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第十三話 死闘、クラスマッチ 前編

「……と言うわけでこの同好会は解散になった、お前たちは直ちにこの部屋から出ろ!」

 新学期、会長が何やら怪しい事をいい放つ。

 生徒会はある同好会の解散要求に訪れていた。その同好会とはゲーム同好会、放課後部屋に閉じ籠ってTVゲームを永遠とやっている活動に、こんなのは家でやれ、それが会長の言い分だ。

「オレ達に出ていけだって? 理不尽だろうが!」

「学校でゲームなど馬鹿か! 家でやればいいだろうが! カーテンを締切り、籠ってゲームばっかりなど不潔だぞ」

「何が不潔だ! いくら会長だからって言い過ぎだ!」

 さっきからこうだ。まったく、これじゃ決着つかないよ。

「そこまで言うなら俺達とゲームで勝負しろよ! 生徒会が勝ったら解散してやるよ!」

「言ったな! ならやってやる!」

 こうして生徒会対ゲーム同好会の戦いが始まった。

「あーーでも、こっちが勝ったらどうするだよ? 解散だけは無いにしても、ここまで馬鹿にされたんだ、生徒会の女子全員、俺達が勝ったら服を脱げ! 恥ずかしい写真を撮ってやる!」

「「な、なんだって!」」

 副会長と俺はまったく同じタイミングで叫んだ。こっちが負けたら会長と皆川先輩と……姫ちゃんが服を脱がされるだと!

 ふざけるな! こんなのは無しだ! もし負けたら……。

「いいだろう、ならわたくし達が勝ったらお前達は裸で校庭を走れ!」

「望むところだ!」

 勝手に決めちゃった。どうするんだよ一体。会長はこっちにやって来る、なんだか余裕な顔で。まさか、会長はゲームが得意なのか? そうじゃなかったらあんな台詞は出無いもんな。

「会長、ゲーム得意なんですか?」

「ふははは、まったくやった事が無い!」

 しばし沈黙、それってさっきの台詞は単なる強がり?

「ちょっと会長、どうするんですか!」

「なんとかなるんじゃないか? わたくし達は防衛生徒会だぞ?」

 防衛生徒会だからってなんの意味があるんだよ。会長は一人一人にゲーム経験を聞いていた。

 まず副会長。

「ある程度、としか言えませんね」

 ある程度ってどれくらいなんだろう。

 さて次は皆川先輩。

「私は普段まったくゲームしないから……あ、一年生の時、しゅーとデートした時にちょっとやったよ! あの時はね初めてのデートでね……」

 会長が睨んでる。また彼氏を持ち出しやがってと思ってそうだ。

 次は姫ちゃん。

「えっと……ボクのお姉様が持ってたので、少しだけですがやりました。そのゲームは外を歩いていると、魔物さんが出て来るんです、それを退治しちゃうゲームでした。ボク、初めからやって最初の魔物さんに倒されちゃいました」

 それってRPGだよな? 最初の魔物ってめちゃめちゃ弱い奴に負けた? 普通は有り得ないんだけどな。姫ちゃん、ある意味すごい。

 さて、最後に俺。

「まぁ普通ですね、一応得意なのはレースと格ゲーです」

 これは平均的にやばい。こんなのでゲーム同好会に勝てるのか? 向こうはやり込んでる連中なのに。

 ああ、こんな時にめいがいてくれたらな。あいつはゲームの腕はプロ級、こいつらといい勝負をするに違いない。

 会長がどんな感じに勝負をするのかを質問をする。

「そっちは5人だから……こっちも5人出そう、勝ち抜き戦でどうだ? 大将を倒したら勝ち」

「ふむ、良いだろう」

「ゲームはそっちで選んでくれていい、ま、ハンデ?」

 今の言葉に会長がキレた。「絶対に勝つ!」と怒り爆発で同好会を睨み付けた。数人悲鳴上げていたな、会長に睨まれるとまじで怖いからな、気持ち分かるよ。

 ゲームの順番を話合ってその結果、最初は姫ちゃんが行くことになった。

「あぅ、が、頑張ります!」

「姫ちゃん頑張って」

「はい、かなめさんが応援してくれるなら、鬼さんに金棒です!」

 さて、姫ちゃんは大量にあるゲームの中から選んだのは可愛らしいネコの育成ゲームだった。ネコを育てるゲームだ、対決には不向きだと思うがどうやって戦うんだ?

