プロローグ
優しい物語を目指します、読んで頂けたら幸いです!!
この剣は何度彼の心臓を貫いたんだろう。この目は、耳は何度彼の叫びを無視して来たんだろう。思い出すのはいつだってきまって事が終わったあとだ。
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うららかな春の陽射しを浴びて、少年は目を覚ました。見渡した先には優しく生い茂った草原が広がっていて、少年の頭の下には太くてしっかりと根を張った巨木が聳え立っている。まだすこしぼうっとする頭を振りながら、少年は大きく伸びをした。
息を吸い込むと同時に、ふんわりと柔らかい風が少年の身体の中に染み渡っていく。十分に息を吸い込んだ少年は目尻に滲んだ涙を指先で拭うと、ふと、遠くの方に視線を向けた。
視線の先は小高い丘になっており、その向こうには高い塀で囲まれた城が見えている。その周りには人々が生活を営んでいるであろう街が広がっている。それらは大層な賑わいを見せており、街に入るための関所には幾人もの行商人や、観光を目的としているであろう人々が列を作っていた。
軽く息を吐き、勢いよく立ち上がった少年はもう一度大きく伸びをすると、視界に入るその城下町へと歩き出した。服の肩口に乗っかった千切れた草が風でハラハラと落ちていく。そう短くない時間地面に横たわっていたであろうに、彼の着ている服には皺も少なく、さしたる汚れもないことから、良い素材で作られた衣装であることがみて取れた。
城の方へと向かうその足取りは軽く、弾んでいることから、少年は機嫌がいいようである。かすかに溢れる鼻歌は風に乗って辺りへと広がっていった。
少年が丘を下り、関所の近くまで辿り着いたとき、1人の男が慌ただしく少年の方へと駆け寄って来た。
「殿下ー!ウィル王子殿下!!探しましたぞ!!一体どこにいらしたのですか!」
小太りの初老の男は肩口に勲章のついた服を窮屈そうに揺らすと少年へとまくしたてた。綺麗に整えられた口髭が男の語気に合わせてふるふると揺れていて、男の額には玉の汗がびっしりと滲んでいる。
「そんなに叫ばなくても聞こえているよ、ウォルド。とりあえず汗でも拭いたらどうかな」
少年は苦笑しながら懐からハンカチを取り出すとウォルドへと差し出した。ウォルドは一度大きく深呼吸をすると、ウィルのそれは受け取らず己の懐から使い馴染んだハンカチを取り出して、額を拭いていく。
その様子を見ながらウィルは再びクスリと笑みを漏らすとハンカチを懐へとしまった。その仕草にウォルドへの不快さを感じた、というような要素は微塵もない。どうやら、この2人の間ではおよそ馴染みのあるやりとりであり、そしてそれは2人の付き合いの長さも同時に感じさせるものであった。
「一体誰のせいでこんなにも汗をかいたとお思いですか。まったく」
「ははは、それはすまないと思うけれど、それにしたってそんなに興奮していたら、身体に良くないし、それに」
「……それに」
「もっと禿げるよ」
「禿げませぬ!!!!これは、髪の毛がワシの身体の代わりに生き急いでいるだけです!!決して、決して禿げなどでは……!!!」
ウィルの放った何気ない一言に見る見るうちにウォルドの顔が赤くなっていく。語気も荒くなり、先ほど丁寧に拭き取られたはずの汗が再び額に滲んでいき、羞恥からか怒りからか、中年としての貫禄を感じさせる肉体は、わなわなと震えていた。
「殿下!!今日という今日はもう我慢なりませぬ。陛下にこのことはお伝え申し上げます。勝手にお城を抜け出されたことと合わせてです!!」
「やっ、ちょっとまってよ、そこはなんとかこらえてくれないかな」
陛下という言葉が出た瞬間、ウィルの顔が引きつっていく。
「問答無用ですぞ!」
ウォルドは取りつく島もないという感じで乱れた衣服を正すと、地鳴りでも聞こえてきそうな足取りで城へと戻っていった。
辺りの人々は何事かという面持ちで立ちすくんでいるが、そのうちの何人かはやれやれ、いつもの騒動か、といった感じで頬を緩めている。
しかしながら当事者であるウィルにとっては笑い事ではない。バツが悪そうに後頭部を掻きながら今回の言い訳を考えながら城門をくぐっていった。




