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スパルティア〜未来から来た鬼教官に世界の命運を背負わされました〜  作者: けやきっこ


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3/9

望み

(体育館)

バレーボールの授業中。

今日も一人の少年が奮闘していた。


「ふッ…!」


ポスッ————


聡汰のごく平凡なレシーブが、奇跡のように決まる。


「おぉ…!」


オーディエンスが湧く。


(いける…いけるぞ…!)


勢いづく聡汰。

次いでトスがあげられる。


「任せろ…」


すかさず聡汰は助走をつけて飛び上がる。


「ばっ…おまッ…調子に…」


チームメートの静止も何のその。

目に映るのは希望のみ————次なる一手スパイクは未来への福音————


「アルティメットアタ〜〜〜ッ……」



スカッ————……



聡汰「ク?」



————とはならなかった。


珍プレーと好プレーは紙一重。

聡汰の芸術的ともいえる所作からぶりが、体育館の時を止める。


「あてッ」


止まった時は、犯人(聡汰)の脳天に落下したボールの弾みとともに動き出した。

まるで神様が「はい、再開」とストップウォッチを押したかのように————


……——————ポトン


神様がついでにとでも思ったのか、ボールは奇跡的に、相手コートの空白すきまに落下する。


「おお〜〜〜!!!」


神の奇跡に、民衆オーディエンスは再び湧いた。


「聡汰…おまえ、今の…?」


膝をついている聡汰に、チームメートの一人が声をかける。


「……フフ」

不敵な笑みを浮かべる聡汰。


「……狙い通り(フェイント)さ」

「嘘つけえ!!」



(廊下)

キーンコーンカーンコーン。

昼休みの鐘が鳴る。


「くっそ〜〜、また大恥かいちゃったよ」


ポケットに手を突っ込みながら移動中の聡汰。向かう先はいつもの屋上だ。


「レシーブはだいぶうまくなったんだけどな…ほんと難儀な娯楽だよ、スポーツってのは」


ふう、とため息を吐く。


屋上の扉を開き、周りを見渡す。


「……今日もいない、か」


ま、いいけど、と定位置に腰を下ろし、本を開く聡汰。


「……アイツ、普段何してんだろ」


最近越してきた奇妙な同居人に思いを馳せる。


「朝起きたらいつの間にかいなくなってるんだよな…帰りもやたら遅いし」


本を開いてはいるが、頭は別のことで占められている。


「まさかアイツ…実は宇宙人で、日がな一日地球侵略の準備を進めてるとか…?」


わざとらしく深刻そうな顔をする聡汰。


「って、んなわけあるか!あんなチンチクリンな宇宙人がいてたまるかっての!」


ハハハハと高笑いしながらセルフツッコミをしている聡汰。

そこへ————



「誰がチンチクリンだと?」

「ひぇぁああああ」


ヌッと背後のネット越しにスパルティアが現れた。

相変わらずシュパッと華麗な身のこなしでネットを飛び越え、聡汰の目の前に着地する。


「お、お前、いたのかよ…!?」

「指示した自主練メニューはこなしているようだな」

「!」

「レシーブ、なかなか上達したじゃないか」

「……別に、やらないと誰かさんがうるさいからさ」


聡汰は照れくさそうに言う。

実はあの日以来、聡太は隙間時間を見つけてはスパルティアが組んだ自主トレメニューを真面目にこなしていた。

自主トレの実施状況については毎晩、教官スパルティアに報告することが義務付けられていた。


「ときに、スパイクは曲芸ものだったな」


ずこっ、となる聡太。


「し、仕方ないだろ、練習してないんだから」

「そのとおりだ」


聡太の何気なしの発言に共感を示すスパルティア。


「血の滲む努力をすれば不可能はない…そうだろう、聡汰?(ゴゴゴゴゴゴゴ)」

「……いや、そこまでは…」


シュルっ


失言だったと後悔する間もなく、聡汰はお縄にかけられる。

久々の”個別指導レッスン”が始まる。



(校庭)