 相手が説明してくれた。

「ネコを育ててゲーム内時間の一週間後、ネコの可愛らしさを競うコンテストがある、それに出して順位を競う」

「が、頑張ります!」

 等々ゲーム対決が始まった。画面には可愛らしいネコがいる、いろんなボタンを押す事で餌をやったり、猫じゃらしで遊んだり出来るゲームだ。

「わぁ~、可愛らしいニャンコさんです! 名前は……『犬』さん!」

「……ポチの時と同じ発想か」

 ゲーム内の時間が経過するのは早く、数分でもう三日目、姫ちゃんは可愛がったり、ネコをくすぐったり、一方対戦相手はコントローラーを動かす手が早い。

 ネコの可愛いしぐさを見ずにさっさと先に進めて行く、そんなプレイで面白いのだろうか?

 そしてゲーム内の一週間後、コンテストに参加させ順位が決まる果たして結果はどうだったんだ?

「俺が第二位」

「ボクは……あは! 一位です!」

 なんと姫ちゃんの勝ちだ。どうやらこのゲームは彼女にあっているらしい。

「……このゲーム欲しいです」

「姫ちゃん、今度俺がプレゼントするよ!」

「え! 本当ですか? ありがとうございます!」

 姫ちゃんが俺に抱き付いて来た、ああ、幸せだな。おっと、なんだかみんなの目線が怖い。

 取りあえず一人撃沈、残りは後4人。次の対戦相手はゲームを変更して来た、それは車のレースゲーム、姫ちゃんじゃ勝ち目がない。

「わわわ! ひゃう! 壁にぶつかっちゃいました!」

 撃沈、瞬殺だった。

「次は誰だ? かかって来いよ」

「ぐっ、柳刃を殺ったからと言って調子に乗るなよ? 後藤、レースが得意と言ったな、コテンパンにしてやれ!」

「次は俺か……」

 確かにこのレースゲームは過去にやった事がある。だが、相手はこのゲームをやり込んでいる様だ、果たして勝てるだろうか?

 そんな事を考えていると、いきなり部屋の扉が開き見知った顔が現れた。

「お~す……って、あれ? 何してるんだ?」

「あ、しゅー!」

 現れたのは皆川先輩の彼氏、佐波峻だった。何故ここに来たんだろう?

「しゅー、どうしてこんなところに来たの?」

「ここの同好会の奴等とは仲が良くてさ、時々ゲームさせてもらってるんだ。で? まこちゃん達は何してるの?」

 理由を皆川先輩が話始める。

「……マジで? ここは俺の憩いの場所だったんだけどな……まぁ仕方ないか、同好会に味方したいけど、まこちゃんは生徒会だからな、こっちを応援する。それに恥ずかしい写真を撮らせてたまるか」

「本当! ありがとうしゅー!」

「「裏切り者!」」

 峻先輩はゲーム同好会から非難されていた。だがひるまない、皆川先輩のために裏切った。

「で? 今どっちが勝ってるんだ?」

「一勝一敗だよ、でも私達あんまりゲームしないから苦戦してるの」

「そっか……じゃあ勝負に勝つ良い方法を教えるよ」

 勝負に勝つ方法? そんなのがあるのか? これを聞いた会長が興味を示し、峻先輩に語りかける。

「佐波、それはどんな方法だ? わたくし達は早くこんな茶番を終わらせてクラスマッチの事を体育委員と話し合わねばならないんだ」

「分かった、教えるよ勝利の鍵はまこちゃん、君だ!」

「……はい?」

 勝つ方法が皆川先輩? 確か先輩はゲームはあまりやらないと言ってたぞ?

