#6
「「じゃーん」」
カナとアリサの二人がポーズをつける。
地球の服装だと目立ちすぎるからと、カインが用意してくれたこの世界風の服装に着替えている。
カナちゃんが薄茶、アリサが焦げ茶のシャツで、スカートはどちらも生成りのロングスカートだ。そして柔らかそうな革製のベスト。
靴だけはまだ届いていないので、地球風のシューズが少し浮いた感じだ。
「お、すごいな! 異世界人っぽい!」
「よく似合うよ」
ケンゴとコータが驚いている。
カナちゃんがスススとぼくに近づいてきて言った。
「ダイチくん、似合う?」
「最高です!」
ぼくはグッと力いっぱい親指を立てた。
カナちゃんははにかみながら「ありがと」と言った。
カナちゃんの可愛さは異世界でも変わらず神!
いや、むしろその可愛さはますます増していると言えよう!!
「……ダイチさ、さっきまでと口調が違うんだけど……」
コータがジト目でぼくを見る。
そう言えば。
「……あれぇ、本当だ。なんでだろう?」
カインさんたちと話ししているときは、かなり「グレアム」に近い感覚になっていたけれど、秘密基地グループだけになると、ほとんど「仁科大地」の感覚に戻っている。
「この世界の人とかに触れると刺激されてでてくるのかも?」
「そうかもね。ダンジョンでもダイチさんは危険があると出てきてたし」
おかげで安心してダンジョン探索できたよ、とコータが言うとケンゴが割って入った。
「待て待てぇーい! リーダーの座は譲らねぇからな!?」
「え、ぼく別にリーダーになりたくないけど……」
「なんでだよ!? なりたがれよ!」
「ダイチさんも言ってたじゃん、リーダーはケンゴが向いてるって」
そんな話をしながら、今度は男子組が着替える番だ。
「あたしたち先に下行ってるから」
「おぅ、じゃ俺たちも着替えるか!」
「「おー」」
▽
ぼくらに与えられた部屋は、窓に面した明るい部屋だった。
隣の部屋は、多分ソフィさんが顔を出していた部屋なんだろう。
家はそう広くないので、男女交えて一つの部屋――アリサあたりが文句をいうかと思ったが、「着替える時に男子が出てってくれるなら問題ないでしょ」とのこと。
どちらにしても贅沢を言える立場じゃないから仕方がないんだけど。
部屋にはベッドはなく、かわりに大量のクッションのようなものと毛布が運び込まれた。
雑魚寝だが、冒険者として生きていくのなら野宿は当たり前だし、こうして雨風を防いで暖かく眠れるのなら全く問題はない。
そして与えられた服はこの世界風のごく平均的なもの。
アリサとカナの服もそうだが、無地で質素な服だ。
シャツの色はいくつかあったので、ケンゴはグレーを、コータは緑っぽいものを、ぼくは普通の白を選んだ。
パンツはステテコみたいな短パンだけど、生地が分厚くてゴツい皮ベルトがついている。
そこにベストを羽織るともうすっかり異世界人だ。
やっぱり靴だけが浮いているけど。
▽
着替えて部屋から出るといい香りが漂っている。
「ごはんよー」
とソフィーさんの呼ぶ声。
「はいっ!」
ぼくとケンゴ、コータの三人は我先に階段を駆け下りる。
「うぉお、すげぇっ!」
「うまそっ!」
「ごちそうだね!」
テーブルの上には、所狭しと料理が並んでいた。
「スープとオムレツだけは手作りだけど、食べざかりには物足りないだろうから、色々買ってきました!」
「……随分張り切ってるね、ソフィ」
なぜか燥いでいるソフィを見て、カインが笑っている。
「せっかくうちに来てくれたんだもの。喜んでもらいたいじゃない?」
「そうだね。ソフィの言う通りだ!」
ちゅ、とキスをする二人。
はわぁ、と赤面するアリサと、それを見てクスクス笑うカナ。イチャつく二人のことなど眼中になく、食べ物に夢中なケンゴとコータ。
そして、それを何故か眩しく見ている自分。
――この光景を、僕はどこかで見た気がする。
「じゃあ、いただこうか!」
パン、と手を叩く音で、ハッとする。
「「「いただきます!」」」
子どもたちが食事手を伸ばそうとして、ピタッと止まる。
グレンとソフィーが両手を組んで祈り始めたからだ。
「「……神と精霊に与えられし今日の糧に感謝します」」
日本では食事の前に手を合わせて「いただきます」と言う。
この世界では神と精霊に祈りを捧げるのが一般的だ。
祈りを見たことがなかった子どもたちは驚いている。
俺はと言えば――
「さあ、遠慮しなくていい。お腹いっぱい食べてくれ!」
カインが笑顔で促すと、皆ワッと喜んで食事に手を出す。
「うめー!」
「これ何て野菜?」
「ナスに似てるでしょ? 「シャシャ」っていうんだって」
「アリサ、新しい素材でテンション上がってたよね」
「うおっ、これ食ってみろよ! ソーセージめちゃうめぇ!」
「ははは。ソフィの料理は美味しいだろう?」
「アリサちゃんが手伝ってくれたから、楽しかったわぁ」
皆にぎやかに食事をしている。
確かに美味い。ソフィーは昔から料理が上手だった。
「グレンは、トトとシャシャとチーズのグリルが好きだったわよね」
ソフィが俺に問いかける。
トトはトマトそっくりの野菜、シャシャはナスだ。
そこにチーズが乗せられて、オーブンで焼かれている。
俺の大好物だった。
「ああ、そうだったな。特にこの端っこの……」
「チーズが焦げたところが好きなのよね?」
いたずらっぽい表情のソフィの目はいつもどおり閉じているが、魔力を使って俺をじっとみつめているのがわかる。
「まいったな……」
「ね、さっき手を合わせる時に、他の子達と一緒に手を合わせながら、食事の祈りをしようとしたでしょ」
「……」
だんだん混乱してきた。
この世界に来てからというものの、だんだん自分がこの世界の住人として違和感がなくなってきている。
しかし、同時に自意識はダイチのままだ。
精神年齢は……そもそもそんなに高い方ではなかったので、よくわからないが。
「ふふ、戸惑ってるわね」
「ソフィにはかなわないな。うん、戸惑ってるよ、確かに」
「ダイチ、おまえ何しゃべくってんだよ、無くなっちまうぞ」
ケンゴに言われてハッとする。
「ああっ!? ぼくの分も置いといてよ!」
「こういうのは早いもの勝ちでしょ」
「あっ! ぼくソーセージ食べてないのに!」
「ダイチくん、大丈夫だよ、はい」
そっとカナちゃんがソーセージを取り分けてくれる。
「ありがとう、カナちゃん!」
「どういたしまして」
ニッコリ笑うカナちゃんに見とれていると、カインとソフィが呆れたように顔を見合わせた。




