再創設、三十年。
1984年から約30年。
境界局は小さな組織から世界規模の機関へと成長を遂げた。
表向きは世界有数の不動産会社「Kスマイル不動産」。その本社地下と高層階には、人知れず境界を守る者たちが集う。
新人研修に参加したコードネーム・ナンシーは、巨大な本部で境界局の理念と世界の真実を知ることになる。
怪異を「駆除」ではなく「収容」する理由。
生命によって支えられる境界の存在。
そして、世界を守るために課せられる役目。
ナンシーは境界局の一員としての第一歩を踏み出す。
2013年。東京某所。
高層ビルが立ち並ぶ中、一際大きいビルがあった。
不動産会社として大成功し、日本有数の大手にまで上り詰めた会社。Kスマイル不動産。
高さ230m。地下12階、50階の62階建て。
店内では法人から一般客までが土地や家の相談をしに来る。
若い女性は思わずビルを見上げた。
若い女性「見上げても上が見えない…」
朝9時前。新入社員らしき格好をした若者が次々と受付に向かう。カードキーを貰い、従業員用エレベーターへ向かう。
若い女性「今日から研修だ……。コードネームは、ナンシー。緊張する…」
区画専用エレベーター。A.B:1〜8階。C.D:9〜20階。E.F:21〜30階。G.H:31〜40階。I:41〜50階までの各エレベーターがアルファベットで並んでいる。隣には階数が書いていないJのアルファベット。
若い人間たちは迷わずG、Hの前へ。
エレベーター前のパネルにカードをかざしエレベーターに乗っていく。
36階。ブリーフィング室。
次々と新人が着席していく。午前9時丁度。1人のベテランらしい女性が入ってきた。
女性「おはようございます。研修担当を努めます。PNSR境界管理局、人事部研修担当のアージと申します。今から皆さんには、この建物と境界の説明を行った後、配属先を決めるための適性テストに向かっていただきます。」
アージ「では早速、説明に移りますね。」
アージ「まず、この建物自体表向きにはKスマイル不動産のアジア本部となっております。皆さんのお住いもKスマイル不動産にて契約されている方も多いかと思います。ご存知の通り、1976年に全国展開を始め、今では世界規模の会社となりました。」
再創設以来。Kスマイル不動産は急成長を果たし、世界有数の不動産会社になっていた。
アージ「では次に建物の説明に移ります。細かい階層は省略致しますので書類をご確認しながらお聞きください。全て今覚える必要はありませんのでご安心ください。大きい区画だけ把握をお願いします。この建物は地上50階、地下12階で構成されています。」
計62階……。通りで…。
アージ「まず、1~8階。ここは表向き通り、Kスマイル不動産の階層となっております。賃貸や土地の売買、基本的な不動産要素は全て揃っています。」
私の実家も確かここだもんな…
アージ「次に、9~20階。ここは境界局、管理部門になります。人事や記録など主に情報を扱う部署が揃っております。」
アージ「次に、21〜30階。ここは研究、医療部門になります。怪異や封印具の研究、開発。治療施設やカウンセリングルームなど治療メインの設備が整っております。」
アージ「次に、31~40階。ここは実働部隊の活動区域になります。訓練施設や武器庫、現在皆さんが居るブリーフィングルームなどが配置されています。」
アージ「次に、41~50階。ここは、幹部、特殊部署や理事長室などになります。対話交渉課以外、新人の皆さんは、あまり関わることは無いかもしれません。主に他国の拠点との通信や連携や局の上部区域になるので、存在だけ把握をお願いします。」
各国の本店は支部にもなってるんだ。なるほど。
アージ「最後に地下区画。こちらは収容施設や重要設備があります。地下3階までは駐車場や封印具格納庫になっております。ですが、4階以降は機密事項の多い部署ばかりですので許可なく立ち入らないようお願いします。権利の問題ではなく……命に関わりますので。」
優しい声だった。だが確実に言葉を選んでくる。
ーー命に関わりますので。
重い一言だった。
ナンシー「命…」
アージ「ここまでで質問はありますか?」
1人が手を上げる。
研修生「怪異の収容は全て地下で行っているんですか?」
アージ「そうですね。収容と言っても危険度によっては保護が近いかもしれません。危険度が少なく、交渉が出来る怪異はそれぞれに合った環境を用意し、そこで過ごして貰っています。危険度が高くなると市民への危険がありますので収容という形になります。ただし、祓ったり駆除など、いわゆる生物で言う"殺し"は決して行いません。あくまで収容です。」
怪異は殺さないんだ…。もっと殺伐としてるのかと思ってた。
研修生「危険であるなら何故駆除しないのですか?」
アージ「それも今から説明する境界に繋がってきます。説明しますね。」
アージ「まず、境界とは私たちがいる現世、怪異や神域、他の世界をそれぞれ区切っている壁だと思ってください。ただし、その壁は全ての生命力によって保たれ、各世界ごとの干渉を制限しています。稀に怪異が紛れ込むこともありますが数えられるほどです。ただし、境界は無敵のバリアという訳ではありません。怪異が死んだまま放置されると暴走、怨霊化、呪物化します。すると境界に影響し腐食や亀裂が入り、その一部の境界本来の機能が停止します。怪異の放置された死体が境界にこびりつき、悪化したものを穢れと呼びます。稀に、怪異によって境界が傷つけられる場合もあるので把握をお願いします。その場合は直ぐに境界対応指令課へ報告し、指示に従ってください。」
アージ「境界の説明は以上になります。質問はありますか?」
研修生「危険な怪異も生かしておくということですか?」
アージ「正確には違います。生かしているのではなく、被害を出さない状態で存在を維持しています。以前までは怪異は災害であり、排除対象でしたが、現在は怪異は異なる存在であり、理解できるなら共存する方針になりました。局内で意見は別れていますが方針は方針です。」
研修生「境界は見えるのですか?」
アージ「境界を見ることができるのは、境界観測課に配属された者のみになります。彼らは優れた感知能力を持ち、境界の特質を読み取ることができます。」
研修生「傷ついた境界はどうなるのでしょうか。修復はされるのですか?」
アージ「はい。修復されます。ただしこれは機密事項となっているので情報は開示できません。他は…大丈夫そうですね。37階にて模擬テストを行います。各自、自分のデバイスを持ってついてきてください。」
ナンシー「いよいよテストだ。」
ナンシーは不安ながらも覚悟を決めた表情をしていた。
新人たちはそれぞれ個別ブースへ案内された。
試験内容は大きく三つ。
境界認識。
判断能力。
対応能力。
怪異を前にした時、何を選択するのか。それを見るための試験だった。
数時間後。
デバイスが静かに震えた。
『配属先が決定しました。』
ナンシーは息を飲み、画面を開いた。