「だまされたと思って俺の言うことを聞いてみろよ、勝ち抜き戦なんだろ? なら大丈夫」

 皆川先輩本人が戸惑っている中、会長がその提案を了承してしまった。こんなに自信満々で言っているのだから大丈夫だろう、これが会長の言葉。

「え? 私?」

「大丈夫、俺を信じてくれ」

「……分かった、しゅーを信じるよ」

 こうして俺に代わり、皆川先輩が勝負に出た。本当に大丈夫だろうか? 心配な限りだ。

 そしていよいよゲーム開始、その瞬間、皆が唖然としてしまう。

「えっと、このボタンがアクセルで……これがブレーキ……あ! 始まっちゃった! えい!」

「な、何!」

 同好会の全員が驚愕した、車のスタートで先輩がいきなりトップになったからだ。

「ロケットスタートだと? あいつより速いとは、あの女やる!」

「馬鹿な、ロケットスタートならあいつが一番速いはずなのに!」

 と、同好会が驚き声をあげている。あれ? 先輩ゲーム上手いな。

「まこちゃんの特技って言うのかな、一年の時デートした時なんだけどなクレーンゲームやった事無いって言うからやらせてみたら一発で人形取っちまった。まさかと思っていろんなゲームさせてみたらすべて達人並の実力だった。意外にもゲームの才能があったんだよ、本人は気が付いて無いけど」

 確かに意外だ。

 その後、皆川先輩はあっという間にレースに勝ち、次々と対戦相手を圧倒。まさか、ここまで凄いとは。

「……あれ? また勝っちゃった……はぁ、なんだか疲れちゃったよ、ゲームって目が疲れちゃうんだね、もうやりたくないよ」

「くそ、部長の俺がこの女に厳しさを叩き込んでやる!」

 とうとう最後の相手、だが皆川先輩のテンションが下がってしまった。普段からゲームをしない人みたいだから疲れてしまったんだろう。どうしよう、負けてしまったら。

「仕方ない、まこちゃんのテンションを上げるしかない」

「何か良い方法があるんですか?」

「任せとけよかなめ、ようはまこちゃんが楽しいと思うゲームにすれば良いんだろ?」

 峻先輩は次の対戦のゲームを選んだ。そのゲームは専用の銃で画面に出て来るゾンビを倒すシューティングだった。

「何これ! ゾンビ?! これを倒して行くの? こんなゲームがあるなんて!」

 皆川先輩はオカルトや恐いものが好きだ。それを刺激するゲームにしたのか、それは良い考えだ。先輩のテンションが上がって行く。

 勝敗方法は、ゲームの1ステージで倒したゾンビのポイントで競う。いっぱい倒して高得点を出せば勝ちだ。そしてゲームスタート。

「こんな女に負けるか!」

 さすがは同好会部長、なかなかの高得点、自信満々に皆川先輩を見つめる。

 次は皆川先輩、ゲームが始まる。やはりすごかった。ゾンビをどんどんと瞬殺していく。

「あははは! ゾンビの頭が吹っ飛んだ! これ楽しい!」

「み、皆川がグロイ映像を見て笑っている……」

「まこちゃんはさ何故か恐い映画を見ると笑っちゃうんだよね」

 なにそれ、ある意味怖い。笑いながらゾンビを撃ち殺している先輩に引きつつゲーム終了、結果はどうなったんだ?

「勝者皆川! わたくし達生徒会の勝ちだ! どうだ恐れ入ったか!」

「ちくしょーーう!」

 先輩の圧勝だった。すごい、ゲームの達人と言えるよマジで。

 皆川先輩はゾンビのゲームが大変気に入った様で、まだやっていた。とにかく姫ちゃんの恥ずかしい写真を阻止出来ただけでも喜ぶべきだ。

 ゲーム同好会は解散、涙ながら部員達が去って行く。

 一仕事を終えたが、気になるのは明日は全校クラスマッチ、だが肝心の種目が決まっていなかった。会長が何かを考えている様だが、嫌な予感がするのは気のせいか?

