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スパルティア〜未来から来た鬼教官に世界の命運を背負わされました〜  作者: けやきっこ


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反撃

(夜の10時)

聡太は自宅2階の自室で読書をしていた。

気になって、手元の時計をちらりと見る。


「遅いな…」


いつもなら、だいたい夕食後の20時にはきっかり帰って来る。


「………」


聡太は少し考えてから、よしと腰を上げる。


(台所)

キラリと光る包丁を、まるで小太刀のように大げさに掲げる聡太。

刃をみれば、たしかに研ぎ澄まされている。日頃から手入れをしている証拠だ。


「・・・いざ」


そう言って調理に取りかかろうとする。

すると――


「おにいちゃん?」


夜食の気配を嗅ぎつけた、小さいならずものが寝室からやってきた。

妹のひよりだった。


眠そうな目をこすってはいるが、すでに僅かな期待の色を帯びている。

聡太はしまった、と思った。


「まだ起きてたのか」

「なにかつくるの??」

「…いや、別に、包丁を研ぐだけだよ」

「ウソ!騙されないんだから。……これはなぁに?」


聡太がとっさに後手に隠したブツを、ひよりはズイと差し押さえる。

ならずものの顔は、すっかり捜査官のそれに変わっている。


摘出されたのは白い粉————を練って伸ばし、極限まで細くした乾麺、いわゆる素麺そーめんの袋だった。


「また()()、つくるんでしょ」


ひよりはまだ小学校3年生だが、こと食に関しては大人顔負けの嗅覚と底意地を持ち合わせているのだった。

言い逃れはできないと悟った聡太は、はあ、とため息をつく。



(食卓)

