう言う見方ができてしまうことに意味がある。
「プララ妃が顕現せし闇を使い愚息を抹殺していただいたことで、我が家に恩赦が下された――感謝いたします」
「なるほど。そういう考え方ができるのですね」
プララは淡々と答えた。『伝説の魔法が復活するためにクローリストの存在は意味があった』と見做されたのだ。
「はい――それで、愚息の末期の言葉をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ああ、俺に彼はこういった。『お前の恋人をあの世でひぃひぃ言わせてやる』と」
さすがにブロウリ氏、絶句。
「――愚かなことだ」
代わりに頭を上げて口を開いたのはブルームの頭領ゼイド。
「我が愚息ザイドは――」
「数人で突っ込んできたので、抜き打ちで首を跳ねた。言葉などは残っていない」
「なるほど、それほどの力の差も見抜けないか。情けない。いや、ありがとうございました」
肩を落とし、土下座している床を涙で濡らした。
「ことここに至っては許す、許さないではないのだけれど、俺としてはもう遺恨なしにしていただきたい」
静かに言葉に評価:覚悟を載せて話す。
「かたき討ちももう辞めて頂きたいですし、恨みつらみなどに時間をかけているわけにはいかない」
「もちろんです」「もとより謝罪に伺った身」
「ならば、この辺で、お帰りください」
俺は冷たくいった。
「息子さんたちは俺たちを襲った。俺たちは返り討ちにした。これで等価です」
謝罪を押し付けて、殺したことに対する罪悪感でも感じさせられるのは迷惑なんだ、とは言わないが、いい加減こんな話はしたくはなかった。
彼らは項垂れたまま、退席した。
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3組目は官報の編集者、4組目は新聞記者。
愛想よく朗らかに謙虚に語っておいた。
5組目は、魔族だが、どことなくプララに似ている雰囲気を持っている女の子だ。
「なんでしょうか?」
俺は評価したが、どういうわけか相手の内容がまったく見えない。ただ者ではないので、プララに警戒の合図を送る。
「お主はこの際いいのだ――プララ、じゃったな?」
「ええ、あなたはどちら様です――か?」
プララは警戒しながらも「大丈夫」と合図を返してきた。
「わしはダークマニフェストを二度と使ってほしくないのだ。それを伝えに来た」
ん?
「私はどちら様ですか、とお聞きしたのですが、それすら答えられないのですか?」
「理解しているように見えたが――おい、神託の御子よ、お前のそれで覗け。言っても理解できまい」
俺たちは体を強張らせた。だが、すかさず評価――。言葉にならないが、ひどく納得した。
「プララ、この方は――」
俺は逡巡した。言葉に出すとひどく滑稽な響きだ。
「この方はジャロロ=ジャロ様だ」
意を決して話す。
「は?ジャロロ=ジャロ様はもうとっくに昔に亡くなられたはずです。今生きていても600歳を超えているはずですよ?そこまで魔族は長生きではありません」
「ああ、正確には623歳だ」
俺は見た年齢を告げた。
「長生きなのだよ、私は」
「プララ、ジャロロ様は魔族とエルフのハイブリッドハーフだ――つまり、お前と同じ」
「え?」
「まあ、いい。わしの生まれも、なぜ魔王となったかもいい。いずれ時が来たら話してやるが、ダークマニフェストだけは二度と使うなよ。わしはあの魔法を生み出したこと、使用したこと、命を大量に奪ったことを心から恥じている。使ってほしくはない。よいな?」
「は、はい。ジャロロ様の仰せのままに」
プララの返事を聞いて、どうみても少女の――ジャロロはソファーから立ち上がった。
「わしのことは内密にしておけ。気づいているだろうが、一応、プラローロにも黙って置いてくれ。あいつはめんどくさいからな」
「内密にすることは問題ないのですが、師匠には今の会話が筒抜けです」
俺はめんどくさいので、正直に話した。
ジャロロはぎょっとした顔をしていたが、さすがにすぐに気持ちを立て直して、一つ溜息を吐いた。
「――見つかってしまったか。まあいい。とにかく、これだけ徹底して隠棲してきたわしが、どうしても出ざる負えないような魔法を二度と使ってくれるな。次はさすがに正気を保てない」
膨らむジャロロの殺気。
「分かり、ました。仰せ、のままに――」
俺は久しぶりに他人の殺気を恐ろしく感じた。なるほど、確かに大魔王だ。
「では、よろしく、頼む」
――ジャロロはそう言うが早いか突然存在が希薄になり、その場から霧散する。
「――ライト、なんだったのでしょうか」
「ああ、あれが、ジャロロ様か。『ジャロロ=ジャロの再来』の渾名はけしてテキトーにつけられたのでなかったんだな」
「そうですね、あれだけはお母様がつけたのですが、そんな意味があるなんて全く思いませんでした」
「しかし、伝説。歴史に触れたな」
「なんだか、私たちの周りは伝説と歴史ばかりですね」
「違いない」
2人で笑って、また笑う。
「そういえば俺たちも禁忌の鬼子と神託の御子だったな」
「ええ、そうですね」
――じゃあ、俺たちも伝説と歴史に名を残そうか。
長生きの種族について思いを馳せるという、よくわからないことに思考を使っています。が、考えれば考えるほどその社会構成は大変なのではないか、という気がしてきます。
長命種族には長命種族なりの悩みがあるなんてね。人間でよかった。
お読みいただいてありがとうございます。
さあ、新年度。
実は子供が中学生になります。娘もプララ嬢くらいしっかりしているといいのですが、親に似てちゃらんぽらんです。
みなさん、とりあえず新年度もだらだらと頑張りましょう。