「よーし、今日はこれで解散だ。皆、明日のクラスマッチに向けて身体を休めとけよ」

「会長、明日何をやるんですか? 教えてもらわないと困りますよ」

「ふふふ、後藤、それは明日の楽しみだ、明日になれば分かる……政史、体育委員会の奴等と話合いに向かうぞ?」

 と言ってすぐに出て行った。ま、取りあえず帰るか。

 皆川先輩と峻先輩も帰って行った。腕を組みながら。

「あ、あの、かなめさん、ボクも……腕を組んでも良いですか?」

「へ? い! う、うん! もちろん……」

 俺の腕に彼女の腕が交差する。恥ずかしさと嬉しさが混じり合い、妙な感情を覚えた。

 そのまま下校する事になる。何だか周りの視線が気になるが、でもそんなのはいい、こうして二人で歩ける事がたまらなく嬉しい。

 少しは皆川先輩と峻先輩の気持ちが分かった様な気がする。

「かなめさん、今度家に遊びに行って良いですか?」

「うん、いつでも歓迎……あ!」

 家、そこにはあいつがいる。彼女を作らせないと言っていたあいつ、そう、姉の後藤まりあだ。姉貴をどうにかしないと家に来た瞬間に姫ちゃんが危険な目に!

「かなめさん? 顔色が悪い様です、どこか具合が悪いんですか?」

「へ? い、いや、なんでもないんだ、あははは!」

 姉貴か。さて、どうしたものかな? まったく弟離れ出来ない姉貴にも困ったもんだ。

 そんな事を考えながら、夕焼けの中を進んで行った。

「明日はクラスマッチ、一体会長は何をするのか不安だね」

「不安ですか? ボクは楽しみです、まるで中に何が入っているか分からないおもちゃ箱の様に、明日は何があるのかわくわくが止まりません!」

 不意打ちだ、彼女が満開の笑顔を見せてくれた、何て可愛いのだろう。

 こうしていると、本当に彼女は俺の恋人なのかと馬鹿な疑問を持ってしまう。こんなに可愛くて、綺麗で、神秘的な彼女が俺なんかの恋人でいいのか? と考えてしまうんだ。

「……馬鹿だな俺」

「え? 何か言いましたか?」

「あ、いや、こっちの話だよ」

 馬鹿な考えは捨てなくては。こうして目の前に彼女はいる。俺の恋人として、彼女はいるんだ。疑う方が馬鹿だ。

「そうだ、今度の休みどっかに行こうよ、その……デートだね、良いかな?」

「はい、OKです。……あ、あの、かなめさん、お願いがあるんですけど、良いですか?」

「お願い? 何? なんでも聞くよ!」

「えっと、かなめさんはいつも優しく話しかけてくれますよね? 例えば、これは綺麗だね、とか、これはこうだよ? とか優しい口調で言ってくれる。ボクを本当にいたわってくれて本当に嬉しいです。でも、ボクはかなめさんが家族や友達と話す様な口調で接して欲しいんです。これはこうだ、これは旨いだろ? とかです……そうされるとかなめさんとの距離が近くなった様に感じる事が出来ます。かなめさんの家族や友達と同じ大切な存在になれる気がするんです……ダメですか?」

 彼女が大切だから優しい口調で喋ってた。でも彼女は家族や友達と話す口調で話して欲しいと願っている。そんな事を思っていたなんて、全然気が付かなかったな。

「分かった、そう喋る様にするよ……あ、喋る様にする、これでいいか?」

「はい! とっても嬉しいです!」

 本当に喜んでくれている、家族と接する様に、友達と接する様に、彼女は願ったんだ。

 夕日に染まった道を二人で下校、彼女は明日のクラスマッチを楽しみにしながら。





 翌日、いつもの様に目が覚める。見慣れた天井が視界に入り込んで起きたと実感した。

 起き上がろうとしたら身体が動かない、それに重りを乗せられた様な感覚。ああ、今日もか。姉の後藤まりあが俺の上に乗っかって抱き付いていた。

「ふに~、かなめちゃん、あったか~い」

「……姉貴重い、取りあえず俺の上から降りようか?」

「いや~! この場所はまりあのもの、かなめちゃんとのスキンシップサイコー!」

 動けない、姉貴は両腕で俺をがっちり抱き締めているから身動きが取れない。意外に力がある。

「楽しそうだね兄さん」

「めい! いつからこの部屋に……ってのはどうでもいい、姉貴をどうにかしてくれ!」

「……あたし、今すごく欲しい物があるんだけどな~、あるんだけどな~」

 ちゃっかりしていやがる。仕方ない、これでは遅刻になっちまう。

「わ、分かった、何とかしよう」

「うふふ、兄さん大好き! 交渉成立!」

 ちくしょう、またいらない出費が出ちまった。

「早くしてくれ! 今日は早く登校しなくちゃならない!」

「分かった、分かった」

 でもこんなにガッチリしがみついているんだ、めいだけでなんとかなるのか?