「いっただっきま~す」


両手を合わせ、兄妹は背徳いただきますの儀式をする。


テーブル上には小ぶりのどんぶりが2つ。

中身は聡太お手製の、即席にゅうめんだった。

自分ひとりなら小ねぎやゆで卵くらいで十分なところ、ひとに振る舞うとなれば手の抜けない聡太は、ありあわせの野菜でトッピングまでこしらえていた。

夜食にしてはちょっとしっかりしているが、味付けは薄めで、消化の負担を考えてきもち柔らかく似ている。


ちゅるるんと無邪気に麺をすする妹を見やり、聡太はなんだかなといった顔をしている。

まだ10歳にもならない子供の夜更かし&夜食を助長することに、罪悪感を覚えないではなかった。

しかし、この小妹くいしんぼうにあってはどう足掻いてもこれが最善手なのだと、聡太は経験上分かっているのである。


「う~~~ん……やっぱりおにいちゃんのにゅうめんはイッピンだね。これが給食の献立にないなんて、クラスのみんなに申し訳が立たないよ」

「どの立場で言ってるんだおまえは…よく噛んで食べろよ」

「は~~い!!」


それに結局、この笑顔で罪悪感も薄れてしまうのだった。


「おとうさん、早く帰ってくるといいね」

「ああ」



聡太は食器を洗い、自室へ戻ろうとする。

すると、食いしん坊で甘えん坊のひよりは、まだせがんでくるのだった。


「一緒に寝よーよー」

「こないだで最後って言ったろ?ひよりも10歳になるんだから、オトナにならないと」

「え~~、オトナはハタチからってリナちゃん言ってたよお?」

「よそはよそ、うちはうち。歯磨くんだぞー」

「もぅ…」


聡太が自室へ戻ると、スパルティアが帰宅していた。

三日月を背にして窓の桟でもたれる姿は、少し絵になっている。


「帰ってきてたのか」

「ああ。今しがた、帰還したところだ」

「今日は遅かったんだな」

「…ああ」

「忙しいのか?」

「………」

「遅くなる時は言えよ、鍵閉めていいか迷うだろ」

「……心配はいらない。解錠は自分でできる」

「そういう問題じゃないっての。てか勝手に開けるな。遅くなる時と帰らない時は連絡する、同居人として当然のマナーは守ってもらうぞ」

「……心得た」


まるで母ちゃんのような小言を言っている聡汰だった。


「外泊も考えたが…良質な寝床が見つからなくてな」

「よかったよ、ウチを高く買ってくれてるみたいで」


快適はときとして隣人の不快ぎせいのもとに成り立つのだと知ってほしかった聡汰は、つい皮肉を言う。


「ああ。聡汰、オマエは運動が下の下なら、寝相は極上の上だ。」

「………」


皮肉の通じないスパルティアに、聡汰は肩を落とす。


「実際、かなり助かっている。おかげで毎日フルスロットルで稼働できているからな」

「ああそう…ならよかったよ」


「ところで聡汰、何か食べていたのか?香ばしいにおいがするが」


すぅ〜っと小さい鼻から息を吸い込むスパルティア。


「まだご飯食べてないのか?」

「何のにおいだ」

「にゅうめんだよ、夜食で食べたんだ」

「ニュー・麺…?はじめて聞く名だ」

「…そういえばお前、ご飯はどうしてるんだ」

「………」


〈キュルキュルキュルキュル〉


スパルティアの腹のあたりから、何やら気の抜けた音がする。


「……スープ、まだあるけど」

「………」



「ほら」


コトッと湯気を立てる丼を置く聡汰。

さすがにダイニングテーブルでやるわけにもいかず、自室の学習机での提供となった。

料理中、再びならず者がやってこないか心配だったが、さすがに満腹で熟睡しているようだった。


「これが…ニュー・麺……?(ゴクリ)」


スパルティアはじぃっと内容物を観察している。中身は先ほどと同じだ。


「ソーメンを()()にしただけに見えるが……何が”ニュー”だというのだ」


なとど言いつつも、明らかにそそられているスパルティアだった。

いただきますと言いかけたところで、聡汰は丼に手を被せる。


「!なんだ?」

「食事の提供は…契約の範囲外だよな」

「!?」


突如はじまる、"交渉"————


「……何が望みだ」

「ボクの質問にひとつ、答えてもらう」

「…なんだ?」

「質問は食べてからだ。」

「…話にならんな。検討のしようがない」

「あ、そう。じゃ、おそまつさま。ボクが食べよう」


そう言って聡太は、丼を下げようとする。


「まて!!」

「なに?麺が伸びちゃうんだけど」

「…………」



〈ゴキュン〉

スープまで飲み干したスパルティア。

ふぅ、と一息ついている。


「……はじめての体験あじだ」


何かを誤魔化そうとしているのか、不自然に饒舌になるスパルティアだった。


「"ニュー"というのは…なるほど、素材や味単体ではない、組み合わせの妙か…それにしても無化調とは。出汁は何を?」

「約束」

「!」

「聞くのはこっち」

「……」


今夜は、聡太が詰める番だった。


「おまえ、何者なんだ?」


ついに、核心に迫る。


「……我が名はスパルティア。弱きを正し……」

「それはもう聞いた!」

「……それがすべてだ」

「……!? ずるいぞ!!」


聡汰は声を荒げる。


「お前はどこから来て、普段、何をしてるんだ!」

「質問は一つのはずだ」

「コイツ……っ!」


聡汰のボルテージが最高潮に達したところで——————



〈ガチャ〉

「おにいちゃん……?」




ひよりが、部屋の戸を開けた。

2人は固まる。


「誰と…話してるの?」

「あ、いや……」

「それ…」


スパルティアの存在に気付くひより。

冷や汗をかく2人————


「なに、それ……」


ゆっくり、ゆっくりと、ひよりは2人に迫ってくる。その目は、夜食を嗅ぎつけた時とはまた違う、妖しい光を帯びている。


「ひ、ひより、これは……」



〈ガバッ〉


「かっわいい〜〜〜〜〜〜〜〜」

「!?」



ひよりは目を輝かせてスパルティアを抱えあげる。


「おにいちゃん、どうしたのこれ!?」

「あ、いや、えっと…」


チラリとスパルティアを見る聡太。

「………」


スパルティアは化石のように動きを止めていたが、額には汗がにじんでいる。


「ちょうだい、お兄ちゃん!!」

「!」


厄介なことになったと一瞬頭を抱える聡汰。

しかしすぐに、事態の吉兆を読んだ。


「ああ、そうだな…」

「!?」


スパルティアは耳を疑う。


「ひよりは無類の()()()()()()()だもんな…ただどうしようか…寝相が壊滅的に悪いから、また引きちぎったり、ぺしゃんこにしないか心配だな…」

「大丈夫よ!ぺしゃんこは()()()()んだから!ちぎれちゃっても…お兄ちゃんなら直せるでしょぉ?」


先ほどから冷や汗の止まらない者が一名いる。


「うーん、そうだな…」

そう言って聡汰は、妹に抱きかかえられた彼を一瞥する。


()()()()()()()()()()()()、考えるんだけど…」

「……ッ」


かくしてスパルティアは、耳をピコピコと動かして、降参の意思を示したのだった。


聡汰はニッと笑って、


「悪いなひより、やっぱりこれ、お兄ちゃんの宝物なんだ。」

「え〜〜〜〜〜」




「さてと…」


ひよりの鎮静化ねかしつけを済ませた聡汰が部屋へ戻って来る。

スパルティアは入口に背を向けて、じっとしている。


「今度こそ話してもらうぞ。スパルティア」

お読みいただき、ありがとうございます。

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