#6 魔法を使おう
その日からぼくたちはダンジョンに潜るたびに魔術の練習をすることになった。
先生はたまに出てくる「大人ダイチ」だ。
ってことはぼくだけ直接教えてくれる人がいないってことじゃん……。
案の定、魔術が得意だったのはカナちゃんとコータだった。
「『facem(照らせ!)』」
カナちゃんが灯り魔法に成功する。
「「「「おおおーーー」」」」
皆が歓声を上げる。灯りに照らされてるカナちゃん可愛い。
逆に一度も魔術を成功扠せてないのがケンゴだ。
「くっそ、なんでうまく行かねぇかなぁ……!『Aqua(水よ!)』……『あーくーあー!』」
ケンゴがイライラしながら黄色い魔石を握りしめる。
青い魔石があれば成功するのかもしれないけど、何故かモンスターを倒せど倒せど、なかなか出てこなかった。
大人ダイチ曰く、魔石にも属性はあるが、属性が違う魔石でも使えないことはないらしい。
ただし、発動しやすさが違うし発動後の効率ががくんと落ちる。
例えば火属性の魔術を使う時に赤い魔石を使うのと、他の色の魔石を使うのでは数倍の威力の差がある。
また、魔石によって苦手な属性があって、赤い魔石で水魔法が難しいが、黄色い魔石なら成功率は上がる。
「あー、オレも魔法使いてぇーー!」
ケンゴがグニグニと魔石を握りしめる。
「魔法じゃなくて魔術だってば。もう少し発音を工夫してみたら?」
「うーん、アックア、アッカー、アクーア、アックぁ~ああああーーーー」
「真面目にね」
アリサのツッコミに、
「やってらー!」
と、ケンゴが乱暴に言い返す。
ちなみにアリサも一度も成功していない。
……と。
「お、お、お?」
ケンゴが上ずった声をだす。
見ると、握りしめた魔石からポタポタと水が落ちている。
「お、やった? やったのか? オレ」
ケンゴが立ち上がると、ズボンの股間が濡れていた。
「……おもらし?」
「違わい!!!」
残念な絵ではあるが、確かに手から水がポタポタと落ちている。
成功らしい。
「やったやった! できたできた!」
飛び上がって喜ぶケンゴ。
それをジト目で睨むアリサ。
「なんでケンゴができてあたしができないのよ!」
「才能の違いじゃね!?」
「才能ってんなら、あたしのほうが上でしょうよ!」
「なんでそんなこと分かんだよ!」
言い返しながらケンゴの顔が勝ち誇っている。
「クッ……ケンゴのくせに……!」
アリサの顔が屈辱に歪む。
「ほら、アリサって滑舌がいいから……」
カナちゃんが慰める。
「もっと外国語っぽく言ってみたらどうかな。ケンゴ君も発音変えていろいろ試して成功したんだし」
「……やってる……」
アリサが肩を落とす。
「じゃあさ」
カナちゃんがちょっと迷った素振りを見せてからアリサの耳に何かを囁く。
アリサは少し驚いた顔をして、真剣な顔で頷く。
そして。
「『lumen(光よ!)』」
途端、手に持った魔石がシュルッと宙に消えた。
「やったー!!!」
目の前に、光の玉が浮いていた。
光魔法だ。
「え? なんで? なんでアリサが成功するんの」
勝ち誇っていたケンゴの顔が驚愕に歪む。
「才能の差?」
「オレだって成功させたじゃん! ていうかオレのほうが先!」
「魔石がまだ残ってる状態でポタポタ水が出てる状態が成功って言えるの? うぷぷ、おもらし魔法?」
ギャーギャー喧嘩を始める二人をよそに、ぼくはカナちゃんにこっそりと、
「カナちゃん、アリサに何を教えたの?」
「うーん……ちょっと言いづらいんだけど」
カナちゃんがちょっと困った顔をして、
「あたしのモノマネをしながらやってみて、って言ったの」
「ああ〜」
カナちゃんは体が小さいだけでなく、話し方が幼い。
舌っ足らずで、アリサのハキハキした話し方とは真逆だ。
「ケンゴくんにあたしの真似されるのはちょっと抵抗あるしね」
「まぁ内緒にしとく」
そう言って笑い合う。
「『facem(灯りよ)』」
その隣で、コータがあっさりと新しい魔法を成功させる。
『lumen(光よ)』と同じ灯り魔法だが、こちらは火属性だ。
『lumen(光よ)』と違うのは、熱があるかどうか。
ぶっちゃけ、ちょっと熱い。
はじめに「大人ダイチ」が赤い魔石なのに『lumen(光よ)』を使ったのも、安全のためのようだ。
「コータ君すごい!」
「すげぇな。これで何種類?」
訊くとコータはちょっと得意気に、
「『lumen(光あれ)』『Ignis(火よ)』『Ventus(風よ)』『Aqua(水よ)』あと、この『facem(灯りよ)』の五種類だよ」
「すごいな?!」
「あたし『Ignis(火よ)」が使えないんだ。まだ四種類」
「いや、それも十分凄いから」
十分魔法少女ですから。
ちなみにぼくは「『lumen(光あれ)』『Ignis(火よ)』の二種類が使える。
大人スイッチが入ったらもっと色々できるんだけどなぁ……。
なんなんだ、自分。