 めいは姉貴の側まで近付くと、耳元で囁く。

「姉さん知ってる? 兄さんに彼女が出来たらしいよ?」

「ふに~? かのじょ~? ……え? かのじょって、彼女の事なの? か、かなめちゃんに、か、かかか彼女ぉ!?」

 そう叫んだら俺を解放し、バタリとベッドから落ちて固まっていた。文字通り、身体が固まったまま何かを呟いていた。

「かなめちゃんに彼女……かなめちゃんに彼女……かなめちゃんに……」

「ほら、なんとかしたよ?」

「なぁめい、お前にまだ話して無いのにどうして知ってんだ?」

「えっへへ、聖羅会長から聞いた!」

 会長め、いつの間に。おっとこうしてはいられない、早く行かないと遅刻しそうだ。姉貴は……あのままでいいか。俺は急いで着替え部屋を後にした。

 急いで朝飯を食べてから家を出る。これは走らないとまずい、朝から走るなんて本当にツイてない。

 数分、無事に何とか遅刻を避けられた。今日はクラスマッチは体育委員と準備をする事になっているのだが、肝心の種目がまだ分かっていない、何を準備するのやら。

 取りあえず集合場所の体育館に向かう、するともう何人も体育委員が集まっていた。

 その中に生徒会メンバーを見つける、会長以外。

「あ、かなめさーん! おはようです!」

「おはよう姫ちゃん、俺遅刻?」

「大丈夫です、ボクも今来たところですから」

 会長以外はみんないるな、どこに行ったんだ会長?

「会長は体育委員長と委員を数名呼び出してどこかに行っています」

「副会長、会長が何をするのか知ってますか?」

「さあ? 私にも教えてくれませんでしたよ」

 不安だ、目茶苦茶不安だ。

「ふぁ~……眠い」

「皆川先輩眠そうですね」

「うん、ものすごく眠いのよ。深夜に面白そうなホラー映画やってて見終わったらもう夜中の三時過ぎてた」

 さすがはホラー好き、明日は早いのに見てしまうとは。

 会長を待っていたその時、誰かがこっちに駆け寄って来た。それは女の子、えっと確か……。

「かなめさま! おはようございます! 春菜……あ、“私”です! 川上春菜です!」

「あ、春菜さんです、おはようございます」

「うるさい! 春菜はかなめさまに挨拶してるの! 邪魔しないで柳刃誠十郎!」

 思い出した、姫ちゃんの友達の川上春菜さんだ。どうやら体育委員だったらしい。だが疑問がある、なんで俺をかなめさまって呼ぶんだ? 

「かなめさま、今日は頑張りましょうね!」

 そう言って腕に抱き付いて来た。咄嗟だったので訳が分からず混乱していた。

「い! あ、あの……」

「離れてください!」

「うるさいわね、良いでしょ? 柳刃誠十郎、あんたに止める権利があるの?」

「あ、あります! かなめさんはボクの恋人さんですから!」

 姫ちゃんの声が体育館全体に響いて行き、この場に居た全員が一斉にこっちを見つめて来た。

 は、恥ずかしい。体育委員の女子達はキャー、キャー言ってるし、男共は俺を睨んでる。恐い。

 川上春菜さんは今の叫びを聞いた途端にピクリとも動かなくなった。あれ? 今朝、同じような光景を見た様な。

「う……嘘だ! かなめさまがこんな女に! 絶対嘘! そうですよね、かなめさま?」

「えっと……本当だけど……」

「ボクは嘘は付きません! かなめさんはボクの恋人さんです! だから、かなめさんに触っちゃ駄目です!」

 彼女からそんなセリフを聞けるなんて、俺って幸せ者だ。でも、何で川上さんはショックを受けてるんだ?

