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幕間1

勇者と魔王になる前の、そのずっとずっと前の時代の、2人が出会った頃のお話。現代と交互に描いていく予定です。

  これはまだ、勇者も魔王もいない時代の話だ。少年と少年は、とある二つの国の王子としてこの世に生を受けた。当時はまだ両国の交流は盛んで、お互いの国をいくつもの使節団や商人が往き来していた。


  二人が出会ったのものそんな折であった。最初は決して仲がいいとはいえなかったかもしれない2人だったが、年が近いこともあり互いに何かを競い合っていくうちに親友と呼べるまでになっていった。


  世界はまだ平和で魔物という存在もおらず、国々の兵士のやることといえば精々、都市から離れた村々を襲う盗賊の取り締まりや、それこそ街の中で起きる些細ないさかいの仲裁などであった。

 

  少年のうち、一人は温和な顔立ちをしていた。少しクセのある栗色の髪と、秋の夕暮れをかたどったような、優しいはしばみ色の瞳が特徴的であった。


  もう一人の少年は対照的に鋭く引き締まった顔立ちをしており、黒く長い直毛と、その美しさを一層際立たせる藍色の瞳を持っていた。


  二人の少年の名は、ウィルとギルといった。少年達はウィルの姉であるアリシアと三人で、事あるごとに城を抜け出しては、城から幾らか離れた場所にある小高い丘まで遊びに来ていた。別段何をするでもなく、その日の気分で丘の上にそびえ立った巨木のふもとで居眠りをしたり、アリシアの希望でままごとをしたり、勝手気ままに毎日を送っていた。


  それは三人にとっては大層幸せで満たされた時間であった。ウィルのいた国からは王族の代わりに毎年有能な技師達を派遣していた。ギルの国からは兵士の教育係として幾人かの将軍と、次期国王の留学ということでギルを派遣していた。そこには両国の多少の打算はあるものの、おおむね良好な関係を互いの国は築いていたと言ってもいいだろう。


  ギルがウィルの国に来て何年か経った頃、ウィルと大喧嘩をすることがあった。原因はウィルの姉のアリシアであった。元々、アリシアとギルの年齢が同じでウィルの方が年が下だったこともあるが、毎日をかなりの時間一緒に過ごす三人だ、ギルとアリシアが恋仲となるのにそこまでの時間はかからなかった。お互いの国の国王同士もそういう腹積もりがあったのは言うまでもない。


  けれど、ウィルの場合はそうはいかなかった。大好きな姉を取られたという思いもあり、またギルとアリシアが二人で出かけることも増えてきたため、それを面白く思わなかったのである。


「ギルはずるい」


  ある時ウィルはそういった。それはとっさに出た言葉であったが、ギルの方もそれを受け流すだけの器量がまだなく、些細ささいな一言が口論へと発展するのに時間はかからなかった。


「何がずるいというんだ」

「ギルは姉さんとばかり遊んでいるじゃないか」


  それは姉を取られたことに対する嫉妬か、自分との時間が少なくなったことへの不満か、恐らくは両方から出た言葉だったに違いないが、ギルはそれを前者と捉えた。


「そんなにアリシアと一緒にいたいなら、寝るときに添い寝でもしてもらえばいいだろう、まるで母親を取られた子供のようじゃないか、ウィル」

「なっ!それは僕に対する侮辱だ!!」


  顔を羞恥しゅうちで赤く染め上げたウィルはギルに掴みかかった。離れているといってもわずか2つの歳、取っ組み合いになったときにそれは大きな差にはならなかった。

  二人は互いに掴みあったまま、服が汚れることも構わず互いに地面を転げまわった。2人を探して通りかかったアリシアが仲裁に入ったときにはそれは酷い状態だったという。


  二人から喧嘩の理由を聞いたアリシアはそれはもう激怒した。


「私は二人のものではありませぬ、よって2人が争うということは私という人間をないがしろにする行為です!」


 滅多に怒ることのない彼女が表情を歪ませる様を目にした二人はすぐさま謝り、渋々ながらも仲直りする道を選んだのだった。

  後にその時の様子を語った2人は、まるで地上に降り立った悪鬼の類だったと肩を震わせていたという。


  その後二人は喧嘩をすることもなくなり、ウィルの方も心の折り合いがついたのだろう、ますます親睦を深めた二人はまるで本当の兄弟のように時を重ねていった。


  しかし、そんな平和とも呼べる日常はある時簡単に終わりを迎えてしまった。

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