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秘密基地は大迷宮〈ダンジョン〉に  作者: カイエ
四章「帰還」
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#7

「うーん、困ったな。まだ許可は出せないんだ」

「どうしてですか?」

「身元の確認が未だだからだよ」


 この世界に来てまだった二日だけど、みんな退屈しはじめている。

 家事や料理を手伝っているアリサとカナはまだいいとして、男子組は家の中でできることがない。

 ゲーム機など電源すらはいらない。

 

 そこで「外に出てみたい」とカインに相談してみたところ、NG が出た。


「すぐにでも冒険者登録したらいいって言ってましたよね」

「といっても、まだたった二日だよ? もう少しだけ待って欲しいな」


 この世界の時間感覚は日本とは随分と異なる。

 とにかくなんでものんびりしているのである。


「身元確認のために騎士院に派遣は依頼してるからさ。もう少しの辛抱だよ」

「でも、ぼくたち身元を証明するものなんて持ってないです」

「大丈夫! 子供なんだからそれで当たり前だ。キミたちに危険がないとわかれば外出許可も下りるさ」

「カインさんも騎士じゃないですか」

「ぼくは発見者だからね。第三者の確認が必要なんだよ」


 この調子だと何日かかることやら……と思ったら、階下からドカーンと派手に扉の開く音がした。


「グレェエエエン!! グレンがいるってのは本当か!!」


 階下から聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。

 女性にしては低い、艶のある声。


「お、早速来たみたいだよ」

「あの声、もしかしてオリヴィアか?」


 カインに小声で尋ねると、「そうみたいだね」と返事が返ってきた。 


(……マジか)


 あいつ、騎士になったのか。 

 そうこうしている間にも、階下からは怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「グレンっ! グレンはどこだ!!」

「こっちだよ、オリヴィア!」

「上がらせてもらうぞ!」


 カインの返事と同時にダンダンダンと荒っぽい足音がして、バターンと扉が開いた。


「グレンはどこだ?! ……いないではないか!」

「……やぁ、オリヴィア」


 仕方なく作り笑顔で手を挙げると、オリヴィアは名状しがたい表情を浮かべた。

  

 ――オリヴィア。

 女性ソロ冒険者……いや「元」冒険者か。

 短めに切りそろえられた金髪と、何かに挑むかのような意思の強そうな顔で俺を睨んでいる。

 真面目すぎて暴走しがちなところは変わっていないらしい。


「……貴様がグレン、だと?」

「恥ずかしながら」

「……子供ではないか」


 怪訝そうに俺を見つめるオリヴィア。


「……オリヴィアこそ騎士になったのか。あんなに嫌ってたくせに」

「その口調……まさか本当にグレンなのか?」

「話せば長くなる。それに、今はグレンではなく、ダイチという名前なんだ」

「ダイチだと? その体はどういうことだ? ソフィーリアが間違いないと言ってはいたが、到底信じられん。もしグレンの名を謀るつもりなら……」


 ……オリヴィアは今にも剣を抜きそうな気配だ。

 その気配を感じて、ケンゴとアリサが「ヒッ」と声を上げる。


(やれやれ)

 

