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定食屋「海の幸亭」の喧騒が落ち着き始めた頃、扉がガタンと開いた。そこには、ボロボロの姿でエリザとミリアが立っていた。エリザの金髪は泥と埃でくしゃくしゃ、冒険者装備にはいくつもの擦り傷。ミリアも甲冑に凹みができ、鋭い目つきは疲労で少し曇っている。二人の背後からは、まるで戦場を思わせる土煙が漂っていた。
「エリザ! ミリア!? ど、どうしたの、その姿!?」ボクは思わず立ち上がり、ヨーコも「なんじゃ、この惨状はなのじゃ!?」と小さな体で飛び跳ねた。
エリザはヘロヘロの笑顔を浮かべ、「いやー、ミリアとちょっと……熱い話し合いしちゃってさ!」と言いながらテーブルに突っ伏す。ミリアは「エリザヴェート様の我儘には毎度困ります……」と呟き、壁に寄りかかってぐったり。どうやら「肉体言語での平和な話し合い」は、予想以上に激しかったらしい。
「二人とも、怪我してるじゃないか。ちょっと待ってて」
ボクは咄嗟に動いた。聖女の癒し――ボクの秘めたスキルを発動させる。そっと手を二人にかざすと、淡い光が彼女たちの体を包み込んだ。エリザの擦り傷がみるみる癒え、ミリアの甲冑の下の打撲も消えていく。光は柔らかく、まるで春の陽だまりのように温かい。
「うわ、ルフィス、なにこれ!? めっちゃ体が軽くなった!」エリザが目をキラキラさせて飛び起きる。
「これは……まるで聖女の癒しのような力……」ミリアが驚いたようにボクを見つめる。ボクは内心ドキッとしたが、「いや、ただの回復魔法だよ! 冒険者ならこれくらいできて当然でしょ!」と笑ってごまかした。聖女のことは、絶対にバレちゃいけない。
ヨーコが「ふむ、ルフィスの魔法はいつ見ても見事なのじゃ!」と尾を振ってフォローしてくれる。エリザも「ルフィス、ほんと頼りになる! 聖女の手本みたい!」と無邪気に笑う。……その「聖女」って言葉、ほんと心臓に悪いからやめてほしい。
エリザがミリアを振り返り、ニヤッと笑った。「ねえ、ミリア。ルフィスたちのパーティー、めっちゃ楽しいよ。ミリアも一緒に冒険しない?」
「エリザヴェート様、それは……」ミリアが渋い顔をするが、エリザは畳み掛ける。
「ほら、ミリアだって王宮で私を見張ってるより、冒険したほうが楽しいでしょ! ルフィスはすごいし、ヨーコは可愛いし、絶対後悔しないって!」
「むむ、わらわを可愛いと認めるそのセンス、嫌いじゃないのじゃ!」ヨーコがドヤ顔で胸を張る。ミリアはしばらく考え込み、ボクの回復魔法のことを思い出したのか、ふっと表情を緩めた。
「……確かに、ルフィス殿の力は並々ならぬものがある。エリザヴェート様の護衛として、同行するのが最善かもしれませんな」
「やった! ミリア、ようこそパーティーに!」エリザがミリアの肩をバンバン叩き、ミリアは「痛い、痛いですから!」と苦笑い。ボクも「ミリア、よろしくね。頼りにしてるよ」と微笑んだ。ヨーコは「新たな仲間! 魚の取り合いが増えるのじゃ!」と少し不満そうだが、すぐに尾を振って笑った。
こうして、女騎士ミリアがパーティーに加わり、ボクたちの冒険は新たな一歩を踏み出すことになった。
日が暮れ、ボクたちは帝都の宿屋「月影亭」に部屋を取った。木の温もりを感じる落ち着いた宿で、部屋割りをする段になって、ボクは急に冷や汗をかいた。
――しまった。例の問題だ。
ボク、ルフィスは見た目が問題なんだ。金髪に、透き通るような青い目。誰もが「聖女みたい」と言うその容姿は、確かに女性と間違えられてもおかしくない。でも、ボクは男だ。10歳の時に教会で神エルディスから「聖女の癒し」を授かり、聖女として選ばれた瞬間から、成長も二次性徴も常人より遥かに遅くなった。20歳を過ぎても、ボクの見た目はまるで少年のまま。声も高めで、体つきも華奢だ。でも、間違いなく男なのだ。
なのに、エリザもヨーコもミリアも、ボクを完全に「女の子パーティーの一員」扱いしてる。エリザが「ね、ルフィス! みんなで同じ部屋に泊まろうよ! 女子会みたいで楽しそう!」と無邪気に言い出した瞬間、ボクの心臓が止まりそうになった。
「いや、待って、えっと……それはちょっと……!」ボクは慌てて手を振る。ヨーコが「む? ルフィス、どうしたのじゃ?」と首を傾げ、ミリアも「何か問題でも?」と鋭い目でボクを見る。
頭をフル回転させる。女の子三人と男のボクが同じ部屋で一夜を過ごすなんて、ダメだ。いくら見た目が中性的でも、ボクの心は男だし、エリザたちの名誉だって守らなきゃ。どうにか理由を考えなきゃ!
――そうだ! 宗教上の理由にしよう! 聖女ならではの理由なら、みんな納得してくれるはず!
ボクは咳払いをして、なるべく真剣な顔を作った。
「えっとね、実はボク、昔、教会で誓いを立てたんだ。神エルディスへの信仰として、特定の条件下では他の人と同室で寝ちゃいけないって。聖なる力を保つための、特別なルールなんだよ」
ボクは適当にそれっぽいことを並べ立てた。内心、めっちゃバクバクしてる。エリザが「へえ、ルフィスってそんな厳しい誓いしてたんだ! さすが聖女の手本!」と感心したように目を輝かせる。ヨーコも「ふむ、神の掟か! ルフィスの高潔さが眩しいのじゃ!」と尾を振る。ミリアは少し疑うような目でボクを見たが、「……なるほど。信仰のことは尊重します」と頷いてくれた。
「だから、ボクは別の部屋で寝るよ。すぐ隣の部屋にするから、何かあったら呼んでね!」
ボクはそう言って、なんとか危機を回避した。エリザが「じゃあ、ルフィスが寂しくないように、明日の朝は一緒に朝ごはんね!」と笑い、ヨーコが「魚のスープを期待するのじゃ!」と付け加える。ミリアは「私がエリザヴェート様を見張りますので、ご安心を」とキリッとした顔だ。
宿屋の部屋に荷物を置きながら、ボクはほっと胸を撫で下ろした。聖女の秘密も、男であることも、なんとか隠し通せた。でも、エリザたちの無邪気な信頼や、ヨーコとの絆、ミリアの新たな仲間意識を思うと、胸の奥が温かくなる。
――このパーティー、もっと賑やかになりそうだな。
ボクは窓から見える帝都の夜景を眺めながら、明日からの冒険に思いを馳せた。




