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幕間3の2

次で幕間3は終わる予定です。



よろしくお願いいたしますm(__)m

 ギルは己に飛び込んできたウィルを、今度は受け止めることはできなかった。体勢を崩したギルは、アリシアごと倒れ込み、小さな花をつけた植物が彼らの下敷きになった。だがそのおかげで、大した衝撃もなく彼らは倒れることができた。アリシアを除いては。


 ウィルが上に倒れこんできたせいで、彼女はギルとウィルの間に挟まれることになったのである。


 近隣一の美姫の口からカエルの潰れたような声が漏れた。ウィルは慌てて身体を起こし、ギルもまた、胸の上で伸びているアリシアの様子を確かめようと僅かに身体を起こした。


 アリシアは目を回していた。下敷きになっていては様子が確かめられない、とアリシアを優しく動かしたギルは、その顔を覗き込もうとしてしかし、出来なかった。姉の姿にいち早く気付いたウィルが彼の目を覆ったのである。


 目を回している姉の姿はとても見せられるものじゃなかった、と後にウィルは語る。泣いている途中で気を失った彼女は涙と鼻水と涎が顔についていたのだ。塗れるというほどではないが、それでもうら若き乙女がもつ印象を悪くするには充分な要素である。


 片方の手でギルの目を覆ったウィルはもう片方の手で懐から手拭いを取り出し、広げたそれを彼女の顔にふわりとかけた。


 数瞬の後、ギルがウィルの手を振り払うと、目の前には図らずもお腹の上で手を組んだ姿勢で横たわり、顔に手拭いをかけられたアリシアの姿があった。


 驚きにギルは目を見開いて大声をあげそうになる。


「なっ、死ん……」

「死んでないからっ!!姉さん、起きて!姉さんっ」


 ウィルはアリシアの顔を手拭いで拭い、その華奢な身体を揺さぶった。ん、と苦しそうな声を出してアリシアが意識を取り戻した。


「あら、私は……」

「ごめん、姉さん。僕のせいで」

「ウィル……?はっ!そうだ、ギル!!」


 アリシアは飛び起きると慌てた様子で辺りを見回した。ギルを視界に納めると再び瞳に涙をにじませていった。


「相変わらず泣き虫なんだな、アリシアは」


 アリシアの無事な姿に安心し、ふっ、と相好を崩したギルはあぐらをかきながら彼女に笑いかけた。笑ったギルは年齢よりも幼く見え、唇の間から覗く白い歯は一見して冷たそうに見える彼の表情を和らいだものにしていた。


「っ!!誰のせいよっ!」


 再びギルの胸に飛び込んだアリシアは、もう逃すまい、と彼の上着を握る拳に力を入れた。その小さな両手は、やはり小刻みに震えていた。


 ギルはもう一度優しく微笑むと、口を閉ざしているウィルの方を見た。

 アリシアの様子を眺めていたウィルは、すぐに苦笑を漏らすと彼の向かいに腰を下ろした。


「いきなりだったから、本当に驚いたよ。どうやって、ここへ」


 ウィルは自分が愚かなことを聞いたと言ってから気付いた。今は戦時中である。国境が封鎖されている現状、まともな手段で入ってこれる訳はないのだ。

 ギルは片方の眉をやや跳ねあげさせた。だが、何事もなかったかのようにウィルの質問に答えた。


「簡単だ。例の即席で出来上がった市場があるだろう。そこに商人の振りをして紛れ込んだ。あとはこの国へ普通に入国するだけだ。割札なんて偽造するのは造作もないからな」

「そんな大事なことを教えてもいいの」


 予想に反して呆気なく暴露したギルを心配に思い、ウィルは問いかけた。

 不安そうなウィルの表情を見てギルは大丈夫だ、と微笑んだ。


「なに、どのみち入れても一人や二人だ。知られても逃げればいいだけだし、問題ない」


 ありがとな、とギルはウィルの頭に手を乗せくしゃくしゃと髪の毛を掻き回した。

 久しぶりに感じるギルの手のひらの感触に思わず照れ臭そうに口をつぐむウィルだった。


「ウィルばっかりずるいわ」


 アリシアが二人の様子に口を尖らせた。ギルは苦笑して、アリシアの頭も撫でてやる。

 アリシアは気持ちよさそうに目を細めた。


 一頻り再会を喜んだ三人は、これまでのことを話し合った。それは情報交換であり、他愛もない話であり、夢中になる三人は時間が経つのも忘れて語り合った。


 しばらく経って、ギルは立ち上がり服についた草や花弁を払い落とした。

 さて、とそれまでの空気を変えるように声を出す。


「二人とも、そろそろ戻った方がいい」

「ギル、まだしばらくはいるんだよね?」

「ああ、明日また同じ時間に」


 そういってギルは最初に隠れていた木々の方へと歩いていった。振り返り、こちらを見つめる二人を安心させるように頷いた。

 二人も立ち上がり、頷いてギルとは反対の方向へと歩いていく。遠くの方で二人を呼ぶ声がした。いつもより遅い二人のことを心配した兵士がこちらへ向かってきているのだろう。


 見つかってはいけない、と慌てて振り返ったウィルとアリシアだったが、そこにはもうギルの姿はなく風に揺れる木々があるだけだった。

 この日から、三人の細やかな密会はしばらく続くことになるのだった。

次回、少し重い展開になると思います。


お付き合いいただければ、幸いです。

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