第十三話
快眠という経験ができると本当に幸せになれる。
僕は、朝に弱いだけに、その有難さが普通の人の倍以上わかる。
朝起きた時には、肩の痛みもなくなっていた。
少女は、まだ眠っていた。
この少女は、結構眠りが深く、一回寝るとなかなか起きないようだ。
起こそうか、起こさないかは迷ったが、朝は早いほうがいいだろうということで、起こすことにして、僕は少女の肩を、そっとつついた。
「さゆちゃん、起きて」
暫くすると、少女の体は、少し動き始めた。
「う、うぅん……」
まだ、目が細く、眠そうである。
「おはよう」
「お、おはよう……」
少女は立ち上げって、周りをとぼとぼ歩いて、あくびをしながら、体を伸ばす運動を始めた。
「朝ご飯つくろうか」
少女は倉庫に大量にある調理器具から、朝飯をつくるのに必要なのであろうものを取り出し、並べて、冷蔵庫から、卵とハムとチーズを取り出した。
「今日はサンドイッチにするね」
そういって、少女は調理を始めた。
さっきまで眠そうだったのに、何故、そんなにも急に動き出せるのだろうと疑問に思った。
フライパンで卵やハムを焼いたりして、食パンの上にチーズをのせて挟み込む。
「はい、できた」
数分で、美味しそうなサンドイッチはできあがっていた。
「いただきます」
サンドイッチを持って、口の中に頬張る。
やっぱり、美味しい。
少女の料理の腕はなぜ、こんなにも素晴らしいのだろう。
「美味しかった、御馳走さま」
サンドイッチをペロリと完食して、僕は立ち上がった。
「それじゃあ、一旦服をとりに家に帰ろうか」
「うん」
僕たちは、倉庫をでて、朝の海を見た。
僕の今の服装は、変な英語の書かれた長袖シャツにジーパン、そして鞄を持っているのだが、その鞄の中には、デザートイーグルが入っている。
少女も、タンクトップにホットパンツという服装で、凄い素肌を露出している。
そして、少女の鞄の中にも、拳銃が入っている。
家に帰るにしても、一時間ぐらいはかかる。
その道で、ヤクザに会う可能性も、ゼロではない。
しかし、最初の数分を切り抜ければ、警察もしっかりと仕事をしているし、ヤクザが暴れることはないものだと言える。
僕は少女と手をつないで歩いた。
人と手をつなぐという経験は、僕はあまり経験したことがない。
見栄を張って、あまりと言ってみたが、ハッキリ言って、少女以外と手をつないだことがないかもしれないのだが、しかし、少女と手をつなげるだけでも充分すぎるので、特に悲しくはないのだ。
僕は友達がいなくても、少女がいればそれでいい。
でも、少女は友達ではないのだろうか。
恋人とも言えない気がするし。
まあ、でもどんな関係であっても、僕は少女を守るのだ。
銃で撃たれた人の血を、僕は忘れることはないだろう。
その血が、少女の血であった場合は、僕は生きる希望をなくすことになる。
「お兄ちゃん、顔が暗いよ」
「そ、そうか?」
僕はそんなことないと言わんばかりに笑顔をつくってみせた。
今日の予定は、一回家に戻って着替えを取り、そして、まだ行ってない人の少なそうな場所で、『星井』という苗字の人を探しに行くという感じにする。
ホシイヤマオ、星井山夫。
その男が組長だという話である。
しかしながら、その男は、実際のところ、年齢も性別も明かしていないのだ。
でも、その男が少女の命を狙っているという事実を僕は許すことができない。
そいつを自由に殴っていいなら、百発でも、千発でも殴ってやる。
もしかしたら、そいつと銃撃戦になるかもしれない。
銃撃戦というものに、勝つ自信なんてあるわけがなかった。
でも、このデザートイーグルは、少女曰く最強の銃である。
僕は、それにその銃で相手の額を一発で正確に撃ち抜いたのである。
あの時、僕は顔を狙っていたし、そこに、ほぼ正確に放たれた。
銃の威力を考えれば、わざわざ顔を狙う必要もなかったかもしれない。
顔を狙ったばかりに、グロテスクなものをみるはめになった。
でも、関係のない女の子を殺した屑野郎には、それぐらいしてやるべきだ。
殺してもいい奴はいると僕は思う。
でも、少女は殺されてはいけない存在なのだ。
その理由は、僕の心の支えであるからとかいう、エゴの要素も強いかもしれないが、人の命を大切にするのに、エゴという言葉はおかしい。
僕は、少女が好きだ。
それは、好意かどうかは微妙であった。
好意よりは、愛なのかもしれない。
愛というよりかは、恋かもしれない。
僕は、五歳下の少女に恋をしているのだ。




