#7 二章エピローグ
練習していくうちにいくつかのことがわかった。
まず、発音が重要であること。
こっそりカナちゃんの真似をして練習したら、あっさり『Aqua(水よ)』が成功した。
次に、人によって得意な魔術とそうでない魔術があって、発音の上手・下手の関係かと思ったらそうではないらしい。
なんでも魔力の通り方が一人ひとり違うんだそうだ。
そして、魔石には品質があるということ。
魔石が持つ魔力は一定ではなく、色の濃さや透明度、大きさなどによって様々で、このダンジョンで手に入るのは基本的に低品質の小さなものだけなんだそうだ。
でかいものになると野球ボールくらいの大きさになるらしい。
なんか凄いな。
もう一つ、魔石の持つ魔力=エネルギーは誰が使っても差はないということ。
つまり、同じ呪文で発動させた場合、上手な人だと効率よく燃やして強い効果が得られる。
下手くそな人だと、効率が低い代わりに長い時間効果が得られる。
ケンゴが唱えた「Aqua(水よ)」が、なかなか魔石が消えず、延々とポタポタ水を作っているのはそういうことらしい。
さらに熟練者になると、魔石の効率をコントロールできるらしい。
一瞬で燃やし尽くして強いエネルギーを得たり、ゆっくり燃やして長時間効果を持続させたり、あるいは1つの魔石で同時に複数の魔術を発動させたり。
大人ダイチはそれを当たり前のようにやってのけるが、今のところぼくたち全員コントロールまではできない。
最後に、魔石は魔力を使い尽くすと消えてしまうということ。
魔石とはダンジョンが魔力を結晶化させたもので、石の形を維持するにも石自体の魔力を使っているんだそうだ。
だから魔石は使わずに置いておくとだんだん小さくなっていくらしい。
そのため、大事にとっておくよりはどんどん使うほうが理にかなっているとのことだ。
それにしても。
「攻撃魔法が使えないのは痛いね」
「それな」
そうなのだ。
一応コータが『Ignis(火よ)』を使えるものの、威力は低い。
一つの魔石から、二十回くらい小さな火の玉を生み出すことができるけど、魔物に通用するほどの威力はない。
「後衛としてはもっと鍛えないと」
「だね」
コータとカナちゃんは気合を入れているけれど、まだまだ先は長そうだ。
▽
もう一つ、何となくわかったことがある。
「大人ダイチ」のことだ。
ぼくは、いつ「大人スイッチ」が入るか、全く予想がつかないし、もちろんコントロールもできないけれど、一つわかったのは「危険が迫っている時にしか現れない」ということだ。
たとえば皆に魔術戦を見せた時も、近くにモンスター溜まりがあった。
あとはダンジョンで迷ってパニックになった時や、突然モンスターに遭遇した時など、スイッチが入るのはいつも危険が身近に迫っている時だ。
逆に言うと、危険がない限り、ぼくはぼくのままだ。
ぼくは、皆が「大人ダイチ」に頼っているのを見て、どこか寂しい気持ちになることがある。
みんな、ぼくよりも「大人ダイチ」のほうがいいのかな……。
それでも、いざという時にスイッチが入るのはありがたい。
みんなに変な羨望の眼差しで見られるのは居心地は悪いけれど……。
ただ、みんな間違いなく少しずつ強くなってきている。
だから、モンスターが1匹2匹現れた程度なら、ぼくはぼくのままでいられる。
コータも、それにカナちゃんまで、魔法を覚えるまでは、と頑張って武器を取って戦っている。
先日はとうとうカナちゃんが一人でコウモリを倒した。
それまでは、モンスターが死ぬのを、ちょっと悲しそうに見ていたカナちゃんだけれど、この時ばかりは飛び上がって喜んでいた。
もちろん、ぼくも頑張って鍛えている。
武器のシャベルで何度かジャイアントタランチュラを倒した。
シャベルが重いのでまだコウモリを倒したことはないけれど、「位階が上がる」という感覚がようやくわかった気がする。
何というか……位階が上がると、モンスターの気配がわかるのだ。
近くに人がいるとわかる――というのとはまたちょっと違う感覚で、例えば「硬そう」とか「強そう」といったイメージが伝わってくる。
それに、真っ暗でも遠くまで見えるようになった。
ケンゴなどは灯り魔法がなくても全く問題ないと言っていた。
ぼくたちは間違いなく強くなっている。
だから、少しずつ「大人ダイチ」が現れる機会は減っていく。
そして、ようやく魔術の使い方がわかってきたて、楽しくなってきたタイミングで、僕たちは「彼」に出会った。
二章はこれで終わりです。
三章「遭遇」を近日スタートします。