 俺は声をうんと潜めてオリヴィアに言った。


「オリヴィアは今でも待っているのか?」

「は?」

「フェンリルにまたがった王子さm……」

「貴様あああああっ!!!」


 オリヴィアの反応は劇的だった。瞬間的に真っ赤になり、バチコーンと殴るように俺の口を塞ぐと、あっという間に俺を壁際まで追い詰める。

 壁にドスンと背中から叩きつけられる俺。


「ダイチ!?」

「ダイチ君っ!!」


 バっと臨戦態勢に入るケンゴとカナ。

 アリサとコータは固まっている。

 カインが俺たちと子どもたち双方を見比べて「どうする? 止めようか」と目配せしてくる。

 いいからいいからと手で静止しつつ、オリヴィアを見ると、凄い表情で俺を睨んでいた。


「き、ききき貴様、それは墓の中まで持っていくと……!」

「ちゃんと墓の中まで持っていっただろうが」

「くっ……! 貴様、間違いなくグレンだ。信用せざるを得ない……ッツ!」

「信じてもらえて何よりだよ」

「だが、さっきのあれは頂けん。その体格なら、流石に私のほうが強い。もしそれを口にしたなら……!」


 殺す、と血走った目で睨まれる。


「わかったわかった」


 降参するように両手を上げる。

 フーフーと息を荒くしながら俺からゆっくりと手を離すオリヴィア。

 子どもたちは未だ固まっているが、カインは困ったように笑っている。


「だが、黙っている代わりに条件を出したい」

「なんだと? ……言ってみろ」

「仲間が退屈で死にそうでさ。外出したい。騎士院からの許可がほしい」


 そのために来たんだろ? と言えば、オリヴィアは偽悪的に口を歪めて「ふん」と笑ってみせた。


「騎士を脅すとは悪辣な奴め。即刻切り捨ててやりたいところだが」


 そして、臨戦態勢に入ったままの子どもたちをちらりと見て、


「そんな(なり)になっても、仲間に恵まれる体質は変わらないようだ。カインとソフィーリアからのお墨付きもある。……それに、おまえが悪意ある行動をすることなどありえないしな」


 オリヴィアは真面目な顔に戻って言った。


「いいだろう。騎士・オリヴィアの名のもとに、貴殿らの外出を許可しよう」

 

 その言葉を聞いた子どもたちはワッと飛び上がって喜んだ。

 子どもたちの様子を見て、オリヴィアはフンと鼻で笑った。


「……いい仲間を見つけたようだな」

「まぁね」

「だが非常識だ。騎士に攻撃など仕掛けたら、子供とはいえ殺されても文句は言えないぞ」


 皆、オリヴィアの様子を危険だと感じた瞬間に、いつでも攻撃できるようにそれぞれ魔石を握っていた。


「お前が子供に手を掛けるわけないだろ」

「友達思いのいい仲間だ。だが、騎士に逆らうのは危険だぞ?」

「そうだな。おーいみんな! もう魔石は戻して大丈夫だよ!」


 俺が言うと、皆は顔を見合わせて、手に握った魔石をポケットに戻した。

 皆、まだ若干オリヴィアに対して緊張感があるようだ。


「練度も申し分ない。さすがおまえの仕込みだ」

「それよか、何でおまえが騎士なんてやってるんだ?」

「……剣術大会で上位に入り、騎士の末席を頂いたんだ」

「そうじゃなくて……おまえ騎士は嫌いだって言ってただろうが」

「おまえには関係ない」


 オリヴィアはプイと顔をそらした。


「グレン」

「ん?」

「おまえ、どこまで覚えている?」

「どこまでって……ああ」


 オリヴィアの言いたいことを理解する。


()()()()のことか」

「そうだ」

「残念ながら、全く覚えてないんだ」


 オリヴィアが疑わしそうに俺の顔を覗き込む。


「本当か?」

「疑う理由があるか?」

「……おまえはめったに嘘はつかなかったが、仲間のためなら嘘だろうが何だろうが躊躇しない男だ。この場合おいそれと信用できん」

「おまえも知ってるだろ。俺は前衛だ。先頭に立っている以上、後ろの様子はわからない」

「先頭に立ってようが仲間から目を離さないのがおまえだろう?」


 ピリピリとした俺とオリヴィアの応酬に、子どもたちが目を合わせる。

 カインが仕方なく「大丈夫だよ」などと言って子どもたちをなだめているが、これでは皆のオリヴィアへの印象は最悪だろう。

 いいヤツなんだがなぁ……。

 

 そのオリヴィアは肩を竦めて、追求を諦めたようだ。


「おまえが嘘を吐くのは覚悟がある時だけだ。言い争うだけ無駄だろう」

「別に嘘は吐いてないんだがな……」

「近々時間を作ってもらってもいいか? 色々話を聞きたい」

「良いよ。仲間と街を堪能してからでいいか?」

「街を? それは別に構わないが……なら時間ができたらカインに言付けてくれ」

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