「いやああああああああ」


本日のメニューは強制ランニング。レオニダスに牽引される形で聡汰は校庭を走らされる。


「なんでランニングなんだよ、バレー関係ないだろおお!!」

「馬鹿者!!!」


レオニダスをハンドリングしながら背中越しに応答するスパルティア。


「足腰はあらゆるスポーツの基本だ!無駄口を叩く暇があったら足を動かせ!昼休みが終わるまでレオニダスは止まらんぞ」

「そ、それにしたって…ハア…マズイだろ…ハア…」


息を切らしつつ、ある気がかりを口にする聡汰。


「めちゃくちゃ目立ってるじゃないか!!」


聡汰は校庭にいる生徒たちから盛大に注目を浴びていた。


「安心しろ」

「!」

「レオニダスの特性でな…我々は視認えていない。目立っているのは単に…お前が喚きながら走っているからだ」

「!?」


とっさに口を抑える聡汰。


たしかに、生徒たちの奇異の目はことごとく聡汰に向けられていた。

普段こもって読書ばかりの文化系人間が、突如ひとりで阿鼻叫喚のランニングをしているのだから、それも仕方ないことだった。


「ハア…ず、ずるいぞ…ハア…どうしてボクだけ…ハア…」

「マグロだ…聡汰」

「!」

「足を止めれば最後、お前はこの学校で死んだも同然となる…」

「!?」


聡汰の脳裏に、ヘッドスライディングの体勢でひたすら地面を滑走している悲惨な未来がよぎる。


————「なんだアレ…」「ほふく前進…?」「怖くね…」「誰か先生呼んでこいよ…」————


たしかに、学校しゃかい的な死は容易に想像できた。


「どうだ、自然と足も回るだろう?」

「こんちくしょおおおお」





(放課後、教室)

キーンコーンカーンコーン


「疲れた……」


机に突っ伏している聡汰。

昼休みのマグロランのせいですっかりくたびれている。


「あんなキツいの…できるわけないだろ」


マグロランの後の会話を思い出す————……


……————

「毎日!?」

「そうだ。新しい自主練メニューに加える」

「いやいや、さすがに一人じゃできないって」

「心配するな。毎日昼休みにレオニダスが補助サポートしてくれる」

「え」

「感謝するんだな。レオニダスは嫌いなヤツにはアタリがきついが…お前のことは気に入ったらしい」


レオニダスは聡汰に背を向けたまま流し目でフフンと鼻息を立てている。

これもノブレス・オブリージュよ、と言われているみたいだった。


「で、でもさ、それよりスパイクの練習した方が…」

「聡汰」

「!」


どこか力のこもった声に、聡汰は一時抵抗をやめる。


「お前はバレーボール選手になりたいのか?」


「え?」

「お前の望みはなんだ?」


レオニダスにまたがり、出発の準備を整えるスパルティア。


「よく考えることだ」


レオニダスはまだまだ青いわね、といった表情をしている。

そうしてスパルティアは意味深な言葉を残し、ハイヤッと彼方へ飛び去っていった————……

……————


(教室)


(なんだよ、望みって…イミわかんねーし)


釈然としない聡汰は、机に頬杖をついたままでいる。

そうした中、腹のあたりを何かもぞもぞとうごめくものを感じた。


「ん?」


とっさに下を見た聡汰は、異物を目撃する。

()()は、今まさに机の引き出しのスペースから這い出てきたところだった。


————————タコだった。


もちろん、本物ではない。

なめらかでありながらどこか規律正しい挙動をするそれは、タコの形と色を抽象化デフォルメした、明らかな人工物だった。


ヌメリもなければ、タコさんウインナーのごとく目に鮮やかな朱色を帯びていて、クリクリとした愛嬌のある瞳が輝いている。よく見ると頭や触手にはリボンなどがあしらわれており、適時であれば「かわいい」と評する人間もいそうなものだった。


ともあれ、聡汰は至極自然な反応をみせる。



「どぅわあぁあああ!?!?」



思わず机から転げ落ちる聡汰。


「な、な、なんだコレ…!?」


聡汰はすっかり狼狽している。

そこへ————


「あら、そんなところにいたの」

お読みいただき、ありがとうございます。

一言でも感想いただけたら嬉しいです。

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