「……ま、まだ終わりじゃ無いわ! 柳刃誠十郎! かなめさまを賭けて勝負よ! あんたから取り上げてやる!」

「駄目です! かなめさんは渡しません!」

「あはは、後藤くんモテモテだね!」

「からかわないで下さいよ皆川先輩!」

 姫ちゃんがいつに無く真剣な表情、対する川上さんも恐い表情だ。このままじゃ激突は免れないのか?

 心配をしていると会長達が戻って来た。その手に段ボール箱を持って、何が入ってるんだろう。

「ん? 喧嘩か? 今からある物を配るぞ? 今はやめておけ、大丈夫だ、どうせ“後から殺り合う事になるんだからな!”」

 会長の謎の言葉、後で殺り合うだと? またろくでもない事を考えたな。取りあえず二人の喧嘩は止まったのだが、川上さんが俺の左腕にしがみつき、姫ちゃんが右腕に。

 傍から見れば天国を味わう男、俺から見れば……。

「離れてください! ひっつき過ぎです!」

「春菜の勝手よ! かなめさま、春菜の胸おっきいでしょ?」

 腕に川上さんの胸の感触が。

「誘惑しないでください!」

 と言いながら姫ちゃんの感触も、すいません、俺から見ても天国でした。

「何やってるんだ後藤! 鼻の下を伸ばすな! まったく……こほん、体育委員は“これ”を持ってクラス全員に渡してくれ、これが今回のクラスマッチには欠かせないからな。よし、解散しろ! 後の事は放送で知らせる」

 これ? 何かを体育委員に渡しているな。って言うか、本当に何をするんだよ!

 ここにいても仕方が無いので教室に戻る事になった。体育委員は何を受け取っているのだろうか? ま、クラスに戻れば分かるだろう。

「えっと、二人とも、取りあえず離れようか? 川上さん、体育委員でしょ? 姫ちゃん、いつまでくっついてるんだ?」

「あぅ、ごめんなさいです……春菜さん、続きはまた今度です」

「望むところよ柳刃誠十郎! 絶対にかなめさまを奪い取ってやる! かなめさま、また今度!」

 と言いながら自分の仕事に戻って行った。姫ちゃん、今またって言った? つまり、近いうちに今の様な状況になると?

「かなめさん、また後でです! あ、良いですか? 春菜さんが来ても知らんぷりして下さい、お願いですよ?」

 少し頬を桜色に染めて彼女がそう囁く。やばい、可愛い。

 ポニーテールをなびかせて自分の教室へと戻って行った。背中が見えなくなってから俺も自分の教室へ。

 教室に戻って自分の席へ。さて、問題は何をするのかが分からない事だ、これは俺だけの疑問では無いはず。

 同じ疑問を持った俺の親友、上原太一が話しかけて来た。

「かなめ、今日は一体何をするんだよ? 会長がやる種目を決めるんだろ?」

「俺も知らないんだ、たく、会長は何を考えているんだか」

 ま、こんなところで話し合っても分かる訳が無い。放送を待つほうが懸命だろう。

 それから数分後、ようやく会長からの放送が学校中に流され始める。

『……えっと、ルールを書いた紙は……あった、放送委員、このマイクに喋れば良いのか?』

『会長さん! 放送入ってますよ!』

『何! ……ゴホン、生徒会会長の宝条院だ、これから全校クラスマッチの種目とルールを説明する、心して聞く様に!』

 最初の放送は無かった事にしたな? まあいい、やっと種目が分かる訳か。

『さて、その前に体育委員はみんなに例のアレを配ってくれ』

 体育委員が何かを配り始める。それが俺の手に置かれた時、妙な顔をするしかなかった。

「……紙風船?」

 手の平りあったのは紙風船とヒモと真っ白なメモ用紙一枚だった。なんだこれ、これでクラスマッチをするのか?

