二章 隣国との交渉 2
本日二話目( ̄∀ ̄)
書いてみて思いました。うん、十話くらいいきそうですね、この文字数だと汗
気長にお付き合いくださいませm(._.)m
モーゼスは床に座り込んで狂ったような声をあげて叫び続けているウォルドの姿をみて、思わず顔を背けてしまった。様々な気落ちがないまぜになっているであろうことはこれまでのやり取りから判別がつく。だからこそ、彼の姿を見るに耐えなかったのだ。
「殿下……これはあまりにも……あまりにも、ですぞ」
モーゼスにはもはやその先の言葉が浮かばなかった。それもそのはずである。最後の最後にそれまでの雰囲気をぶち壊すような一言を囁かれたのである。本来であれば、もう少し違った言葉で丸く収めるところを思いもよらない方向からの攻撃、いや、口撃を受けたのだ。
感動をその身にまとっていたウォルドにとっては、それは地獄に突き落とされたに等しいに違いなかった。
ウィルはその様子を眺めて気不味そうに頭をかいた。というのも、自分が思っていた以上の反応だったのである。そこまでの衝撃を彼に与えるとは思わなかったのだ。
モーゼスとリゼッタに支えられてウォルドは立ち上がる。もはや身体に力は入っておらず、くぐもった呻き声のようなものがその口から漏れていた。
「ご、ごめんね、ウォルド、和ませようとおもったんだ」
狼狽えるウィルの言葉に身体を震わせたウォルドはゆっくりと彼の方に顔を向けた。虚無、という表現が一番しっくりくるだろう。そこにはどんな表情も浮かんではいなかった。
目があった瞬間、乱れた僅かな髪の毛と額に浮かんだ大粒の汗が視界に入り、懲りずにウィルは吹き出しそうになったが、そこは空気を読んで何とか堪えることに成功した。
少しでも誠意を見せようとウォルドの顔を正面から見つめ返す。静寂がその部屋を支配した。モーゼスとリゼッタも固唾を飲んで二人のことを見守っている。
どれくらいの時間が経ったのだろう、それは一瞬のようでもあり随分と長い時間のようでもあった。少なくともウィルには永遠のように感じられたのはいうまでもない。
ウィルを見つめるウォルドの瞳から、一筋の涙が流れ落ち、床に敷かれた絨毯に一つの染みを作った。
いたたまれずモーゼスが何か声をかけようと口を開きかけたその時、四人がいる部屋の扉が勢いよく開かれた。
「父上、ここにおられたのですか。そろそろ出発の……父上?」
「お、おお、ジャスカール。よく知らせてくれたのう」
大股で一人の男が部屋へと入ってきた。モーゼスが助かった、という表情で男の名前を呼んだ。
ジャスカールと呼ばれた青年はウォルドの長男で、。浅黒い肌に短く刈り込まれた黒髪と透き通った茶色い瞳が印象的な男であった。大柄な肉体でどこか人懐こさを感じさせる雰囲気を持つジャスカールは笑顔を浮かべて部屋へと入ってきたが、父親の様子に違和感を感じ眉を顰めた。
「何でもない、何でもないのだ。なっ、のう?ウォルド」
モーゼスに肩を叩かれたウォルドだったが、壊れた操り人形のように緩慢な動作でジャスカールの方を向くと、何も言わずにふらふらと彼を追い越し部屋から出て行った。ぶつぶつとうわ言のように何かをつぶやいている。
ジャスカールは尋常ではない父親の様子に戸惑ったが、彼にその原因を伝えるものはいなかった。扉がしまり、再び静寂が訪れた。
わざとらしい咳払いをひとつしてモーゼスはジャスカールをウィルと引き合わせた。
「ウィル殿下、彼はジャスカールといって、ウォルド将軍の御子息であり、今回の軍の軍団長でもあります」
「殿下、お初にお目にかかります。以後殿下の御身は私が命に代えましてもお守りいたします」
モーゼスの紹介を受けて、膝をつくジャスカール。その動作は身体の大きさを感じさせないほど優雅で、静かであった。その動作だけで、ウィルには彼が普通ではない技量の持ち主であることを見抜いたのだった。
「ありがとう、よろしく頼むよ……もしかして夏に生まれるというのは」
「はい、私の子供です」
立ち上がり、ウィルの言葉にジャスカールは嬉しそうに頷いた。もともと人懐こい顔の彼である、笑うとそこに幼さも加わり、女性ならば思わずときめいてしまうだろう愛嬌を生み出していた。
さて、とモーゼスは手を打ち合わせた。二人の視線が彼に注がれる。
「面合わせも済んだところで、ジャスカールよ。何か用があったのではないか」
ジャスカールは慌てて姿勢を正した。
「そうでした。出発の準備が整いましたので、殿下にお伝えせよと陛下が」
「そうか。では向かうとしようか」
「はっ」
窓の外を一瞥するとウィルは大きく頷いた。心臓がとくん、とくんといつもより激しく鼓動しているのがわかる。使命に緊張し冒険に胸を躍らせる、今の自分はどんな顔をしているのだろうか。
ウィルは逸る心を抑えるために目を瞑り大きく深呼吸をした。
目を開けると穏やかな表情のモーゼスと、ジャスカール、そして大量の荷物を持ったリゼッタがいた。無意識に視界から外れた彼女にウィルは慌てて視線を戻した。
「リゼッタ!!どうしたの、その格好は」
「どうということはありません。わたくしも殿下についていきますので」
ウィルの言葉に当然といった面持ちで胸を張る彼女を見て、彼は思わず視線をモーゼスに向けた。ウィルの表情から言いたいことを感じ取ったのか、モーゼスは目を細めて頷いた。
「殿下、彼女のことは陛下も許可しておられます」
「父上が?……危険な旅になるかもしれないんだよ?」
「存じております」
驚きに目を見張るウィルに済ました顔でリゼッタは荷物を背負い直した。どうやら本当に付いてくるつもりらしい。どうにか改めさせようと考えを巡らすウィルだったが、ジャスカールの次のひと言で何も言えなくなってしまう。
「彼女ことも、私にお任せください。危険が及ばぬよう何人かを護衛に付けますので」
納得するしかないと諦めかけたウィルだったがやはり、と思い直し再び口を開こうとした。そこへモーゼスが口を挟む。
「なに、そんなに心配なのであれば、殿下がお守りすればいいのですよ」
笑いを含んだ声に気付いたのはウィルだけだった。ジャスカールは名案だといった感じで頷いているし、リゼッタに至っては何故か頬を赤らめている。
「ちょっとまって、そんな、簡単に。リゼッタも、いつもそんな表情しないだろ!!」
ウィルは言ってから口を滑らせたと思い顔を歪めた。予想通り、リゼッタは一瞬のうちに表情を消し去り、いつもの澄まし顔に戻ってしまう。
やれやれ、といった感じでモーゼスは頭を振った。ジャスカールだけが、何もわからずににこにこと笑顔を浮かべている。
頭をくしゃくしゃと掻き回しながら、わかったよとウィルは力なく呟いたのだった。
てかまず隣国まで辿り着いてないw