序章
序章
黄金色をした球体だった。大きさはテニスボールほど。
地球儀をかたどっているのだろうか、表面には各大陸の輪郭と経緯線が彫り込んである。
それに加えて太平洋に相当する部分には、人間の眼のかたちが彫られている。
地球儀に描かれた眼。
美術品として作られたとすれば、さほど優れた作品とはいえない。
奇妙なデザインではあるが強く印象に残るものではない。
素材が純金であるとすれば、その重量分の経済価値しかないであろう。
そして──それが、たとえば駐輪場に停めた自転車のカゴの中に入っていたとすれば。
本物の金で作られたものとは誰も考えまい。
ただのガラクタとしか思わないであろう。
外見的には。
手を触れてみるまでは──
自分の自転車のカゴの中に、いつの間にかそのようなものが入っていれば、誰でも手を触れてしまうだろう。
その場に捨てていくか。
落とし物として駐輪場の管理人に預けるか。
あるいは他人の自転車のカゴに黙って移し替えるかは、人それぞれとしても。
だが。
手を触れた瞬間、彼あるいは彼女は、知ってしまうのだ。
それの、真の価値を。
それが持つ、力を──