『全員に行き届いたか? それでは発表しよう、今回のクラスマッチは……バトルロワイヤルだ!』

 はい? とクラス全員が疑問を頭に浮かべる。バトルロワイヤルって、みんなで戦うってやつの事?

『ルールを説明するぞ? 今配ったメモ用紙に自分のクラスと名前を書いてずっと持っていろ、そして紙風船を膨らませて、ヒモを使って頭に結び付けろ、それがお前達の命だ。どんな手段を使っても良い、エアガンで狙うも良し、竹刀で叩き破るのも良し、要は紙風船を破れば相手を殺せる。無論、破られてしまえば死だ。負けた奴は今書いたメモ用紙を勝者に渡す。最後まで生き残れたら賞品をもらう事が出来るぞ? 倒してきた相手に命令が出来る! とったメモに書かれている奴は絶対に命令を聞かなくてはならない。今の時刻が8時45分、開始が9時から終わりは3時まで戦え! 3時まで生き残れたら勝利だ! 今回は個人になるためにクラスマッチとは言えないが、まぁいいだろう、諸君の健闘を祈る』

 放送終了、その直後クラス全員が騒がしく話が飛び交う。

 つまり3時まで生き残れば言い訳だ。いつもながら、会長はとんでもない事を思い付く。

 でも、今回は何だか面白そうだ。

「かなめ、お互い最後まで生き残ろうぜ! 俺は運動神経が良いからななんとでもなる」

「頑張れよ……って、人事じゃないな」

 取りあえずここから離れて、人気の無いところへ行こう。バトルロワイヤルがスタートしたときにここにいると、みんなの標的にされるのは目に見えている。

 急いで教室を後にし、あても無く移動して行く。さて、武器をどうするかな。紙風船を膨らませ、さっき教室からもらって来たセロハンテープを少しちぎりヒモに付け紙風船にくっつけた後、頭に縛る。

「ビジュアル的には間抜けな格好だな」

 などと言っていると、保健室に辿り着いた。保健の先生は職員室にいるはずだ、鍵もかけられるし、ここに逃げ込もう。

 扉を開けると、誰もいない様子、サッと入り扉を閉め鍵をかけた。ここにずっといると言う手もあるな、だがさすがに卑怯か?

 どうしたものかなと考えていると、チャイムが響き渡る。保健室の時計を見ると9時、等々始まった様だ。

「取りあえず武器になりそうなものは無いかな?」

 武器を見つけるために辺りを探そうとした時だ、今までカーテンで仕切られていたベッドから誰かの声がする。まさか、俺と同じ考えの奴が先に来ていたのか? ベッドから声が聞こえて来る。

「そこにいるのは誰だ~?」

 女の声、あれ? この声に聞き覚えがあるな。

 声の正体に気が付いた。俺のクラスの担任、竹下優美先生の声だ。でも、なんでここに?

「先生ですか? 何してるんですか?」

「ん~? この声は……後藤だな? 嫌な、昨日飲み過ぎてな、朝の職員会議をサボってたんだ!」

 あんた、本当に教師か?

「それで? ここで何しているんだ? 鍵も閉めただろう、まさか私と禁断の……」

「訳分からないですから! 俺はバトルロワイヤルでここに逃げて来ただけですよ」

「そうか、なら都合が良い」

 都合が良い? カーテンを開くと同時に理解した。

 先生の頭に紙風船がある。まさか……。

「それは! まさか先生も?」

「ああ、昨日会長にルールを聞かされて紙風船をもらったのだ。ふふふ、後藤、私のために死んでくれ!」

「せ、先生、待って下さい!」

 ジリジリと俺に近寄って来る、先生は背中に手を回し、何かを取り出した。それはチョークだ。ん? チョーク?

「先生、そのチョークは?」

「あはは、私の武器よ!」

 叫んだと同時にチョークを投げ放つ。狙いは俺の紙風船、狂い無く突き進む。咄嗟にしゃがんでそれを回避、助かった。

「ちっ、避けたか」

「あ、あの、話し合いましょうよ!」

「あはは! こんな面白そうなおもちゃをいじめないでどうするのよ!」

 先生ってSなのか? 嫌らしく笑っている。何か危ない人だ。

 何とかして逃げないと。手は無いか?

「せ、先生! 彼氏とは上手くいってるんですか?」

「え? 聞きたい? 実はね、この前彼がすっごいサプライズしてくれたの! もう、あいつったら生意気よ!」

 自分の世界に入り込んだ様だ。独り言を顔を赤くして言っている。

 このスキを見逃してなるものか。ゆっくりとドアへ。そして鍵を開けた。

 すると、顔の横を何かが霞める。それはチョーク。

「後藤、どこに行く気だ!」

 ヤバイと直感し、扉を開け逃げ出した。だが、先生が追って来る。

「ひぃいい! 先生怖い!」

「あはは! 虫を追いかけてるみたいで楽しい~!」

 逃げている途中、窓から外の風景が飛び込んで来る。生徒達が死闘を繰り広げている、ある者は素手で、ある者は石を投げたりと、なかなか見ていて楽しい。

 だが、今はそれどころじゃない、後ろに迫るSな教師をどうしようかと懸命に考えていた。

「ちくしょう、助けて~!」

「あはは! 可愛い声で鳴くじゃないか後藤、先生に命をくれ!」

 これB級のホラーが目の前であっている感じだ。

 どうする? 考えろ。

「そうだ、姫ちゃんだ!」

 剣道の達人、姫ちゃんとペアを組めば生き残れる確率がぐんと上がる。

 なんだか女の子に守ってもらうって男として情けないが、俺に戦闘経験は皆無だし。

「姫ちゃんはどこ……」

 視界が回転する。そして痛み、ヒンヤリとした地面に倒れてしまった。こんな時に転ぶとは。

「後藤、覚悟しろよ?」

 もうダメだ、起き上がって逃げる時間は無い、仁王立ちする先生、何故か頬を赤らめ、はぁ、はぁ言ってるよ。危ない人だ。

「あはは、さて、食らえ!」

 先生の手からチョークが放たれる。紙風船を狂い無く狙われた。

 だが、チョークは目的地に付く前に粉々となる。何が起きたのか、誰かがチョークを叩き落としたのだ。

 そこにいるのは俺が今一番会いたい人物。

「姫ちゃん!」

「大丈夫ですか、かなめさん?」

 木刀を装備した俺の彼女、柳刃誠十郎が目の前に立っていた。あの木刀でチョークを叩き落としたんだ。

「お前は、二組の柳刃! 邪魔をするな!」

「先生、覚悟です」

 チョークの連続攻撃、それはマシンガンの様に次々と放たれた。姫ちゃんも負けて無い、木刀ですべて弾く。その光景はまるで映画の様だ。

「かなめさんに酷い事する人はいくら先生でも許せません! 柳刃流剣術、瞬殺!」

「な! なんだこの動きは!」

 体勢を低くし、一気に先生の懐へと急接近、木刀で紙風船を突いた。それはまさに一瞬、紙風船は見事にバラバラとなっていた。

「勝負ありです、さ、メモを下さい」

「ちくしょう! 生徒全員を奴隷にしようと思ったのに!」

 そんな危ない事を考えていたのか! 良かった、ここで消えてくれて。

「かなめさん……」

「ありがとう、助かった、良く来てくれた、姫ち……」

 シュンと何かが顔を通り過ぎる。なんだ? それは木刀、姫ちゃんが俺に牙を向いた、嘘だろ、一体どうして。

「これはどう言う事だ! 姫ちゃん、まさか俺を……」

「か、な、め、さん、おとなしくして下さいね? 本当はかなめさんを守りたかったです……でも今朝、会長さんに言われたんです、かなめさんをボクが助けては、ふぬけになってしまい男になれないと言われました。だから心を鬼にしてかなめさんを全力で倒します! 覚悟です! 倒すのも愛です!」

 会長の馬鹿たれーー! 一番の味方が、最強の敵になっちゃったじゃないか!

「ごめんなさいです、さぁ、倒されて下さい、これも試練です!」

 今まさに木刀を振り下ろそうと、彼女は俺を見下ろしている、まさか、こんなに早く終わってしまうのか? それも最愛の相手から。

 木刀が落ちて来る。


 

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